墓参り
「……」
村の外れ。
古びた霊園に並ぶ無数の墓石。
村の長い歴史を示す墓地の中でも比較的に新しい墓石の前でアンナが静かに祈る。
刻まれているのは傭兵時代の仲間達の名前。
ともに大陸中の戦場を駆け、遥か彼方まで駆け抜けていった戦友たち。
石の下に遺体はなく、代わりに彼らの遺品が埋められている。
彼女の脳裏に浮かぶは、血塗られた記憶。
敵の罠に掛かり、飛来する矢の雨に次々と命を散らしてゆく仲間。
斬り落とされた右腕の痛みが今も時折よみがえる。
一陣の風が髪を揺らす中、箒と桶を持ったルーベンスとカマルがやってくる。
「どうした?ルーレイス」
「トランに墓地の掃除を頼まれてのう、手伝ってくれぬか?」
ルーベンスの頼みにうなずくと、一緒に掃除を始める。
積もった枯れ葉を一か所に集め、カマルが桶に入れた水に布を浸し、苔のついた墓石を洗い清める。
理想を言えばランハルから買った蠟燭をすべての墓に灯して冥福を祈りたいところではあるが、生活必需品が乏しい現状、祈りのみを捧げる。
「こんなところかのう」
集めた落ち葉を袋に入れて一息つく。
どことなく淀んでいた空気が清浄になり、一陣の寒風が吹く。
墓地を去り、耕作地へと向かう三人。
枯れ葉をコンポストに入れて用具を納屋に収納すると、作業終了をトランに報告する。
耕作地から帰る道中、遠くの山が色付き始めていることに気が付く。
「もうじき秋か」
ぽつりとつぶやくルーベンス。
「そろそろ紅葉狩りの季節だな」
「モミジガリ?」
聞きなれない単語にカマルが反応する。
「秋になると紅葉という木の葉っぱが赤く染まるんだ。
それはそれは美しい景色でな、それをみんなで一緒に眺めるんだ。
あたしも昔は家族で紅葉狩りに出かけていたな」
「タノシソウ」
アンナの話に興味を持つカマル。
彼女の祖国では木がほとんど生えておらず、紅葉狩りやお花見の概念がない。
「村の近くに紅葉が生えている場所がある。ひと段落したら、リラやアンカラも連れたみんなで行ってみるのもいいかもしれないな」
歩く三人の中で、ルーベンスの足取りだけが重かった。
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