第2話
レイトは異空間から、いくつか【ニコイチ】で作成したアイテムを取り出し、ボスの再生部分に向けて使用してみる。
まずは、凍結効果のある液体を噴射するスプレーと、粘着性のネットを発射する装置からだ。
「凍結で再生を遅らせる!」
「これならっ…!」
粘着ネットも、力任せに引きちぎられるか、筋肉部分に絡みついた部分は一度パージされ再生によって新しい部分を作り出してしまう。
「流石にズルくねぇっ!?」
レイトは焦りを見せ始める。どんなに強力な一撃を与えても、持続的な効果を与えても、この驚異的な再生能力の前では無意味に思えた。
『全部再生されるじゃん!』
『チートすぎんだろこのボス!』
『レイトさんのアイテムも効かないのかよ…』
『これはガチでヤバイかも…』
『おっさん終了のお知らせw』
『まぐれ当たりはもうないぞ!』
『へいへい!おっさんびびってるよ!』
『アンチ大歓喜www』
『ざまぁwww』
『ロゼッタちゃんにげてー!』
コメント欄に、アンチの煽りも混ざり始める。
(くそ…どうする? 切っても、叩いても、凍らせても、粘着させても、全部再生される…何か、何か根本的に再生させない方法が…)
レイトは、自身のスキル、【廃品回収】と【リサイクルボックス】について深く考える。再生するのは、有機質の結合部分だ。
そして、再生によって元に戻ろうとするのは、切り離された無機物のパーツだ。
もし、その無機物のパーツそのものを、再生される前に、この場から、完全に消し去ることができれば……!
レイトの顔に、閃きが走る。まるでゲームの攻略法を見つけたかのような、興奮した表情だ。
レイトはロゼッタに、新たな、そしてこの戦いの鍵となる戦略を指示する。
「ロゼッタ! お前は奴の筋肉を一気に切り裂け! あとはまかせろ!」
レイトの指示に、ロゼッタが力強く頷く。その瞳に迷いはない。
「御意のままに、ご主人様。」
ロゼッタは流暢に、丁寧な言葉遣いで応え、ボスの振り下ろす、鎖付きモーニングスターの腕に駆け寄る。
ロゼッタが両手に持つ逆手にかまえた鋭い小太刀が、ボスの装甲ではなく、その下で蠢く有機質の結合組織に狙いを定める。
シュパッ! ロゼッタの一閃が、右腕の肘部分、太い有機質のパイプを一気に切断し球体関節を弾き飛ばす。
「ピギッ!」
右腕がボスの体から分離し、ガシャンと音を立てて地面に落ちる。
切断面からは有機質の繊維が猛烈な勢いで伸び始め、球体関節から前腕へと再結合しようとする。
まさに、再生が始まろうとするその瞬間!
「ここだ!【廃品回収】!」
ロゼッタが腕を切り離し、分離したと同時に、レイトはすかさず【廃品回収】スキルを発動させた。
自身の周囲、半径20mの空間にスキルが展開される。
一瞬の輝きと共に、地面に落ちたボスの右腕パーツ、分厚い鉄球部分とそれを支える装甲が無音で異空間へと吸い込まれていく。
『うおおおおおおおおおおお!』
『消えたああああああああああああああああああああああ!』
『マジかよ【廃品回収】!』
『再生する前に無機物だけ回収したんだ!』
『やべえ、このコンボえぐい!』
『これがレイトさんの対再生戦略!』
『天才かよおっさん!』
『ロゼッタちゃんナイスカット!』
『これボス詰んだんじゃね?』
『いや、まだ分からないぞ!』
『ロゼッタちゃんのスカート!』
『神回避!』
『アンチ息してるか?www』
『これはまぐれだ!』
『おっさん調子乗んなよ!』
『ロゼッタちゃんのパンツ見えそう!ってか見えた!』
『メイド服最高!』
『早く次を!』
『熱すぎる!』
コメント欄が狂喜乱舞する。
有機質の切断面は虚しく蠢くだけで、結合すべき無機物パーツは既になくなっている。再生は失敗に終わった。
「いやいや、お掃除の基本ですよ? 要らないものはさっさと片付ける、これ鉄則!」
レイトは涼しい顔でそう言いながら、ボスが失った右腕の代わりにもう一本の腕を振り上げ、クローを振り下ろそうとするのを牽制する。
この戦法で、アビス・ガーディアンは次々と腕を、脚を、そして装甲パーツを失っていった。
その度に、レイトは【廃品回収】で回収した無機物パーツを異空間に送っていく。
アビス・ガーディアンは再生能力を封じられ、その巨体は満身創痍となった。
多くのパーツを失い、動きが鈍くなる。しかし、まだだ、蠢く筋肉の内側に謎の古代文字が見え隠れし一瞬輝いたかに見えると高密度の魔力波を放ちはじめた。
「まずい! 避けろ、ロゼッタ!」
ロゼッタは素早く回避行動を取るが、全てを避けきれない。その時、レイトは異空間から、先ほど回収したばかりのボスの分厚い装甲板を複数枚取り出した。
「よし、間に合わせだが!【ニコイチ】!」
レイトが装甲板を組み合わせ、スキルを発動。瞬時に、複数の装甲板が繋ぎ合わされ、レイトとロゼッタを覆う巨大なな盾が生成された!
『おおおおおおおおおおお!』
『ボスパーツで盾作った!?』
『その場でニコイチ!?』
『すげえ!レイトさん器用すぎ!』
『流石ジャンクマスター!』
『即興ニコイチやべえ!』
『万能すぎるスキル!』
『ロゼッタちゃん頑張れ!』
『メイド服最高!』
『おっさんずるいぞ!』
『まぐれ乙www』
『どうせすぐ壊れる!』
『無駄無駄無駄ァ!』
『ロゼッタちゃんの太ももが!』
『いいぞもっと映せ!』
『アンチ静かすぎwww』
『変態湧いてきたなwww』
コメント欄が盛り上がる。魔力波が盾に直撃し、激しい衝撃が走るが、盾はなんとか耐えきった。
「ふぅ…危なかったぜ。よし、そろそろ決めるか! ロゼッタ、ちょっとだけ時間稼ぎを!」
「承知いたしました、ご主人様」
ロゼッタがボスの攻撃を引き付けている間に、レイトは【リサイクルボックス】から
奇妙な形状のアームキャノン(複数のゴ
さらにさきほど回収したばかりのボスの右腕――巨大なモーニングスターの鉄球部分と
以前回収していた
『え? ボスの鉄球を砲弾に!?』
『【ニコイチ】で砲弾強化してるのか!?』
『やることが規格外すぎる!』
「おい、お前ら矛盾って知ってるか?」
「最強の盾に最強の弾(改修済み)をぶつけたらどうなるかよぉーく見ておけよ!!」
「さて…今週のハイライトゥ!!!テケテケテケ…」
視聴者サービスなのか本気なのか分からない掛け声と共に、レイトがアームキャノンを発射した。
放たれたのは、見た目は鉄球だが明らかにおかしなオーラを纏い、しかし恐るべきエネルギーを秘めた混沌の塊!
混沌の塊はアビス・ガーディアンに直撃、轟音と共に弾け飛ぶ。
胸部の装甲はすでに吹き飛んでおり、コアらしき赤い球体はその光を失いつつあった。
ボスの巨体が大きく揺らぎ、全身の装甲が剥がれ落ちていく。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
『当たったあああああああああああああああああ!』
『決まったあああああああああああああああああああああ!』
『レイトさん!!!!!』
『マジで倒したあああああああああああああああああああああああああ!』
『最強のおっさん!』
『ロゼッタちゃん勝利のポーズ!』
『アビス・ガーディアン撃破!』
『今日の配信神回すぎる!』
『涙出てきた…』
『おっさん最高だぜええええええええええええ!』
『アンチどこ行った?www』
『黙ってたらバレないと思ったかアンチ!』
『あのハサミはなんだったんだwww』
『最初から見返してくる!』
『興奮で寝れない!』
『ロゼッタちゃんのおかげだぞ!』
『おっさん調子乗んなよ!』
『このコンビ最高!』
『ありがとうお掃除配信!』
『次枠はよ!』
「ヴァ…gvi…!」
最後の機械的な咆哮を上げ、アビス・ガーディアンは活動を停止した。
「はい、お掃除完了! 今日もいっぱいゴミが集まりましたねー!」
レイトは軽く息を弾ませながらも、どこか飄々とした様子でスキルを発動。
倒れたボスの巨大な無機物部分が、次元の渦に吸い込まれていく。
その様はまるで、大量のゴミが掃除機に吸い込まれていくかのようだ。
「お疲れ様でした、ご主人様。片付けも滞りなく完了です」
ロゼッタが近づき、無表情ながらもどこか満足げにレイトの服についた埃を払う。
「今日の成果も楽しみだなぁ…【リスト】見るのが!」
レイトは満足げにそう呟いた。コメント欄は喜びと興奮の声で埋め尽くされていた。
かつて、誰からも見向きもされなかった不遇職【ジャンク屋】。
15歳でその職を授かり、十数年間、街の片隅でゴミを拾いながら一度は夢破れた、遅れてきたおっさん冒険者。
ゴミしか拾えないと思われたスキルで、まさかダンジョンボスを、それも再生能力を持つ強敵を打ち破り、今や世界中の注目を集める伝説の配信者となった男。
彼、レイトと相棒のメイドゴーレム、ロゼッタと共に歩む、波乱と爆笑に満ちた成り上がり物語が、ここに完結――。
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