聖者とユーリ
「2人で勉強しているところを見ていたよ。ユーリ・ベルクール……。彼とは仲良く出来そう?」
俺から兄を見る事はできないがどうやら兄から俺を見る事はできていたようだ。ユーリを招くのを許されていた客間がそのそうな造りになっているらしい。
「ああ。良いやつだよ、あいつ」
それを聞くと兄は安堵した顔になっていた。
「良かった……。彼の事はゲームで見たことあるんだ」
あのゲームは未来予知……俺たちの感覚で言うとシミュレーションみたいな役割もあったらしい。
ユーリ・ベルクール。由緒ある貴族の家ベルクール家に生まれ、幼少の頃に浄化の力が発現した為王国に預けられる。
聖者に選ばれる為厳しい修練を積んでいたが選定の日に主人公が現れたことで聖者にはなれなかった。
それを恨んで主人公を妨害したり邪魔したりするキャラで、最終的にはその不安定な精神で魔力を暴走させてしまい死んでしまうそうなのだ。最初に戦うボス戦がユーリということらしい。
兄からその話を聞いた周囲はユーリを酷く警戒した。……だがそうはならなかった。
ユーリは兄との面会を断られるたびに俺の元に来て不満を漏らしたり身の上話をしたりした。吐き出しているうちに本人も落ち着いたのか、最初のうちは執拗に面会を求めていたのにここ最近はとりあえず出来るか聞いて、ダメだったら大人しく撤退していたそうだ。なんなら俺に文字を教えに来るのが主目的になってきて兄の面会要求がついでになったと周囲に思われるくらいである。
「彼から役目を奪ってしまった事は分かってる。仲良くできればそれが1番いいけど、無理でも殺したくはなかった。ナオと仲良くしてるなら安心かな」
あくまでもシミュレーションだからユーリが本当にそんなことになるかは分からない。しかしシミュレーションに出すくらいには不安要素だったわけだ。
俺から見てもユーリは少々感情的な部分があったけど実際は面倒見も頭もいい。
「弟君が一緒に呼ばれたのはその為もあるかもしれませんな」
兄の付属品の役目はユーリのストレス発散先だったのか……。力の抜ける予測だが少なくとも今の俺はユーリに死んで欲しいなんて微塵も思わない。俺の存在がユーリを生かしているなら悪くはない、かもな。
――――――――――――――――――
「おかえり。アキ様は何か言っていたか」
拗ねたような不機嫌な様子でユーリは客間に座っていた。俺だけ面会を許可されたのが気に入らないらしい。
「巡礼頑張ろうね、とユーリと仲良くね。だって」
「……ふん」
自分の望んだ話ではないので不満そうだったがユーリの願いは「本当に自分よりアキ様の方がすごいのか自分の目で見たい」なので俺にはどうすることもできない。
「まあいいか。巡礼の日に嫌でも見せる事になるだろう」
諦めて椅子から立つ。
「ああ、頑張ろうな、ユーリ」
「当然だ」
自信満々で真っ直ぐな眼差しが刺さり、脳に焼きついた。
この時友人に向けるのとは違った感情が芽生えたのは、ユーリが美形すぎるからだろうか。
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