第2話

「みんな、いくよ⁉」

「うんっ!」「は、はい!」

「ピュアピュア・マスマティカル・コース! 履修!」

「ピュアピュア・サイエンティフィック・コース! 履修!」

「ピ、ピュアピュア……ヘルスアンドフィジカル、コースっ! り、履修!」

 その掛け声を合図に、あたしたちの持ってるタクトが輝くオーラに包まれる。そして、その光がギンギンに溜まったところで、

「ピ、「「ピュアピュア! ファイナル・イグザミネーション!」」……の術」 

 三人同時に、そのタクトを振り下ろす。すると、濃縮されたピュア・エナジーが光線となって敵のサボルゾーに発射されて、

「キリツ、レイ……サヨーナラー……」

 なんて声をあげながら、そのサボルゾーは浄化された。


「「私たちのやる気スイッチは、入りっぱなしだよ! 私たち……スクールガール・ピュアピュア!」」

「ん……んぅっ……」



  *



 あたし、舞咲まいさき女々子めめこは、保健体育が大好きな中学二年生! ひょんなことから伝説の生徒「スクールガール・ピュアピュア」の追加生徒ピュアヘルスに変身して、世界を守ることになっちゃった⁉

 ピュア・マスマティカのアリスと、ピュア・サイエンスのリカと一緒に、みんなのお勉強の邪魔をするサボルゾーたちと戦ってるんだ!

 ……っていう、設定。


 いや、設定っていうか、大筋では間違っていないですよ? だってあたし、ホントに魔法少女ヤってるし?

 ま、まあ……正直「スクールガール」とか言っていい年齢じゃないし……。セーラー服をモチーフにした衣装も、イタいアラサーが下手なコスプレしてるようにしか見えないというか……。

 いや、そんな惨めな状況になってる自覚があるなら、魔法少女なんてさっさと辞めればいいんだろうけど……。でも、そうするわけにもイカない理由があって……。


 さっきの戦いのあと。

 一人でトイレにイカせてもらってたあたしは、アリスとリカを待たせている場所に戻ってきた。でもそこで、二人がこんな話しをしているのを盗み聞きしてしまった。

「つか、メメコやばくない? 今日のアレ、見た?」

「あー、決め技のとこだよねー? ぷぷ。なんか、一人だけ『……の術』とか言ってたよねー? 忍者かよ!って思ったー」

「いや、それもなんだけどさ……。それより最後の浄化のとき、なんかモジモジしてなかった? 変な声も出してたし……」

 う……。

「いつも戦いのあとトイレ行くのも、多分あれ……『たぎっちゃった』のを『後始末』してるんだよ?」

「えー⁉ そ、それって、敵の浄化シーンみて興奮してたってことー? やだー! マジでキモーい!」

「だよねー……。私も、もうあの人と一緒に戦うの、嫌なんだけど……。妖精に言ったら、別の人にチェンジしてくれないかな……」

「私も絶対ムリー!」

 う、う、う……うううぅーっ!


 いたたまれなくなったあたしは、その場を逃げ出していた。

 だ、だって、だって、だって……。二人の言ってること……ほぼほぼ、合ってるんだもん!

 ああ、そうだよ! あたしは実は、毎回「浄化シーン」見て興奮してるよ! 戦いのあとはいつもトイレに行って、「後始末」してるよ! だって、そうしないとあたしは死んじゃうんだもん!

 だって……だって……実はあたしは……。


 あたし、舞咲まいさき女々子めめこは、人間の男の人から精力をもらって生きるサキュバス! でも、エロいことは苦手で、落ちこぼれで……いつもは仲間のサキュバスに土下座して、集めた精力をちょっとずつめぐんでもらって生き延びてたんだけど……。ある日、魔法少女が敵モンスターと戦ってるところに出くわして……わー、ビックリ! なんとなんと、彼女たちが最後の合体技で「敵を浄化するとき」に、「男の人がそういう行為をしたとき」と、全く同じエネルギーが放出されるってことに気づいちゃったの!

 実はあたし、男の人を誘惑する技術を勉強するために、通信教育でくノ一の勉強もしてたから、変わり身の術でそれっぽい衣装に変身したり、火遁の術の応用でタクトに火を点けたりして、追加戦士になりすますことができちゃったよ! よーし! このまま偽魔法少女として、精力集めちゃおー! いつバレるか分からない状態も、ハラハラして興奮するね⁉ エロティカってるーっ!

 ……というのが、真実だったんだから。


 でも、その真実は、ほとんど二人にバレちゃってたみたいだ……。

 っていうか、あの子たちに裏であんなこと思われてたの、普通にショックだし……。あたしも今後、あの二人と一緒に戦える自信ないよ……。


 ……ああもう! こうなったら、ヤッてやるよ! ヤればいいんでしょ⁉ 「サキュバスっぽいこと」を!

 淫魔、舐めんなよ⁉ サキュバスのコネと、通信教育のくノ一育成講座で学んだ技術を合わせたら、魔法少女なんかにならなくたって精力くらい余裕で集められるんだから! 今すぐにでも、そのへんの適当な男の人つかまえて、サキュバス仲間のみんながヤッてるみたいな「普通の方法」で精力集めて……ピュアピュアも、その他いろんなものも! まとめて「卒業」しちゃうんだからー!


 そんなことを考えていたあたしは、完全に前方不注意で、

「きゃっ⁉」

 前から歩いてきてた人にぶつかってしまった。

 でもその人は、あたしの体を優しく受け止めてくれた。そして、慌てるあたしに優しい表情で微笑む。

「大丈夫?」

「は……はい」


 え、えっと……。そ、そっか……そう、だよね……。

 べ、別に精力集めるだけなら、誰でもいいと思うけど……。でも、せっかく「初めて」の相手だし、どうせだったら、こういう人に……。

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