さよなら来世、まだ現世

ばあちゃんが静かに語りかけてくる。

いいかい?よくお聞き、と。


「わたしたち妖怪の存在は人間さまのお陰であると知りなさい。恐怖を与えるのは、ただひとりの人間さまの為にするものではない。多ければ多いほどいい。

ー…、おまえは人間さまから忘れられてはいけないよ。そうなったら、人間さまの恩恵から与えられるわたしたち妖怪の存在は、形をなくすのだから」


わたしは五歳だった。

それを理由に言いわけをするわけじゃないが、当時は難しくて理解できなかった。


それよりも、長時間正座をしていたからか、足の痺れの方が気になった。

ごまかすように、小さく足の指を動かす。

ばあちゃんが説教する時はいつもくどく、そして終わりが見えない。


ポケッとそんな風に意識をそらしていたら、苛立つ気配を感じて、慌ててうなずいた。

話は、ばあちゃんが納得するまで続いた。


きっと、わたしがちっとも理解できていないことに気づいていたんだ。

いつまでも終わらないことが、それを証明していた。


ばあちゃんが繰り返し教えてくれた言葉。

その言葉の意味を理解できるようになったのは、わたしが百歳をこえたあたりからだ。


わたしの夢は、来世で猫として生きることなので、さっさと現世を終わらせたい。

妖怪なんて、もともとあってないような、形のないものなんだし。


だからわたしは、誰ひとり驚かす真似もせず、絶賛引きこもり中だ。


だというのに、いまだにわたしたち妖怪を信じるものがいるもんだから、夢の実現は未確定だし、ばあちゃんもまだ当然、生きている。


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つらつら短編集【微ファンタジー】 ゆめの @bill0701

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