もしも殺して愛せたら

子律

もしも殺して愛せたら

初めての夜は足先が凍るような雨の日だった

若い2人の3年に終止符を打つようなセックス


友達になんて話をしよう

「アイツの愛撫が下手だった」とでも言おうか

でもきっと下手なのは私の方よ

私で何人目なのかな

これで2桁突破してたりして


1年目は理想のままの彼氏で

理想のままの世界だった

毎日一緒に手を繋いで学校に行く

お昼は友達と席を代わってもらって必ず隣で

毎週日曜日には外でデートして

ごく普通の幼いカップルだった


2年目にあなたは変わってしまった

私以外の女の子と楽しそうに笑う

一緒に学校に行かなくなった

お昼は必ず毎日違う子が隣に座ってて

毎週日曜日は私の家で何となく過ごす

少し大人になったのかな


3年目であなたは居なくなった

ほとんど会うこともなくなって

学校には来なくなった

教室からあなたの席は無くなって

毎週日曜日はパジャマのまま1日涙を流した

私も大人になったのかな


3月31日

「別れてくれ」

メッセージの通知が目に入った

あぁそろそろ来ると思っていたよ

今学校であなた有名人なのよ

毎月違う女の子を家に招いてるって噂で

私もそのうちの一人だって


「その前に会おうよ」

これが最後のデート

初めて行く彼の家が最後のデート


3年も付き合ってたのに初めての場所

お父さんもお母さんも家にいない


どうして?


別れたかったのはあなた

そんな物欲しそうな目を向けないで

私もうあなたが知ってる子供の女じゃない

他に女が出来たならそう言って

噂に振り回されるのはあなたじゃない、私

彼に手をあげた

こんなにも愛しているのに

私だけだったの

3年間想い続けていたのも

何度も1人で夜を越したのも


死ねばいいと思った

最期にみるのが私なら

死んだ後も私を想えるでしょ

私も最期はあなたの事を想っていたい

包丁でいいのかな

ねぇ、一緒に死のう?

一緒に想って忘れないまま

別れる前に恋人ごっこで


「愛してる」

15年生きて初めて貰った愛の言葉

涙が止まらない

彼を愛せていないのは私の方だった

私が愛していたのは彼ではなく理想

確かに愛していたはずなのに

理想にはまらない彼に段々呆れていた


他の女を家に上げたことには怒っていない

その汚れた家に私を上げたことに怒ってるの

他の女に使ったあなたにも怒っていない

その汚れた身体に私を乗せたことに怒ってるの

他の女と寝たあなたにも怒っていない

その汚れたあなたに惚れた私に怒ってるの


私は私を愛せない

あなたを信用出来ないから

常にどこかで疑っていて

付き合っていること自体にブランドを感じていた

そんな自分が嫌いであなたに依存した

あなたが理想でいてくれたら

理想の彼女になれば私を愛せると思ったから


あなたが理想にはまらなくなる度に

またひとつ私を嫌いになる

結局は全部自分のためだったと気付かされるから

私が空っぽであなたで埋めるしか無かったから


やっぱりあなたは上手だね

絡めても触れても優しくて

本当に心から愛してくれてるんだって感じる愛撫

繊細だけど大胆で

ずっと心を見透かされてるよう


あなたと繋がりたかった

それが私の一番の理想で愛のカタチだった

それしか知らない空っぽの私を

満足いくまで触れていて

あなたが満ちてイクまで


16年目の朝

シーツには茶色のシミが出来ていた

混ざってしまってどっちの物かも分からない

へばりつく身体と部屋中満たされた鈍い鉄の匂い

あなたが最期にいった


「おめでとう」

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もしも殺して愛せたら 子律 @kor_itu-o

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