再会
こうしてユーリと共に過ごし子供用の本であれば時間をかけて読めるようになった頃、巡礼の日程が決まった。
それによって今晩少しだけ俺だけ兄に会える事になった。兄が俺に会いたいと希望したことで例外的に許可されただけでユーリの「アキ様の力を見たい」という願いは は許可されなかった。
この世界に来て一カ月ほど経とうとしていた。召喚前は毎日顔を合わせていた兄と久しぶりに会うのは何だか妙な気分になる。
王国の兵士に囲まれて向かった部屋の先に兄がいた。
俺が今まで面会を許されなかった時点で分かってはいたがどうやら元の世界での病弱が嘘のように元気に過ごしているようだ。心なしか顔色も良さそうに見える。
身体が元気になったからか本人の雰囲気も随分違って見える。自信なさげでオドオドして見てた兄はアニメやゲームに登場するような慈愛に溢れた存在そのままに見えた。
「おお、聖者様……」
「いつ見ても神々しい御姿だ……」
周りの兵士たちが圧倒されている。
俺の知っている兄は病弱な姿だったからなんだか知らない人を相手にしている様な気持ちになった。
「ナオ、会いたかった……。元気にしてた?体調はどう?」
「あ……ええと……アキ、様……?」
嬉しそうに近況を聞いてくる兄は俺の発言で徐々に顔を曇らせた。
「そんな……。僕たちは兄弟なんだからそんな呼び方をしないで」
兄に申し訳ないと思いつつ、こればかりは仕方ないと思う。周りの兵士の視線が痛すぎる。
「アキ様」を「兄」として扱うと王国の偉そうなおじさんたちにそれはもう嫌な顔をされた。
「いくら血縁関係にあるとはいえ聖者様に対して無礼がすぎるぞ」
などと言われた。その件をユーリに詳しく聞けば
「聖者に選ばれた時点で今までの家族関係はほぼ切れる。それくらい神聖視されているのだ」
と言われた。
本当なら俺のような存在はいつ追い出されてもおかしくないそうなのだが、異世界召喚された聖者というイレギュラーな存在である事、浄化の力は本人の精神状況で左右されるほど不安定な魔力であることを踏まえてここに残されている。
ただでさえ腫れ物扱いされている今、周囲を刺激するのは得策ではないとのことで兄の事を「アキ様」と呼んでいた。
「本来であれば弟君の対応が正しいですが、今回は聖者様きっての強い要望です。今まで通りに対応してください」
兄の横にいた冷たそうな男が発言した。
身なりからしてかなり身分の高いように見える。
俺をフォローしつつ兄を気遣うような発言で、この男が兄を大事に扱ってくれているだろうことはわかった。
お礼代わりに頷くと兄に向き直る
「久しぶりだな。でも兄貴に体調を聞かれるのは不思議な気分だ」
「ふふ、こっちに来て忙しくしてたけどすごく元気なんだ。ナオにも見てもらいたかったくらいね」
お互い自分がこれまで何をしていたのか語り合った。兄については機密情報が多すぎて詳細な事は全く聞けなかったが。
自然と俺の話が多くなり、話題はユーリの事になった。
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