鏡の中の嘘

@yanajiro

鏡の中の嘘

ベアは毎日、鏡の前に立ち、自分の姿を見つめる。岩瀬に振り向いてもらいたくて必死だった。ベアの心の中では常に私はモテていると思っていた。彼女は常に自分を飾り、他人に良く思われるように努力していた。けれど、どれだけ笑顔を作っても、どれだけ華やかに装っても、誰も自分を本当に理解してくれることはなかった。

ある日、体育の時間が終わり、授業後の校庭の誰にも目のつかない所でカトマンドゥとすれ違った。カトマンドゥは、無意識に口にした言葉でベアの心を打った。「ベア臭いんだよ」と、その一言をベアに放ったのだ。ベアはその言葉がどうしても耳から離れず、深く心に刺さった。自分の体臭に気づいていなかったベアは、その指摘を受けて、ますます自分に自信を持てなくなった。

カトマンドゥは、あまり人とのコミュニケーションを得意としない。彼はADHDを持ち、思っていることをそのまま口にしてしまうことが多かった。それに気づくことなく、彼はベアにとって最も痛い部分を突いてしまった。

そして、放課後、再び同じ場所でカトマンドゥを見かけた時、ベアは耐えきれなくなり、心の中に渦巻く感情を一気にぶつけることに決めた。

「カトマンドゥ!」ベアは声をかけた。怒りと涙を抑えきれず、彼の前に立つ。「臭いってなんや!」

カトマンドゥは、いつものように無言で立ちすくんでいた。彼には、ベアの言葉がどれほど心に響いているのか理解できていない。それが、ベアをさらに傷つけた。言葉が届かない。ベアの痛みが、伝わらない。彼の無関心とも言える態度が、ベアを深く絶望させた。

「私は臭いって言われて、岩瀬くんに嫌われたの!」ベアは叫び、涙が頬を伝った。

カトマンドゥは、それでも何も言わなかった。彼はただ、目の前で怒るベアを見つめることしかできなかった。

ベアはその時、ふと地面に目を落とす。目の前には鎌が転がっていた。それは、庭師が草を刈りに来た時に忘れたものだった。ベアは無意識のうちにそれを手に取っていた。何かを伝えようとしても伝わらない、無力感と怒りが彼女を支配し、その手に握った鎌を無意識に振りかざした。

「じゃあずっと喋らなければいいやん!」ベアは声を絞り出し、カトマンドゥに向かって振り下ろす。カトマンドゥはその一撃を避けられず、もろにその攻撃をくらった。彼は痛みを感じながらも、何も言わず、ただその場に立っているのであった。

それと同時にカトマンドゥの足元にも鎌が落ちていることに気がついた。カトマンドゥはその赤く染まった体を動かしながら鎌を手に取る。「しずく、力を貸してくれ!」

ベアは鎌をまた振ろうとした。しかしカトマンドゥの体が赤く染まっていることに気づいたとき、ようやくその恐ろしい現実に直面する。彼女は手を止め、鎌を握ったまま、その場で呆然としていた。

しかしカトマンドゥも生きている。ベアは震えながら鎌を持ち直し攻撃準備をする。「え?」ベアの手がなぜか赤い。ベアは自分の首に鎌が刺さったことを理解できず、立ち尽くしていたのだ。カトマンドゥは攻撃していた。彼女はすぐにその場に倒れた。その時にはもうベアの命の灯火は消えかけていた。

カトマンドゥは教室に戻ろうとした。しかしカトマンドゥはそのまま倒れ込んだ。出血多量だった。『おーいベアとカトマンドゥ」高野先生が探しに来た。だが見つからない。二人はそのまま誰にも見つかることがなくその短い人生を終えた。

そして、あの一言がすべてを壊してしまったことを、カトマンドゥは一生忘れないだろう。

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