第14話 香(かおり)のバイク

 春になった。丸神大学構内の桜もここぞとばかりに咲き誇っている。まさに満開だ!


「見て見て! 買っちゃったー!!!」

 大学の駐輪場で香田香こうだかおりが叫んでいる。そこには俺、ケンジ、リカの3人が集まっていた。


「ホンダCB400スーパーボルドールだよーん!」

 CB400。クセが少なく街乗りから峠のワインディングまで幅広く対応できるトータルバランスに優れた優等生バイクとして有名だ。エンジンは水冷並列4気筒。スーパーボルドールは通常のCB400にハーフカウルを装着して防風性、ツーリングの快適性を高めたモデルである。


「わー! カオリちゃん、かっこいー!!!」

「へー、すげーな……」

 俺もこのバイクには興味がある。HONDAらしい赤と白のツートンカラーで流れるようなボディラインが美しい。しかも新車かよ!


「まだ慣らし運転中なんだー」

 得意そうにカオリが胸を逸らせて言う。ちょっとむかつく。


「乗ってみる? 広田君、中山君なら特別試乗を許してあげる」

「え、いいの?」

 先にケンジが食いつく。俺もぐっとくるけど浮気はよくない気がする。


 ケンジがヘルメットを付けてバイクにまたがる。ちょっとアクセルを開けて排気音を聞いている。それからギアをローに入れてアクセルを繋いで半クラでスムーズに発進させる。お、うまいじゃん!

 駐輪場から構内の道路を走っていくと正門前のロータリーに出る。ケンジはそこでターンして戻ってきた。途中4速まで上げたことが排気音で分かった。5速トップに入れるには構内は狭すぎる。



「これって教習所で乗ってたのとおんなじバイクだよな。めっちゃ乗りやすい」

 俺がカオリに言った言葉にソウちゃんがひっかかった。


「ケンジ、お前教習所行ったのか?」

 あ、しまった! 2輪免許のことソウちゃんには内緒にしてたんだ。


「あ、うん。実は夏休みに。帰省から帰ってから……」

「そうか。なんで俺に言わなかったんだ?」

「だって俺が免許取るって言ったらソウちゃん機嫌悪くなるじゃん!」

「別に機嫌悪くなんかなってない!」

「おいおい、やめろよ。痴話げんかは」 そんな俺たちを見てカオリが仲裁に入る。

「そんなんじゃない!」 俺たちは声を揃えて抗議した。


 免許のことバレちゃったけどそれ以降ソウちゃんもそのことについては何も言わない。隠しごとがなくなって俺は正直ほっとした。




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