第9話 姫ヒロインはご褒美もほしい

「次はね、ご褒美がほしいの!」

「……俺の担当は塩対応だよ」


 屋上で姫川紗沙にムチをくれてやったあと。

 俺が一人で下校しようとすると、校門を出たところで姫川が追いついてきた。


「というか、バラバラで帰ろうって言っただろ。なんで追っかけてくるんだ」

「え? 校内で一緒にいるところ見られたらマズイんでしょ? もう校内じゃないよ?」


「…………」

 姫川と話すときは、もっと具体性が必要か。


「並んで帰ってたら同じことだろ。人に見られると変な誤解されるぞ」

「大丈夫、大丈夫。衛司くんだけはナイってみんな思うから」

「それもナメられてるようでシャクだが、そのとおりかもな……」


 間違っても、俺と姫川が付き合ってるとは思われまい。

 もし俺たちをよく知らない生徒に見られても、ウチのクラスメイトたちが噂をかき消してくれるだろう。


「そうか、大丈夫だな。それじゃ、俺はこの辺で」

「大丈夫なのに一人で帰るの!? 担当の仕事をこなさないで!」

 そう言われても、俺は塩対応しかできないし。


「ご褒美ってなんだよ」

「またパンチラ見られたし、パンチラするなって怒られたし、しかも生でお尻ヤられちゃったし」

「いろいろ誤解を招きすぎじゃないか?」


 しかも最後のヤバい。

 聞きようによっては、俺までド変態みたいに思われる。


「で、ご褒美ってなんだよ?」

「そうこないと」


 姫川は、にっこにこだ。

 こう言わないと、なにを口走るかわからないからな、こいつ……。

 姫のお口が過ぎるようなら、それを止めるのも俺の役目なんだろう。


「あたしってさ、これでもスタイルには気を遣ってるんだよね」

「うん? まあ、尻は小さかったな」


「お、大きさのことは言わないで?」

「自分から言っておいて、照れるのか」


「と、とにかく。腰とか太ももにお肉がつきすぎないように気をつけてるの」

「たいていの女子はそうじゃないか」


 なんなら、男の俺だって多少は気をつけてる。

 別に自分の見た目なんかどうでもいいが、だらしなく太ってるとは思われたくない。


「そんなあたしには、たまーにいただくご褒美スイーツが心の支えなんだよ……」

「ウチの商品はやれないぞ。普通に金出して買うのも嫌がられるくらいだから」


「あー、それはわかる。きしやの和菓子、夕方とかに行くとけっこう売り切れてるもんね」

「今はコンビニスイーツも専門店に負けてないだろ。そもそも、専門店が監修してたりするからな」


 実はウチの店もコンビニとのコラボの話は何度か来てる。

 地元のローカルコンビニとだが。


「コンビニスイーツ買って、一緒に食べよ♡」

「ん? 一人で食えばいいだろ?」

「また塩! 一緒に食べるから美味しいんじゃん!」

「女子同士でキャッキャ言いながら食うならともかく、俺と食っても……」


「あたし、ちょっと甘塩っぱいの好きだから。甘いスイーツを、衛司くんの仏頂面を見ながら食べるのが美味しそうで」

「俺をオカズみたいに……」


「そういえば、前に男子が『サシャちゃんをオカズにするとはかどる』って話してて、どういう意味か訊いたら全員、忍者みたいに逃げてったんだよね。なんだったの、あれ?」

「さあ……」


 ピュアなのか?

 姫川、アホほどモテるくせにピュア?


「ふーん、誰もわかんないんだよね。変なの」

「あ、コンビニだ。ここで買ってくるか」


「和菓子系のヤツ、買ってきて。和菓子屋の息子のセンスに期待するから」

「俺が買ってくるのか」


 姫川が差し出してきた五百円玉を受け取る。

 和菓子を買ってるところを万が一にも目撃されたくないらしい。

 変なところだけ気にするんだな。


 とりあえずコンビニに入り、適当に目についた抹茶もちもとどら焼きとやらを購入。


「ほら、買ってきたぞ」

「ありがと、早いね」

 俺は店の前で、どら焼きとお釣りを姫川に手渡す。


「わ、美味しそう。これ、ちょっと気になってたんだー。んむんむ……あー、美味しかった!」

「食うの早いな」


 三口くらいで食っちゃったぞ。

 けっこうデカめのどら焼きだったのに。


「美味しいものは、ついがっついちゃうんだよね。だから、男子の前でははしたなくて、美味しいもの食べにくくて」

 俺も男子ですが?


「はー、抹茶どら焼き、もう一個食べたいくらい――って、衛司くん、ソフトクリーム食べてる!」

「え? ああ、俺もなんか小腹が減ったんで」


 ここのコンビニはソフトクリームも美味しい。

 和菓子屋の息子でも、ソフトクリームくらい食うんだよ。


「い、いいなあ……」

「姫川、和菓子好きって言ってなかったか?」


「アイスが嫌いとは言ってない! 一口ちょうだい!」

「ためらいなく要求してくるな」

 女子に食いかけのものを――って、姫川相手に気遣いはいらないか。


「ああ、美味い。やっぱソフトクリームはバニラとチョコのミックスがいいよな」

「そんなところでも塩対応! 見せびらかしながら食べないで!」

「冗談だよ。ほら」

「んむっ♡」

 ソフトクリームを差し出すと、姫川はためらいなくぱくりと一口食べた。

 さらに舌を伸ばしてぺろぺろ舐め、はむっと先端をくわえた。


「んっ……白いの美味し♡」

「……チョコよりバニラ派なんだな」


 なにかいけないものを見た気がするが、気のせいだろう。

 少なくとも、姫川はなにも考えてない。


「あー、良いご褒美だった♡ 塩のあとは甘々が良いよね♡」

「……良かったな」


 尻を叩いたり、ソフトクリームをシェアしたり。

 姫川に絡まれるようになってまだ一日なのに、いろいろ起きすぎだ。


「というか、せっかくソフトクリーム食べてるのに、衛司くんはぶすっとしてるね。甘さが足りないかな?」

「いや、別に……」


「もっと甘いものがいいのかな? 今度、あたしが美味しいスイーツ、用意してあげよっか? なんでもいいよ。甘いもの食べて、お口を幸せにしよ?♡」

 姫川は自分の唇に人差し指をあて、あざとく小首を傾げている。


「なんか、この時間が甘ったるい……もういいや……」

「もういい!?  なんか悪口だよね、それ!」


 なんと言われようと、今日はもう腹一杯だ。

 姫川の甘い言葉も、俺の塩対応もここまでにしておこう。

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