第2話:計画!

「ここを開けるためのカードキー、今は臨時のやつを渡しておくけど、いずれ正規のものを作らないといけないね」

「あ、はい! ………さっきはいきなり叫んですみません、、、」

「あはは! いいよいいよ、今の若い子の間だとこういう展開が流行ってるんでしょ? ザマス系ってやつ?」

「ざまぁ系っす、そんな金持ちのママさんみたいな語尾じゃ無いっす……」

「そだっけ? まぁその場の勢いで判断したのでなければ何でもいいよ〜」

「………うっすッ」


その辺は信用している。人は初対面時の第一印象がその後の8割を決めると言われているが、俺と叔父さんの場合、という、言わばのあまりにも巨大なプラスがある。


「―――随分とお父さんのことを信頼しているんだね」

「……………はいぃ? あ、えと、信頼とかではなく、」


いくら俺が身とは言え、それでもあの人はずっと俺の味方だという確信がある。


親のからには、一生をかけて面倒を見る。父上…………いや、は自分で生み出したものの責任は最後まで持つ、そんな人間だ。ここを紹介してくれたのも、小次郎おじさんなら、自分の弟なら自分の子を正しく生きさせてくれると思ったからだろう。


「捻くれてるんです、あの人は」

「そうそう、そういう奴だったよ兄さんは」


階段を下るにつれ、感覚が麻痺して感じなくなっていた薬品の匂いが、一気に強くなる。


どうやら、ここが目的地のようだ。タイル張りの地面と、近未来的なライトの線が規則的に巡らされた清潔な部屋。細部に至るまで施されたこだわりが感じられる、そんなスペースの中央にあるソファに腰掛けて、


「その子が、武蔵兄さんの子供?」


最近のモデルさんはそんなに詳しくないが、彼女らにも引けを取らぬほどの余裕さと美貌。同じく白衣を身にまとっているが、全身をラバースーツのようなもので覆っている、キレた朱色の眼鏡からこちらを視認するぐるぐる目が特徴の………おそらく金猫かねこ叔母さん。


下町したまち金猫かねこ叔母さんでーす、シクヨロぉ〜」

「……………コーヒー、美味しかったです」

「!? お礼を言えるなんて、クソ兄貴共にも見習わせたいっ!!」

「ほら、反応に困ってるじゃないか、無理やり若く見せなくても」

「あ゛あ゛ぁ゛ん??? っけッ! これだから名前がライバル同士はなぁ!!? 私だけその場合わせみたいな名前つけやがってよォ!!」

「それこそ俺に言われても……………」

「子供は2人までだと思ってたみたいだよ? 無視していいから、自己紹介」

「はい……」


言われてみれば、知ることに手一杯で挨拶を忘れていた。親父に知られたら怒鳴られるだろうな、と自責の念に浸りながら、せめて今までの無愛想の分声を張り上げる。






西園寺さいおんじ数多あまたです、これからお世話になりますッッッ!!」






◇◇◇◇◇






「さて、まずはうちの現状から話し合おう」


どうやら部屋はこれだけではなかったらしく、奥の会議室に連れられた。


「えー、まずうちの従業員ね。オーナー兼ヘッドヒーローの西園寺さいおんじ小次郎こじろう。ここでは何でもいいけど、表では『ボス』って呼んでほしい」


まず叔父さん、ボスの挨拶、一礼と共にこちらも座りながら礼を返す。


「そして、オペレートマネージャー兼技術担当の下町したまち金猫かねこ

「よろしくぅ! 金猫チーフって呼んでね!」

「よろしくお願いします」

「今はここに居ないが、人事兼経理担当の下町したまちサカキくん」

「私の旦那様だねぇ」


名字が違う時点で感づいていたが、ご結婚されていたのか。


「最後に、新しく入ってきた西園寺さいおんじ数多あまたを含めて4人の事務所だ。本当はもう一人いるんだけど、色々あって正規メンバーに含めてない」

「……………」


―――――少ない。

最初から聞いていたことだが、これで本当に御三家に対抗できるのか? そしてもう一つ疑問が残るが、それを含めての説明だろうと理解する。


「最終的な目標を語る前に、どうして僕が御三家を目の敵にするのかを説明したい」


目線から察するに、金猫チーフは事情を知ってそうだ。俺のための説明に感謝しつつ、言葉の後を目礼で促す。


「うん、僕は前の会社で新しい変身装置の開発をしていたんだ。今の環境は御三家三強、ぶっちゃけ三つに分かれてるのかすらも怪しい。僕らのチームはそれを変えたかった」




—————でも、




「開発されたゲイジーシステムはスパイによって情報が漏洩、御三家が共同で開発した新たな技術だとして世の中に公表された」

「……………それが理由」

「おじさんの苦労自慢はこれで終わり、これからの話をしよう!」


壁一面に映し出されたいくつかのデータ。その中には俺が知っているもの………というより、俺自身のデータも含まれていた。


「まず、数多くんには予定通り『サイドキック』の免許を取ってもらいます。更に言えばいずれ『ヒーローライセンス』もやってほしいかな」

「え!? ちょっと、待ってください、ヒーロー免許はダンジョン攻略者ランク、シルバー3以上ですよ!?」

「大丈夫、君の固有スキルならいける」




———追放の原因となった俺のスキルなら。




「君の『憑依』スキルには、ゴールドも夢じゃないような可能性がある。そのためにも早速明日、のブラックマーケットに出る」

「それと同時に、学校の準備もしなくちゃね」

「あーそうだった。確か寮生活だっけ?」


張本人を差し引いて、どんどん埋まって行く予想外のスケジュール。


「「……………うーん」」

「な、何か問題とか、」


頼む、何かしらあってくれッ!


「いや、学校のどこに秘密の通路を作ろうかなーって」


「……………だめだこいつら(そうですか)」

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