第9話 始業式
「ただいまより、ジニアース魔法学園前期始業式を執り行います。一同、気をつけ。礼」
とうとう始業式が始まってしまった。始業式で挨拶があると言われてから4日。何度も何度も台本を考えてはやめ、考えてはやめを繰り返したが、とうとうしっくりする言葉は見つからなかった。どれだけ知識があったとしても、どれだけの経験を持っていたとしても、本番で役に立たねば意味がないというのに。今回はそのことをしっかりと味わうことになった。まあ生き死にがかかった本番じゃなかっただけ幾分かマシだと思おう。
はあ、しっかし気が重いな。まさか校長が
「ん? 授業担当? あ、言ってなかったっけ? ティーチ先生、君の担当は1年特進クラスの魔法学概論1だよ! 頑張ってね! あ、ちなみに他にもいくつか受け持ってもらうから。よろしく!」
とか言い出すとは。校長曰く、俺が特進クラスに教えて、特進クラスが一般クラスに教えてという構図を作りたいんだとか。まあわからんでもない。人に教えるというのは何よりの学びである。知識はもとより、伝え方に関しても工夫しなければいけないしな。そんなことを考えているうちにできるようになっていることは多々ある。
なんて考えていたら、式が進んで行っていた。校長の話、担任の紹介に続いて新任の先生紹介だそうだ。正直、校長の話は結構よかった。1年生、2年生、3年生それぞれに向けて簡潔に何を目指してほしいか、具体的に言えば1年生は先輩を目標に、2年生は良い先輩になれるように、3年生は卒業後のことを考えて励みなさいとメッセージを送り、そのために先生たちは協力を惜しまないと伝えていた。くっ、校長め、なかなかやるじゃないか。さすが長く生きてる魔法オタクだけある。
担任はというと特に嫌われている先生はいないみたいだ。よかった。嫌われている担任がいると、講師まで一緒になって嫌いになる生徒がいたり、逆に担任が嫌いな分講師にめっちゃ甘えてくる生徒がいたりするんだよな。どっちにしろ生徒も先生もメンタル不安定になるからそういうのがないに越したことはない。
さて、最後に新任の先生から挨拶をして終わりになる。俺の順番が最後なのは採用が決まった順だからか校長の嫌がらせか。
「はい、――先生、ありがとうございました。では最後に、マーリン・ティーチ先生です。ティーチ先生、お願いします」
ここに来ても何を話すかは決まっていなかったが、目線の先、1年生の列の最前にレオンの顔を見つけ、ようやく話すことが決まるのだった。
「あー、はじめまして。俺はマーリン・ティーチと言う。第5階梯の魔法使いだ。まあ、第5階梯にはなりたてだけどな。一応、4大属性は全属性使えるから、授業は安心して受けてくれ。担当科目は1年生特進クラスの魔法学概論1がメインになる。あとは各学年の魔法実践演習の講師としても当番が回ってくるだろうからよろしく。さて、俺の授業では主に魔法のイメージと魔力の操作について取り扱う」
と言ったところで、生徒がざわつく。当然だ。公爵家の人々ですら知らなかった魔法のイメージと魔力操作なんて生徒が知っているはずがないからな。
「最初は不安だろうが大丈夫だ。これができれば魔法の威力は上がるし、無駄な魔力を使うこともない。初めの一歩を踏み出すのは怖いがな、踏み出してしまえば案外楽だったりするもんだ」
切り結ぶ 太刀のもとこそ 地獄なれ 踏み込み行けば あとは極楽 ってね。
「だからと言って安易な道を進めばいいとは言ってないぞ。俺が言いたいのは自分なりに勇気を出してやってみろってことだ。その積み重ねが力になるし、きっとその勇気が誰かを助ける日が来るさ。おっと、あとの話は授業でな。じゃあよろしく頼む」
パチパチ……
とまばらな拍手が聞こえる。まあ、全員に刺さる話ではないわな。でも、レオンと初めて顔を合わせたとき、勇気を出して声を返したからこそ俺はここに立っているのだ。ここで俺がするべき話はこれだったのだと自信を持って言える。
壇上では校長が「よくやった」とでも言いたげな、満足げな顔をしてこちらを向いている。ちょっとムカつくな。
「ティーチ先生ありがとうございました。ではこれで新任教員紹介、及び始業式を終わります。一同、気をつけ。礼」
はー、やっとこさ終わった。今日は始業式の後各クラスで連絡事項を伝えて終わりになるらしい。担任を持ってない俺は当然やることなんかあるはずもなく、なんとなく校舎をブラブラしていた。というのも、実はまだ校舎のどこに何があるか把握してないんだよね。世界についてはだいたい知っている俺だが、こういう細かいところに関しては何故か知識が入ってなかったりする。
詰め込むなら全体マップだけじゃなくて詳細マップまで詰め込めよなと、ここにはいない誰かさんに向かって愚痴を垂れながら明日から通うことになる1年特進クラスの教室の確認をして帰宅した。
ちなみに非常勤講師に残業代はないのでさっさと帰るに限るのである。
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