第8話 姫ヒロインはお尻を責められたい
放課後になり――
「じゃ、行こうか?」
「…………」
俺のそばに姫川が近づき、ぼそっとささやいてきた。
本気で尻を叩けと言ってるのか。
放課後になったら屋上で――ということになったのだ。
なにが楽しくて、わざわざあらためてクラスの女子の尻を叩かないといけないんだ?
だが約束した以上は仕方ない。
姫川は誰にでも気さくだが、あまり一緒に行動しすぎても周りに変に思われる。
とりあえず、バラバラに教室を出て屋上へ向かう。
屋上への鍵は、姫川が入手してくれることになっている。
「借りてきたよー」
「……手際が鮮やかすぎて怖くなるな」
屋上へのドア前で待っていると、姫川が鍵をチャラチャラ回しながら現れた。
一応、屋上への立ち入りは禁止で美化委員の仕事を口実に借りてきてるらしいが……。
美人のコミュ強って怖いな。最強の生物じゃないか?
「わ、今日はちょっと風があるね」
「ああ、本当だ」
屋上は元々風が強いが、今日は特に強い。
まあ掃除をするわけでもないから、風が強くても問題はない。
「でもさあ、衛司くん」
「ん?」
「今日も一回も、一回たりともあたしに話しかけてこなかったよね」
「用がなきゃ声なんかかけないだろ」
俺は場合によっては、親友の北大路と一言もしゃべらない日もある。
「用がなくても挨拶して、無理矢理にでも会話デッキを用意して話しかける! 特に女子が相手なら! 男子ってそういうもんでしょ!」
「男子にもいろいろいるんだよ。俺はそういうの、どうでもいい」
「このあたしのことがどうでもいいって!?」
「まあ……割と……」
「飛び降りるぞ、コラ」
ギロリ、とクラスのアイドルらしからぬ殺人鬼みたいな目で睨まれる。
自分の命を人質にするとは卑怯だな。
「だいたい、こっちから話しかけようとしても、姫川の周りは常に人でいっぱいだろ。あいつらを掻き分けて話しかけろって?」
「え、それでいいんじゃない?」
「あっさりと……そんな周りの連中越しに話しかけるとか、馬鹿みたいじゃないか」
「簡単じゃん、こうやってさあ」
「…………」
姫川はなにを思ったか、俺に腕を絡ませぐいぐい引っ張るようにして歩き出す。
「ちょっとこっち来てーって、あたしを連れ出せばいいじゃん。そしたら二人で話せるし」
「できるか、そんなこと!」
むにむにと、大きなふくらみが俺の腕に当たっている。
俺は腕を振って、姫川から離れる。
「なんか難しい?」
「男子どもから殺されるだろ」
いくら姫川が気さくキャラでも、無造作にくっつくのは危ない。
「あたしは、それくらい普通にできるけどなー」
「マジでビッチ扱いされるぞ」
「そ、そんなことでビッチ! あたしは誰にでも優しいだけなのに!」
「ビッチ扱いで済めばいいな。そのうち、勘違いした男子に刺されるぞ」
「岸くん、守って♡」
「軽く言ってくれるな」
俺、友達でもない姫川を命がけで守るのか。
「岸くん、けっこう身体大きいし、ボディガードに向いてそう。確かに、他の女子にも気をつけろって言われるんだよね」
「気をつけてないじゃないか。まあ、俺が見てるときになにかあったら……」
「やったっ♡」
姫川はまた、俺の腕にしがみついて胸を押しつけてくる。
そして俺はまた、振りほどく。
用心棒ごっこも退屈しのぎにはなるだろ。
姫川が本当に狙われても、ちょっと面白いかもしれない――
というのは不謹慎だろうか。
まあ、俺の動機がなんだろうと姫川は守ってもらえば文句はないだろう。
「ただし、俺が知らんところでなにかあっても助けないからな」
「LINEで呼ぶよ」
「俺、家に帰ったらほぼスマホ見ないから。襲われるなら午後六時から朝八時までの時間を避けろ」
「あたしに選択権ないよね!」
むしろ、一番襲われそうな時間帯まであるな。
夜に出歩かなければいいが、姫川はいかにも夜に出歩きそうだし。
「もー、まあ見てるところで守ってくれるだけでいいか。いろいろ世話をかけるねえ」
「まったくだ」
「そこは否定してよ! あ、そろそろ今日のムチを」
「…………」
もう疲れたから今日はムチ無しでもいいのに。
「どうすりゃいいんだ?」
「だから、お尻。お尻叩いてみて♡」
「やはり本気だったのか……」
女子の尻を叩いて喜ぶ趣味はないんだがな。
ないからいいのか。
「じゃあ、さっさと済まそう」
「クールだね、衛司くん。あ、ちょっと待って!」
「え?」
姫川はなにを思ったか、自分のスカートの中に手を突っ込んでる。
「短パン脱がないとフェアじゃないよね。ちょっと厚みあるし」
「フェアとかそういう問題じゃないだろ」
短パンで軽減できるダメージなんか、たかが知れてる。
「よっし。どうしよっかな……ま、その辺でいいか」
姫川は脱いだ短パンを屋上の床に投げ捨てた。
雑すぎ。
「これでいいね。衛司くん、いつでも来い!」
「…………」
姫川は俺に背中を向け、心なしか尻を突き出すようなポーズになる。
そう、今日の屋上は風が強い。
スカートが揺れ、さっきからピンクのパンツがちらちら見えている。
それどころか、時には大きくめくれて、尻が丸ごと見えている。
「おい、パンチラやめろ。スカート越しに叩くつもりなのに、めくれてる」
「パンチラやめろ!? 女子としてこんな屈辱的な台詞ある!?」
姫川は慌てた様子で、スカートを押さえた。
「でも、その屈辱……嫌いじゃない♡」
「……そのままスカート押さえておいてくれ」
そうだ、さっさと済ませるんだった。
余計なことを言わず、生の尻を叩いてもよかったな。
「じゃ、じゃあ……どうぞ、衛司くん」
「…………」
マジで俺はなにをしてるんだろうな。
もはや、なんのために姫川とこんなことをしてるのかわからなくなってきた。
ただ、叩かないと終わらない。
だったら、やるか。
俺は手を軽く振りかぶって――
「ひゃんっ♡」
→プロローグへ続く。
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