線路
私の部屋の窓からは、線路が見える。
線路とはいっても電車は走らない。
廃線となった寂れた線路だ。
生えっぱなしの草が、今では我が物顔で占拠している。
ある映画のワンシーンに憧れて、線路をこっそり歩いたこともある。
夏だったこともあって、無数の蚊に刺されて二度と近寄らなくなったけど。
だけど、虫刺されを気にする必要のない、この部屋から眺めるのは好きだ。
視界に影が入り込んで、線路を見ると、遠くのほうから電車が見えた。
廃線だから、もちろんそんなことが起こるはずもなく……。
「あー、なるほど今週もか」
仕事疲れの寝不足状態、気力体力0状態ーーそんなコンディションのときにだけ、なぜか走る電車が見えるのだ。
幻の電車は、陽炎の中を突き進んでくる。
私は、それに向かって手を振った。
「やっほー。元気ですかー?」
なんて、意味のない言葉を見えない乗客に投げかけてみる。
当然、反応はない。
「私は生きる屍じゃー!」
そう自棄になって叫んでも、やっぱり反応はなかった。
「そっちはどうですかー?」
と、聞くけれど、もちろんこれにも答えが返ってくるはずもない。
でも、なんとなくだけど、この線路の先に向かって、本当に走っているんじゃないかなって。
私は、漠然とそう思っている。
そして、たまたまこのコンディションのときにだけ、私の目にも見えるんだ。
だから、私は今回も語りかける。
「週明けから、またがんばります!!」
私の言葉が届いているかは、わからないけれど。
それでも、こうして私は線路の先へと、思いを馳せることが好きなんだ。
【完】
つらつら短編集【現代ドラマ】 ゆめの @bill0701
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