第7話 シュネービッチェン
「ついたー!やー、でっかいねー!」
「ここいら一帯のダンジョンに繋がるポータルだからな。そりゃ広いさ。」
目の前の建物を見上げて桐子が感嘆の声を上げる。
彼等の前に現れたのは、複数の棟からなる白亜の神殿。見た目は近代的な大学の校舎のようなそれらが連なった敷地は、全域を見れば下手な大学を優に超える面積を持つ。
「でも便利だよね。ここからいろんなダンジョンに行けるんだから。」
「……便利ですけど、ダンジョンに入るのなら、直でダンジョンがあるところに行くのが一番早いんですよね。」
「そうなの?」
「まあ、そうだな。ポータル駅は手続きとか必要だし、使用料がかかるんだ。
ちょうどいいダンジョンが近場にあれば、そうするんだけどなぁ。」
「ここら辺にダンジョンってありましたっけ?」
「……勝下樹海とか滝浜溶岩窟なんかがありますね。」
「でも、どっちも初心者向けじゃないんだよな。
……大洗大洞窟は初心者向けだったけど、しばらく行きたく無いしな。」
「私もあそこはイヤだな……。」
「うん……。」
正義達が顰め面を浮かべながら、吐き捨てる様に言う。
つい先日死にかけたばかりの場所には行きたくないのは当然だろう。
「それにしても、探索者多いねー。」
歩きながら周りを見渡した素直が、微妙に落ち込んだ空気を入れ替えるように言う。
敷地内は多くの人が行き来しており、その中でも探索者の割合が高く、色取り取りのの服が入り交じる様子はまるで何かのパレードのようだ。
「ポータル駅にはここいら一帯の探索者が集まってるわけだから、そりゃ多いさ。」
ダンジョンポータルステーション。通称ポータル駅。ギルドが管理する交差局の出張所だ。
出張所であると同時に、ここは近隣の複数のダンジョンに繋がる交易拠点でもあるため、周辺に住まう探索者達はほとんどがここに集うのだ。
ポータル駅は全国津々浦々にあり、百太郎達の住む町からは二駅ほどの近所にあった。
通常はダンジョンの入り口は一つである。
嘗てはそこいらの建物と同じように、正規の入り口から入場しか方法は存在しなかった。
そこに遡ること数十年間、革新的な技術が開発された。
とある天才の研究成果によって、ダンジョンの入り口を別の空間に繋げることに成功したのだ。
これにより、各地に点在していたダンジョンの一括管理が可能となり、同時にダンジョンから採れる資材の確保も簡単となった。
「……とりあえず、まずは受付を済ませましょう。」
そう言って百太郎が入っていった建物には、三号館という看板が立っていた。
「人多っ!」
中に入ると、外以上に人がごった返していた。
待合ホールが広い為、雑多という印象を受けることはないが、それでも自分達の学校の全校生徒よりも多くの人がいるのは間違いなかった。
「……こっちです。」
待合で順番待ちをしている人達に倣うことなく、すいすいと進んでゆく百太郎着いてゆくと、奥まった場所に十台程のカウンターが並んでいるスペースがあった。
百太郎はその内の一つに近付くと、そこに座る受付嬢に慣れた様子で話しかけた。
「……こんにちは、美姫さん。」
「はいこんにちは、百太郎君。先週振りですね。その子達はお友達ですか?」
親し気に百太郎と話すその女性は、真っ白なストレートの髪を腰まで伸ばし、髪と同じ白い瞳と白い肌を持つ、妖精のような女性だった。
その身に纏うタイトなギルドの制服から浮かぶ曲線を見るに、スタイルも悪くない。
街中ですれ違ったら、思わず目で追ってしまいそうな美人だ。
「狸穴のクラスメイトの犬山正義です。」
「猿田桐子です!」
「初めまして、神鳥谷素直です。」
「はい初めまして。私は
ふわりと微笑む顔も大層美しい。
直視した正義の頬が思わず朱に染まる。
「……この間話した教導の件です。
今日は佐野草原あたりに行こうと思ってますので、諸々の登録お願いします。」
「はい分かりました。では皆さん、ライセンスを提示して下さい。」
言われるがままに、全員がライセンスをカウンターに置く。
それを受け取った美姫は、空中に複数のディスプレイを表示させると、カウンターの表面に表示されたキーボードディスプレイを慣れた指運びで叩き、必要項目を入力していく。
「でも百太郎君がお友達を連れてくるなんて、ちょっと驚いちゃいました。」
作業しながら美姫が呟く。
その間も、流れるような指の動きを滞らせることない。
「創君やりんごちゃんを連れてきた時も驚きましたけど、まさか新しい友達ができるだなんて。」
「……なんで僕が友達連れてきたことが驚きなんですか。」
「だって初めて会った時なんて、声は小さいわ、目は合わないわで、あ、この子絶対友達いない陰キャだわなんて思ったのに。
こんなにたくさんのお友達ができるなんて、美姫さんびっくりです。」
「……美姫さんは相変わらずデリカシーないですね。」
突然飛び出した暴言のような言葉に、思わずぎょっとする正義達だったが、当の百百太郎は気にした様子もなく言い返している。
「……だからモテないんですよ。」
今度は百太郎が刺した。
「はい残念。美姫さんは凄くモテます。
いったい何人にベッドに誘われたことがあると思ってるんですか。」
「……それってただの身体目当てですよね。
しかも、一度でもデートした相手には二度とベッドにすら誘われないそうじゃないですか。」
「それは相手が悪いんです。はい間違いありません。
……ところでそれ誰に聞きました?」
「……赤子さんが笑いながら教えてくれました。」
「私の悪質なデマを流したということで、後で説教ですね、はい。」
「……事実だと思うんですけど。」
「何か言いました?」
「……いえ、何も。」
まるでドッジボールのようなやり取りに、正義達は戸惑うばかりだ。
結局分かったのは彼女の名前と、百太郎と凄く仲がいいという事実だけだった。
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