鍵宮式:異世界専門学校
菊成朔
第1話 無条件ではない異世界へ
異世界に行くのは、夢でも選択でもありません。無条件に巻き込まれる――それが異世界の常識です。
無条件に飛ばされるもの。
それが異世界の常識でした。
つまり、意図して異世界へ向かうことは、本来できないのです。
異世界の世界観を理解し、十分な準備を整えた者であれば、適応する可能性は高まります。
しかし現実には、理不尽な状況に巻き込まれ、試行錯誤の末に生き延びる者がほとんどです。
それが、これまで異世界に行った者たちの歩んできた道でした。
もし、事前に情報を知り、備えたうえで異世界へ旅立てるとしたら――。
あなたの前に、どれほど豊かな未来が開けるでしょうか。
貴方の異世界への旅立ちを、心より支援いたします。
異世界専門学校 校長
私は勉強が嫌いだ。でも働きたくない。
世の中の学生の本音の塊みたいな事を私も思うその1人だ。
やりたい仕事なんてあったら、こんな事悩んでない。一生ゲームして暮らしたい。
でも、プロゲーマーになるとか配信者になるとかいう幻想はもう卒業したちょっとめんどくさいお年頃だ。
そんな時、目にした。ある鮮やかなパンフレット。
異世界専門学校。
最近は異世界で働く人もいると聞く。
そのまま行ったきりの人もいれば、両立していたり、合わなくて帰ってきてる人もいる。
私の親戚にもいたような気がした。
現実世界では適応しなかった人も向こうではうまくやれてる人もいるらしい。
私もこの世界には理不尽なことが多すぎると思っていた側の不適合者だ。
どうせ働くなら試してみようか、異世界に!
私はやたらと鮮やかなパンフレットの中に入ってる入学願書にサインした。
入学式当日。流石に今話題になっているだけのことはある。高校卒業してすぐの子たちだけでなく、大学生からや、ちょっと社会人挟んだ人までいる。年齢層は学校としてはかなり広いのではないだろうか。
ちなみに社会人異世界職業訓練コースも別校で運営してるらしい。
本当にいくつになっても異世界に行ける選択肢を持てるということがこの学校の方針らしい。パンフレットで熱く語ってあったのを覚えている。
マジ学生組は、本当いろんな人間がいた。
偏差値をほぼ関係ないとするからそりゃそうだ。ただ意外だったのは、制服をちゃんと来て、渡された資料を丁寧に読んでるような子も多くいたことだった。ただ目新しいのかも知れないけど。
国内のものとは聞きなれないチャイムが鳴り、校長の挨拶が始まる。
チャイムが鳴り、ざわざわしていた空気が少しだけ落ち着く。
壇上に現れたのは、思ったより普通の――いや、どこか浮世離れした雰囲気のあるおじさんだった。
派手なマントとか杖とかはない。ただ、目だけが異様に澄んでいて、直視するのがためらわれる。
「――新たなる旅人たちへ」
第一声から、普通の学校っぽくない。
私は適当に姿勢を正して、ふーん、って感じで聞く体勢に入った。
「異世界は、誰もが行ける場所ではありません。
あなたたちがこの世界で”学ぶ”という選択をしたのは、
無意識のうちに異世界を”選んだ”からです。」
なんか哲学っぽい。眠くなりそう。
「ここで学ぶことは、魔法でも剣術でもありません。
“適応”です。
知らない世界に放り込まれたとき、自分を守り、
自分を生かす方法を、ここで身につけなさい。」
適応……
なんか面倒くさそうなワード出てきたなぁ。
「さあ、今日から君たちは、異世界の入り口に立った。
まずはオリエンテーションからだ。世界に飛び込む準備を整えよ!」
わー、と拍手が起こった。
私も一応手を叩いたけど、なんかちょっとだけ、本当にちょっとだけ――わくわくしてた。
校長のスピーチで入学式全体の指揮が上がり、これからどうなるんだとそれぞれが期待に溢れてるそんな空気が会場を支配していた。まるで測ったかのように。
教頭が壇上に上がり、各コースの説明段階に入った。
「初めにここからは、この学校ならではのコースになりますので、パンフレットに記載されていない事をお話しします。他言無用でお願いします。規則違反が見受けられた場合には、それ相応の処分、時には退学ということもありますので、しっかり守ってください。」
ゴクリと先ほどの熱をかき消すように、皆が集中するのがわかった。退学すなわち、異世界に行く手段を失う事はここにいる誰もが望んでいなかったから当たり前だった。
そういえば教育の中身とかどこにも見かけなかったのはそういうことか。と勝手に納得していた。
「それでは各コースについて、説明させていただきます。こちらの映像をご覧ください。」
という合図の元、会場が暗転し大きなビジョンが映し出される。
そこには本校紹介ムービーと題して数分間の動画が流れ始めた。
こんにちは。異世界学校へようこそ!
ここでは異世界で生活していくためのイロハを教える学校となります。
是非みなさんならではの異世界での過ごし方を見つけて見て下さい。
まず初めに、一言で異世界と言っても種類があります。
みなさんの目的に合った異世界に行く事が望ましいと思いますので、そちらからご紹介させていただきます。
その言葉の後に別の紹介ムービーいわゆるイメージビデオのようなものが流れ始めた。
以下のジャンルそれぞれの紹介された。
1.騎士、冒険者コース
2.僧侶、商人コース
3.魔術師コース
4.傭兵、用心棒コース
他にもあるらしいが、今は住民枠がいっぱいの為入界できないらしい。
話の内容だと、上記のはざっくりと分けただけであり、細かくそれぞれの適正や希望に合わせて変化するらしい。
とにかくまずはイメージをということだ。
一度教室に行き、希望アンケートを書くらしい。その後、適性検査を受けて、その結果の元でコースを振り分けるということだ。
本格的な方針に思わず胸が高鳴る。
それは私だけではなく、教室への足取りはみな軽そうだった。
教室に座ると早速アンケートを渡された。
希望コースだけかと思ったら意外と項目が細かく、読むのにも一苦労した。
これまでの実績、特技、得意科目、運動神経、人間関係、精神状態、自覚できる範囲で結構ですとは書いてあるものの、細かく記載するほど貴方の適正がわかります。と大きく注意書きしてあるので、流石に誰も適当には出せなかった。
「ご記入ありがとうございました。それでは回収します。次は適性検査になりますのでしばらくお待ちください。」
教卓に立った先生らしきな人がそれだけ言うと、教室からそのまま出て行ってしまった。
なんとも手持ち無沙汰で、みなソワソワしている。コミュ力を発揮して、もう雑談に花を咲かせてる奴らもいれば、早速本を読み始める奴。ひたすら貧乏ゆすりしてる奴。寝てる奴。本当様々だった。
「ねえ、どこの希望出したの?」
方をポンポンと叩いて後ろの子が話しかけてきた。
おそらく私と同い年ぐらいであろう子が、ちょっと小柄な目をキラキラさせて話しかけてきた。
「よくわからないけど、魔術師コースにしたよ。貴方は?」
特に隠しても仕方ないし、暇つぶしにちょうど良いなと思ってなんなく答えた。
すると彼女はぱあっと明るくなって食い気味に顔を寄せてきた。
「マジ!一緒!あんまり女子ウケの少なかったからね。」
ちょっと唾を飛ばしながら共感を得られた事が嬉しいようで、勝手にうんうんと頷いていた。
「やっぱりなるなら魔法使いっしょ!」
何がやっぱりなのだろうと思いつつもなんとなくそうだね。と適当な相槌を返してしまう。
そんな会話をしてると、さっきの教卓にいた人が戻ってきた。
「全員体育館に移動する。2列ごとについてきて下さい。」
ガタガタと皆が準備し始めて、列を作る。
彼女は去り際に、「一緒になれると良いね。」と言って手を振り列に消えて行った。
まあいろんな子がいるな。と思いながらも私も身支度を整えて教室を後にした。
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