第2話 森にて、迷い人と出会う

朝日が差し込む森の奥で、俺はひとり黙々と薬草を摘んでいた。


 この辺りは湿気が多く、薬草がよく育つ。今日の目的は**癒し草(ヒールリーフ)と苦無草(にがなし)**だ。前者は傷を癒し、後者は解毒剤の材料になる。どちらも村の診療所には欠かせない。


「……よし、このくらいでいいか」


 腰の籠が満杯になったので、俺は帰ることにした。


 しかし、森を抜けようとしたそのとき——


「おい、そこのお前……いや、まさか……?」


 低く、よく響く声がした。


 顔を上げると、大きな黒いコートをまとった男が立っていた。背には長剣を携え、長い黒髪をなびかせている。その鋭い目つきに見覚えがあった。


「……お前は、ヴェルトか?」


 彼の名はヴェルト・アークレイド。流浪の魔剣士にして、俺のかつての知人だ。


「まさか、こんな場所で会うとはな」


「それはこっちのセリフだ。お前、こんなところで何してる?」


 俺が尋ねると、ヴェルトはわずかに眉をひそめた。


「……少しな、厄介ごとに巻き込まれてな」


 そう言って、彼は右腕の袖をまくった。そこには深い切り傷があり、乾いた血がこびりついている。


「おいおい、大丈夫か?」


「大したことはない。だが、少し休める場所が欲しくてな」


 俺はため息をつき、腰の薬草籠を持ち上げた。


「ついてこい。診療所に案内してやる」


 ヴェルトは驚いたような顔をしたが、すぐに小さく笑った。


「……すまんな。お前の世話になるのも久しぶりだ」


「世話が焼けるのは昔から変わらんな」


 そう言いながら、俺たちは森を抜け、村へと向かった。


 ——賢者は薬草を摘みに行き、迷い人と再会する。これはただの偶然か、それとも運命か。

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