第2話 恐怖の森路
森の奥深く、紫色の空の下、私たちは立ち尽くしていた。
巨大な蜘蛛の怪物が地面に倒れ、緑色の体液を撒き散らす。
私の手には、光の剣がまだ燦然と輝いている。
《無限の適応》――このチートスキルが、私に圧倒的な力を与えたのだ。
だが、その力を振るう私の背後では、彼女たちの震える吐息が聞こえていた。
桜庭彩花は顔を真っ赤にし、制服のスカートをぎゅっと握りしめている。
陽葵ひなたは目を潤ませ、地面にできた水たまりから目を逸らしていた。
水瀬涼香は冷静を装いつつ、微かに震える膝を隠そうとしている。
星宮真由は両手で顔を覆い、すすり泣きを堪えているようだった。
そして、白雪玲奈は無表情のまま、だがその瞳には恐怖の色が宿っていた。
「み、みんな、大丈夫か?」
私は剣を消し、振り返って尋ねた。
声は思ったより落ち着いていたが、心臓はまだ激しく鼓動している。
「……大丈夫じゃないよ! こんなの、怖すぎるって!」
陽葵が叫ぶ。
彼女の金髪のツインテールが、恐怖で乱れていた。
「悠斗くん……あんなの、倒せるなんて……ほんと、すごいよ。」
彩花が震える声で言う。
彼女の瞳には、感謝と怯えが混在していた。
「でも、このままじゃ……また来るよね、モンスター。」
真由が小さな声で呟く。
その言葉に、皆の顔がさらに青ざめた。
「ここにいても仕方ない。街か、村か、何か安全な場所を探そう。」
涼香が冷静に提案する。
彼女の銀髪が、紫色の陽光に怪しく輝いていた。
「……賛成。」
玲奈が短く答える。
彼女の声は、まるで氷の欠片のようだった。
私は頷き、森の奥を指差した。
「じゃあ、あの方向に進もう。なんか、開けた場所が見える気がする。」
私の言葉に、彼女たちは不安げに顔を見合わせたが、従うしかなかった。
こうして、私たちの旅が始まった。
だが、この森が、私たちに休息を与える気などないことを、すぐに思い知らされることになる。
森の道は、まるで生き物の腸のように曲がりくねっていた。
巨大な樹木が空を覆い、足元には苔と奇妙な光を放つキノコが点在している。
空気は湿り気を帯び、どこか甘ったるい腐臭が漂っていた。
私は先頭を歩き、光の剣をいつでも呼び出せるよう意識を集中させる。
彼女たちは私の背後に続き、互いに身を寄せ合っていた。
「ねえ、悠斗くん……この世界、なんなの? なんだっていうの?」
彩花が不安げに尋ねる。
彼女の声には、恐怖が滲んでいる。
「さあな……俺もわからん。けど、生き延びるためには、進むしかない。」
私は短く答える。
本当は、私も不安でたまらない。
だが、彼女たちの前では、強がるしかないのだ。
その時、突然、地面が揺れた。
ゴゴゴ、という低い響きが森を震わせ、鳥たちが一斉に飛び立つ。
「な、なに!?」
陽葵が叫ぶ。
「また……モンスター!?」
真由が悲鳴を上げる。
木々の間から、巨大な影が現れた。
それは、まるで岩石を組み合わせたようなゴーレムだった。
身長は十メートルを超え、腕は私の胴体ほど太い。
その目が赤く光り、私たちを捉える。
「うそ……こんなの、勝てるの!?」
彩花が叫ぶ。
「悠斗くん、頼むよ!」
陽葵が私の背中にしがみつく。
「離れろ、陽葵! 危ねえ!」
私は彼女を振りほどき、剣を呼び出す。
光の刃が再び私の手に現れ、ゴーレムの巨体を睨む。
『適応完了。対象:岩石ゴーレム。最適化:超振動刃。』
システムの声が響く。
私の剣が、微細な振動を帯び、まるで空気を切り裂くように唸る。
「くらえっ!」
私は一気に跳び、ゴーレムの胸に剣を突き刺す。
振動刃が岩を砕き、ゴーレムは咆哮を上げて崩れ落ちる。
破片が飛び散り、地面に大きなクレーターを作る。
「やった……!」
私は息を切らしながら振り返る。
だが、そこには、恐怖に震える彼女たちの姿があった。
彩花は再びスカートを濡らし、顔を真っ赤にしている。
「ううっ……ごめん、悠斗くん……怖くて……。」
彼女が泣きそうな声で言う。
陽葵もまた、地面に水たまりを作り、恥ずかしそうに顔を背ける。
「うわっ、私も……やだ、恥ずかしい……!」
真由は膝をつき、両手でスカートを押さえている。
「いやぁ……見ないで、お願い……!」
涼香は冷静を装っているが、彼女の足元にも小さな水たまりが。
「……っ、仕方ないわね。」
彼女が呟くが、声は震えていた。
玲奈は無表情のまま、だが彼女の白いタイツに濡れた跡が広がっている。
「……気にしないで。」
彼女の声は、まるで凍てつく風のようだった。
「み、みんな、大丈夫だ! 気にすんな!」
私は慌てて言うが、彼女たちの顔は真っ赤だ。
この状況、気にするなって方が無理だろ……。
だが、休息の時間はなかった。
森の奥から、新たな咆哮が響く。
今度は、複数の気配。
私は剣を握り直し、彼女たちを背に守る。
「またかよ……! みんな、俺の後ろにいろ!」
私は叫ぶ。
現れたのは、巨大な蛇のようなモンスターだった。
鱗は金属のように輝き、目はエメラルドのように冷たく光る。
その数、実に三匹。
「ひっ……蛇!? 嫌い、嫌い!」
陽葵が悲鳴を上げる。
「悠斗くん、助けて!」
彩花が叫ぶ。
『適応完了。対象:メタルサーペント。最適化:雷撃刃。』
システムが告げる。
私の剣が、青白い雷光を帯び、稲妻のように唸る。
「まとめてぶった切る!」
私は一気に突進し、雷撃刃を振るう。
剣閃が空を裂き、三匹の蛇は一瞬で黒焦げになり、倒れる。
「はぁ……はぁ……終わった。」
私は肩で息をする。
だが、振り返ると、彼女たちの状態はさらに悪化していた。
彩花は二度目の失禁でスカートがびしょ濡れだ。
「ううっ……もう、ダメ……。」
彼女がすすり泣く。
陽葵もまた、恐怖で三度目の失禁。
「やだぁ……私、こんなの初めて……!」
真由は地面に座り込み、顔を両手で覆う。
「怖いよ……怖いよ……!」
彼女の足元にも、新たな水たまり。
涼香は歯を食いしばり、だが彼女のタイツもさらに濡れている。
「……情けないわ。」
彼女が呟くが、声には力がなかった。
玲奈は静かに立っているが、彼女のタイツはもはや隠しようがないほど濡れている。
「……もう、慣れた。」
彼女の声は、まるで諦めのようだった。
「くそっ、この森、ふざけんな!」
私は叫ぶ。
彼女たちのこんな姿を見るのは、心が締め付けられる。
だが、立ち止まるわけにはいかない。
「みんな、立て! 街まで行くぞ!」
私は声を張り上げる。
「……悠斗くん、ほんと、頼もしいね。」
彩花が弱々しく微笑む。
「うん……悠斗くんがいなきゃ、私たち、死んでた。」
陽葵が涙を拭いながら言う。
「ありがとう、悠斗くん。」
真由が立ち上がり、小さく頷く。
「……あなた、すごいわ。」
涼香が素直に言う。
「……頼りにしてる。」
玲奈が静かに呟く。
彼女たちの言葉に、胸が熱くなる。
そうだ、俺が守るんだ。
どんなモンスターが来ても、絶対に。
だが、その決意も、すぐに試されることになる。
森の奥から、さらなる咆哮が響く。
今度は、まるで竜のような気配。
私は剣を構え、新たな戦いに備える。
「何匹来ても、ぶっ倒す!」
私は叫び、彼女たちを背に立ちはだかる。
だが、その時、彩花の小さな声が聞こえた。
「……また、ダメかも……。」
彼女のスカートに、新たな濡れ跡が広がる。
「うわっ、また!?」
陽葵も悲鳴を上げ、地面に水たまりを作る。
「もう、嫌……!」
真由が泣きながら崩れ落ちる。
「……っ!」
涼香が歯を食いしばるが、彼女もまた耐えきれず。
「……無意味ね。」
玲奈が冷たく呟くが、彼女の足元も同様だ。
「みんなくそくらえ! 俺が全部倒す!」
私は怒りを込めて叫び、竜の咆哮に向かって突進した。
この森は、まるで私たちを嘲笑うかのようだ。
だが、俺は負けない。
彼女たちを守るためなら、どんな敵でも倒してみせる。
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