「ウチら、コンビニ行こうとしたら異世界に行っちゃったんだけど?」「はぁ?まあ、“転生”じゃないだけマシか……」

飯田沢うま男

第1章 いや、なんでこうなるんだよ

第1話 「とりあえずギルド探そうぜ。話はそれからだ。」

 昼下がりの教室。窓の外では秋の陽射しが柔らかく差し込み、教壇に立つ教師の眠気を誘う退屈な声が響く中、七川彩織ななかわさおり赤﨑紅葉あかざきくれはは互いに目配せすると、静かに席を立ち、誰にも気づかれぬよう校門を抜け出した。目指すは近所のコンビニ。サボり慣れた足取りで、二人は笑いながら歩き出す。


「はぁ〜。紅葉っち、勉強マジめんどくさくね?」

 彩織が手を頭の後ろに組みながら大きく伸びをする。


「勉強もそうだけどさぁ、やっぱ真面目に何かやること自体面倒なんだわ。」

 紅葉は煙草でも吸いたそうな仕草でポケットを探りつつ言った。


 その言葉に、二人は顔を見合わせて「わかる〜!」と声を揃えて笑い合う。現実の悩みやルールなんて、今この瞬間の楽しさの前では霞んでしまう。だからこそ、彼女たちはそのまま、現実の綻びに気づくこともなく歩き続けていた。


 数分後──ふと紅葉が立ち止まる。眉をしかめ、辺りを見回す。


「お、おい……あたしらがいた街にこんな景色なくねえか?」


 その声に彩織も足を止め、ようやく自分たちの立っている場所を見渡す。アスファルトの道も、ビルの影も、コンビニの看板もどこにもない。ただ風に揺れる広大な草原が一面に広がっている。


「え!? 紅葉っち、これヤバくね!? どこ、ここ!? どっかの公園? ってか、夢?」

 彩織の声が一気に上ずる。


 紅葉は一呼吸おいて冷静さを取り戻すように深呼吸する。


「彩織、何かよく分かんねえけど、まずはとりあえず落ち着くぞ。」


 二人は顔を見合わせ、周囲を見渡す。遠くに見えるのは、煙の上がる小さな町のような集落。見慣れぬ風景に心拍数が上がる一方で、どこかでワクワクする感情も押し寄せてくる。


「え、何これ? 異世界転移ってヤツ? アニメとかラノベのアレじゃん!? ヤバすぎん!?」


「んなわけ……いや、でもガチで急に景色変わったし……」


 状況は非現実的だが、確かに目の前に広がるのは現代日本ではありえない景色だった。重力も匂いも、風の肌触りも、やけにリアルだ。


 紅葉が先に歩き出す。

「彩織、まずはあの町に行こうぜ。こんな所で突っ立ってても何も分かんねえ。」


 草原を撫でる風の音をBGMに、二人は異世界と思しき地を歩き出す。不安と興奮が交錯し、時折顔を見合わせてはお互いを確かめ合った。


「ねぇ、紅葉っち。こういうのってさ、なんか魔法とか出てくるんじゃないの? 炎とかバーンってさ!」


 紅葉は少し考えてから肩をすくめる。


「魔法なんて……って思いたいけど、もう現実の理屈通じてねえし。もし使えたら便利っちゃ便利だよな。でも、どうやって使うんだよ……」

 そう言いながらも、内心では期待している自分がいることを否定できなかった。


 やがて二人は石造りの壁に囲まれた町に辿り着く。門をくぐると、石畳の道に沿って並ぶ建物たち。人々は見慣れぬ服を身にまとい、馬車がゆっくりと通り過ぎていく。まるで時代劇とファンタジーが混ざったような光景に彩織は目を輝かせる。


「紅葉っち、これってほんとに異世界だよね? ウチら、異世界転生モノの主人公になっちゃったってこと?」


「いや、転生ってよりは……転移? でもまあ、確かにここは日本じゃねえな。」


 そう結論づけると、二人は町を歩きながら情報を集めようと決めた。しかし、どこか非現実的な感覚がまだ抜けきらず、彩織はふと楽しげに言い出す。


「ねぇ、紅葉っち、とりあえず何か食べる? 異世界の食べ物とか気にならない?」


「メシ? おいおい、金ないだろ? ここじゃ諭吉ですら紙くずだぜ?」

 紅葉が現実的な指摘をするも、彩織はニヤリと笑って肩をすくめた。


「それも含めて、冒険じゃん? なんとかなるっしょ!」


 空腹と好奇心を胸に、彼女たちは異世界での新たな一歩を踏み出すのだった。帰り道が見つかるかは分からない。でも、今はその不確かさすら楽しかった。

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