第7話 五月病到来
テスト3日前。
「まったくやる気でねー」
気がつくと俺は自分のベッドに突っ伏していた。
何をするにも体がだるくてやる気が起きず、趣味の読書からもここ数日は遠ざかっていた。
(このままだと目標の10位以内が危ういな……。)
危機感とは裏腹になぜここまで落ちぶれてしまったのか。
世間ではこれを五月病と言う。4月の忙しくも充実した期間とGWを駆け抜けた後に人に遅いかかる厄介な病気だ。近年の蒸し暑さも相まって効果抜群。
どおりで初めてなのか。
……実際、去年までの俺はこの期間は基本的には暇だったからな。関わる人間もほとんどいないし充実した日々とは程遠い。
待てよ。
ということはここ最近の俺は充実していたのか……?
なぜかそう思ってしまう自分に呆れながらも口角は上がっていた。
一人ではなかなか取り組めなかったのだが、意外に勉強会は順調に進んでいた。やっぱり監視する人がいるとやる気が出るのだろう。大体2日に1回、お互いの家ですることになった。
……ラッキースケベな展開があるわけもなく、本当に恐ろしいくらい何事もなかった。残念だと思ってしまったのはここ以外では言わないでおこう。
テスト最終日。
俺は珍しくテストの感想を言い合いながら茜と一緒に家に帰っていた。
「物理むずすぎだろ。平均余裕で下回ったかも」
学年10位を狙っている俺として、理系科目は最大の難敵だった。
「それより、お前はどうなんだ?テスト前は余裕そうに本読んでたが……」
彼女はどこか誇らしそうにこう言った。
「多分全教科90点超えた。自己採点ではどの教科も2、3問くらいしか間違えなかったからね」
「さすが学年1位……」
まだテストの結果は帰ってきてないがほぼ確定で間違いないだろう。
「あはは……百点を乱獲している人がいなければね。それより、こーくんはどうだったの?」
いきなり名前で呼ばれてびっくりした。まだ駅までの通学路だろ。
「あのなあ……まだ周りに生徒がいるんだぞ。聞かれたら俺が刺されちまう」
「しょうがないな~それより他の教科はどうだったの?」
「まあ……現代文、英語、歴史、地理、公共は満点か1問ミスかな。数学は裏が壊滅、化学は何とかなっているが物理は本当に死んだと思う。あ、古文は平均程度かな」
あまり友達とテストの話をすることはないからな。なかなかこんだけ喋るのも新鮮だと思った。
「結構すごいじゃん、1問ミスだったら私に勝ってる教科も結構多いでしょ?」
さあ、どうなんだろうな。
まあ、俺の性格上の問題もあるが自分にはあまり期待しないでおこう。
俺の人生に、期待というものは似合わないからな。
中間試験の成績発表日が来た。
廊下には生徒400人中の上位10%、つまりは来年の進学クラスの候補生が張り出される。この学校は大学の付属校だが、国公立の受験が可能であり、最上位クラスである進学クラスでは私立の一般や指定校推薦、国公立の学校型推薦も開放されており、優秀な生徒を送り出す準備が整っている。俺は親の負担を減らすために大学は国公立に進んで一人暮らしをしようと考えているので、正直この制度はありがたく感じている。実際ほとんどの付属校は私立大学の受験が禁止されているからな。
俺は入学時の順位からあまり変わっていないことを願いつつ、掲示板で自分の名前を探しはじめたのだが、4列目に俺の名前が見つかって少し複雑だった
(……マジか。学年36位ってところか。思ったより悪かったな)
理系科目の成績の悪さである程度察したが、やはりこうなるか……。
「ねえねえ、青山さんめっちゃすごくない?」
「学年首席で入学してテストでも1位だよ、しかも全教科が90点越えだし」
「かわいくて成績優秀とか完璧すぎ」
周りの会話からもやはりあいつのすごさが身に染みてわかるな。
俺はあいつの友達でいることが少しだけ誇らしくなってにやけてしまった。
今日も一緒に帰ろうとしたのだが、HRが終わった直後に人に囲まれてしまい、一人一人に対応していたので俺は先に帰ることにした。
ちょうど図書館に寄る用事もあるしな。
夜、俺は珍しく父さんと一緒に夕食を食べていた。
珍しく定時に上がれたようで、今日は夕食を作って俺のことを待っていた。
いつも夜遅くに帰ってくることが多いので俺はいろいろな話をしながら楽しく夕食を食べていた。
長い間男手一つでここまで育ててくれた父さんには感謝しており、思春期とは思えないくらい関係は良好である。
(……父さんを心配させないためにも勉強頑張らないとな)
本人は「こんな難しい高校で上位10%を獲れたんだから十分すごいよ」と言ってくれてとても喜んでいたのだが、少し勉強をサボっていたこともあって途端に申し訳なくなった気がした。
そういえば父さんに、あーちゃんがこの学校に入ってきたことを言うの忘れちまったな。
夜、俺は歯を磨き終わって自分のベッドに潜りこもうとしたところ、携帯が鳴っていることに気がついた。
(……珍しいな。めったに通知が来ることはないのにな)
自分で言ってて悲しくなるな。
こんな夜遅くに誰がかけてきた電話だと思い、俺はスマホを手に取った。
電話をかけてきた主は、まさかの青山茜だった。
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