第11話
「馬車旅で疲れてないか?」
「大丈夫です! むしろずっとカイル様と一緒に居れて幸せです!」
「それは良かったよ」
「で、でもご挨拶というのはき、緊張してしまいますね」
俺もエミエラの家に行く時はかなり緊張したので気持ちは分かる。
まあ、うちの両親は好きな相手と結ばれろというタイプなのであまり障害になるような事はないはずだ。
前は盗賊に襲われたりしたけど今回は何も無く辺境の我が家に帰ってこれた。
「あばばば、は、初めまして、カイル様をお嫁に貰います、エミエラ・カルトバーグと申します!!」
「お嫁に貰うのは俺だから……慌てすぎだよ落ち着いて話せばいいから大丈夫」
「そ、そうでした」
街に入るとエミエラの緊張がピークに達したのか壊れたおもちゃのように同じ言葉を繰り返している。
落ち着かせようと背中をさすると顔を真っ赤にして慌てふためく。
何この可愛い生き物めっちゃ可愛いんですけど。
「あわわわわわわわ」
「エミエラ……そろそろ落ち着こう」
「わたし、わたくし、うち、わっち」
「ダメだ……完全に壊れてる、セスどうしたらいいと思う?」
「ご両親と会えば多少はマシになるのでは無いかと」
「逆にパンクしたりしない?」
「……ご両親なら笑ってくれるのではないでしょうか」
「それもそうか」
うちの両親ならこんな状態の婚約者を見ても逆に好感度が上がりそうなレベルで自由なのだ。
とりあえず連れて行ってみよう、当たって砕けてもらっても困るがここで止まっていても時間が過ぎるだけだ。
「ちょいと失礼」
「あばっ、キュウ」
「……とりあえず休ませるためにも屋敷に連れていくか」
エミエラを連れていくために抱き抱えると真っ赤だった顔に加えて目がぐるぐると回り始めた。
抱き抱えて屋敷に入ると両親が出迎えてくれた。
しかし、今のこの状況、大変両親に見られると気まづいのである。
「あらあら」
「カイル……とりあえず話は後で聞こう」
「あ、ははは」
両親の目が痛い……
俺はとりあえず自分の寝室にエミエラを寝かせて両親の元へ戻ると生暖かい視線が俺を包んだ。
どうやって言い訳しよう……
「息子が王都に行ったと思えば公爵家と婚約してきた……流石に話を聞いた時は頭を抱えたぞ」
「その、すみません」
「ふふ、カイル、ちゃんとあの子のことが好きなの?」
「うん、母さん、俺はエミエラがちゃんと好きでここまで連れてきたんだ」
「そう、なら私はOKよ」
「良かった」
これで母の了解は得ることが出来た。
エミエラの心労も少しはマシになることだろう。
しかし、父のシルバはまだ険しい顔をしたままである。
「カイル、お前は将来辺境伯になるんだ、この意味が分かるか?」
「領主になるための勉強は学園でするつもりだし、なんなら今から父さんの元で学んだっていい」
「他の領地の領主ならそれが正解だ、しかし辺境伯は違う、ここはシュゼルナーベ王国を守る北の壁、魔の森と接し絶えず魔物の危機がある」
父さんは何を言いたいんだ?
そんなの当たり前だろ、今更何を言ってるんだ?
10年ここで過ごして知らないと思われてるのか?
「なら、私が強ければ問題ないのですよね?」
「エミエラ? もう大丈夫なのか?」
「先程はお見苦しい姿をお見せして申し訳ありませんでした」
「エミエラ様は覚悟が出来ていると?」
「えぇ、北の辺境伯の大体の事情は理解していますわ、好きな人の実家の事ですもの調べて私の力になれる事を探しましたから」
俺は父さんの問いを理解出来ていないというのにエミエラは分かっているようでどんどんと話しが進んでいく。
「ならば、覚悟を見せてもらいましょう、カイルも来い」
「え?」
「カイル様、私にお付き合いください」
そういって連れてこられたのは野外訓練場。
辺境伯の野外訓練場というだけあってめちゃくちゃ広い。
魔物へ対しての集団戦訓練や指揮官育成のために模擬的な戦争のようなものを行ったりする。
「カイル様、辺境伯の嫁に行くというのは死の危険があるという事なのです、魔の森と隣接する壁の役割を果たすということはそれだけ危険があるということ、お義父様はその覚悟があるのかと私に問うているのです」
「そういうことか」
「ふふ、私はもう婚約を申し出たその時から覚悟を済ませていますから、これは揺るぎません」
このエミエラのたまに見せる男らしさというか真っ直ぐな思いは凄く嬉しい。
そして、現状を理解した俺は父さんの方へと向き直る。
「俺が婚約を認める条件は簡単だ、俺と戦って認めさせればいい」
「父さん、俺も戦うけどいいよな」
「いいぞ、2人でかかってこい」
父さんと戦ったことは実は1度もないのだ。
勝てないのは分かっていたし魔法も使えない俺じゃ、一矢報いる方法すら想像も出来なかった。
でも、今は魔法が使えてエミエラだっているのだ。
「エミエラ、頑張ろう」
「はい! 死ぬ気でサポートします!」
頼もしい限りである。
全身を闇魔法で覆い模擬試合用の剣を構える。
父さんはハンデで魔法を縛ってくれるそうなので剣だけを構えているはずなのに何をしても勝てる未来が思い浮かばない。
「ふっ!」
前へと踏み込み牽制の突きを放つ。
いなされて反撃が来ることは分かっていたのでそれを避け、胴体を狙って剣を薙ぎ払う。
昔より剣筋も目で追えているし行けるっ!
避けた父さんをさらに踏み込んで追い打ちをかけた。
「っ!」
「……」
誘われたっ!
父はもう剣を振り上げていて俺は懐に踏み込んでいて踏ん張れる体勢じゃない。
今、父さんの一撃を受けようとすればそのまま押しつぶされてしまう。
「信じて!」
この切羽詰まった状態でもエミエラの声がよく耳に通った。
信じて剣を振るう!
「ぬっ」
エミエラの魔眼で父さんの動きが一瞬止まり俺の剣が間に合ったのだ。
ガッ!っという剣と剣がぶつかる音が訓練場に響く。
「エミエラ! 力を貸してくれ!」
闇魔法は継続的に魔力を消費する。
故にいつもは身体能力補助程度の性能なのだがその出力を最大まで上げるためにエミエラの魔力を借りることにしたのだ。
エミエラの左目のおかげで湧き上がってくる魔力と自分の魔力をこの数秒に全て注ぎ込む!
「ふぐっ!」「がぁっ!」
身体能力をギリギリまで上げた俺の足は大地を削るほどの力を見せてくれた。
が、しかし、急激に早くなった動きに俺が対応出来るはずもなく。
ロケットのように射出された俺は父さんの方へと突っ込み頭突きが父さんの腹に直撃する。
「う、うぅぅぅ」「頭がぁぁぁ、足もいたぃぃぃぃ」
「カイル様!? お義父様も大丈夫ですか!?」
「「痛い」」
「エミエラ、助けて」「シュエラ助けてくれぇ」
「えっと、あの、どうしましょ……」
男2人、痛みに悶絶しながら嫁と嫁(婚約)に助けを求める。
あまりにも情けない姿ではあるが痛みでそれどころでは無かった。
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「息子よ、あの攻撃は危ないから控えなさい」
「確かに危なかったけど、練習すれば使えるようになるかもだろ?」
「もう少し下にブレていればと思うとヒヤッとした感覚が止まらないのだ、男なら分かってくれるだろ」
「あぁ……ホントにごめん」
こんな会話があったとかなかったとか……?
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