第10話 バフ魔法

〈sideルーク〉




 フィールが可笑しいんだ、僕が可笑しいんじゃない。僕は一般人なはずなんだ。そんなことを自分に言い聞かせる僕だが、事実が変わるわけではない。




「何を考えているのかは分かりませんが、私くらいはありますよ」




 えぇ⋯⋯。あれでしょ、龍脈くらいの魔力量があるんでしょ。そんなのは人間じゃないよ。実際に龍脈と呼ばれるものがどれだけの力を持つのかは分からないが、それが途方もないような量であることに変わりない。




「⋯⋯それは多いのかな?」




 一縷の望みにかけてそんなことを口にするが、まあ、結果は見えてる。




「まあ、異常と言われる私と同じですので、一般的に見ればとてつもなく大きいものかと」




 あっけなく否定される可能性。分かってはいたが、まあそうなるよなぁ。




「だよね⋯⋯」




 それが事実であるなら受け入れるしかないなと、僕は思考を切り替える。




「はい。受け入れるしかありません」




 フィールはそう言って、会話を区切る。




「⋯⋯とはいえ、今から魔法について説明すると時間がかかりそうですね」




 フィールは少し思案した後そう口にする。まあ、基礎から教えないといけないってことになるからな⋯⋯。そうなるのも仕方がないのかもしれない。




「⋯⋯そうだね」




 一応貴族としての教育を受けてきた僕としては、学力がない的なことを言われてショックを受ける。フィールの中の常識と比べてだから当然なのかと自分に言い聞かせる。




「⋯⋯ひとまず、しばらくは説明になるので歩きながら出大丈夫です」




「了解。じゃあそうしようか」




 今は、ここでずっと道草を食っている場合ではないだろう。早めに離れなければ僕らがどんな目に合うか⋯⋯いやフィールは無事に済むかもしれない。僕の見た中でフィールほど規格外な存在はいなかったような気がする。






 それから僕は歩きながら魔法について説明を受けた。ところどころ分からないところもあったが、しっかりと説明されていたので全く分からないわけではなかった。




「では、魔法を実際に使ってみてください」




 ある程度説明を受けた僕はそう言われて、今まで解説されたことを実践してみることになった。


 以前の説明通りに、僕は魔力を変質させ、水を浮かべる。その水に直接変質中の魔力のエネルギーを使って球体に抑え込む。そして、そのエネルギーのバランスを調整して、向こう側に飛ばす。




「はい。それが私の使う魔法です」




 これがフィールの使う魔法か。確かに以前の魔法と比べると魔力消費が少ない気がする。⋯⋯気がする程度の変化だが⋯⋯。この魔法を使ったからと言ってフィールほどの戦闘能力が手に入るとは思えない。




「一つ聞きたいことがあるけどいい?」




「はい、どうぞ」




 ふと僕は気になったことがあり、そう声をかける。フィールの言うように僕の魔法をものを作る魔法だとしよう。そうすると、バフ、デバフ魔法とは何になるのだろうか。何を作り出せば身体能力が向上するのか、疑問がある。




「バフ魔法っていうのは何になるの?」




 そう聞かれたフィールは首をかしげる。少し考えてから、




「バフ魔法って何を示すのか分からないので何とも言えません」




と答えた。フィールが知らない魔法の種類ということか、唯一僕の勝った部分な気がする。




「えっと、身体能力を強化する魔法かな?」




「なるほど。身体能力の強化となると、念動力に近いものでしょうか。マスターの魔法で言えば、空気で体を押しているものだと思います」




 ⋯⋯なるほど。バフ魔法と呼ばないだけで分かっているのか。フィールの知らない魔法かと思って少し驚いたのだけど。




「⋯⋯おそらくこんな魔法だと思うのですが」




 フィールがそう言った瞬間、僕の体が押し出されるような感覚に襲われる。それに対応できず、僕は地面に倒れこむ。




「あ、すいません。おそらくですが、これを動作に合わせてやっているのではないかと」




 ⋯⋯なるほど。確かにこの方法なら自分の限界を超えた身体能力を瞬間的に出すことができるだろう。ただ、僕の魔法はそれとは違う。瞬間的ではなく継続的に強化するのだ。地面に倒れこんだまま僕はそんなことを考える。




「多分、僕の魔法とは違うと思うよ」




 僕はすっと立ち上がり、そう言葉を口にする。以前、魔法を教わった時にかけられたバフ魔法は似たような、とはいっても倒れこむほどではなかったけど、今フィールの使ったような魔法だったような気がする。⋯⋯というか、自分で自分にバフ魔法をかけるといった状況になることが今までほとんどなかったから、実際に違うのかは分からないが、こんな押し出されるような魔法をシーザーとかにかけていたら怒られていたような気がする。




「そうですか。では私にかけてみてもらうことはできますか」




 フィールは僕の言葉にこう言葉を返した。予想が違っていても特に気にした様子はない。




「分かったよ。やってみるけど、最初はあまり効果が出ないんだよね」




 僕は苦笑気味にそう言う。


 僕のバフ魔法はなぜか最初は効果が高く出てこない。使っているうちにだんだんと効果が出てくるという変な魔法だ。今までは特に気にしてはいなかったけど、今考えると不思議なものだなと思う。


 僕は今までやってきたようにフィールにバフ魔法をかける。




「⋯⋯なるほど」




 フィールは軽く体を動かしながらそう口にする。僕はそんなフィールに魔法をかけ続ける。フィールの使った魔法のように一瞬だけ魔法をかけるのではなく連続的に、魔法を維持する。




「⋯⋯率直に言っていいですか」




 フィールは一言層前置きをして、僕に言葉を告げる。




「はっきり言ってこの魔法は気持ちが悪いです。間違いなく私にはできません」




 と、そう言葉を口にするのだった。


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