第7話 非常勤
「参りました」
アスールさんが宣言する。と同時に観戦していた先生方がどよめいた。そこまでアスールさんが優秀だということだろう。
「いや、最後までアスール君が勝つとしか思いませんでしたよ」
とは校長の言葉。まあ最後まで俺もそう思っていたから仕方がない。ぶっちゃけ勝てるとは思っていなかったが、その場の思いつきでなんとか勝ちを拾うことができた。うん、初めてにしては上々なんじゃなかろうか。
「まさか、飛行魔法を早速使ってくるなんて思いもしませんでした。それに氷魔法まで」
そうか、飛行魔法と氷魔法、どちらもこの世界にはなかったものだから虚をつけたんだな。あ、そうだ。
「首都案内のお礼に教えて差し上げましょうか?」
「よろしいのですか!?」
よろしいも何も、お礼であるし、教えるのが俺の仕事である。決して、決してお近づきになろうなんて邪な考えから来た提案ではないのだ。
「はい、教えるのが俺の仕事ですから。さて、まずは氷魔法からですね。そもそも火属性魔法の本質は熱の加減と物質の状態なんです。熱したり、冷やしたりして、固体にしたり、気体にしたり、炎、つまりプラズマにしたりする。これに陸海空それぞれを司る地、水、風を合わせることで、色々な物質とその状態を再現できます」
「ぷら?」
「ずま?」
あ、プラズマっていう概念がないのね。了解。
「まあ炎や雷みたいなものだと思ってもらえれば。で、です。魔力を燃やすことで火を生み出しているわけですが、それに伴うのが温度変化です。その温度変化の応用で水を氷に変化させるイメージですね」
「ほう?」
「ほうほう?」
気づけば周りには先生方まで集まってきていた。この人たちも魔法オタクなのかな?
そのうち、周囲からは「ボンッ」という音が聞こえ始めた。たまらず実験して、熱してしまって水を爆発させてしまっているみたいだ。危ないので少量でやるように忠告して、飛行魔法の説明に移る。
「飛行魔法に関しては、火と風の複合で生まれた上昇気流を足の裏に作った魔力の膜で受け止めて空中でジャンプしました。もっと長く飛びたかったら魔力で翼でも作ればいいんじゃないですかね」
「だから僕は皆が怪我するって言ったんだよ。そんなこと超高精度の魔力制御ができなきゃ無理だし、翼を作ったとして鳥じゃないんだし操る自信は僕にもないね。皆、真似しないように」
そうか、これも知識経験チートの一環なのか。最初から当たり前のように使ってたが高度な技術だったんだな。
「それでさ、ティーチ君、君の実力は見せてもらったよ。採用すること自体には何も問題はない。ないんだが、実は先日常勤教員の枠が埋まってしまってね。非常勤しか採用枠が残されていないんだけれど……いいかな?」
「えと、はい。大丈夫です」
神によれば俺の使命? はここの教師になることらしいので、常勤だろうが非常勤だろうが変わらないだろう。ま、前世でも生涯非常勤だったしちょうどいいってもんだ。
ちなみに常勤と非常勤についてだが、常勤教員は担任業務や部活動・同好会の指導、あとは行事の運営など、授業以外の業務もある。まあ行事に関しては当日非常勤が手伝うこともあるが。それと常勤は月収だが非常勤はコマ給だったり、常勤は無期雇用で非常勤は有期雇用だったりするのだ。
「うん、よかった! じゃあ色々と伝達事項があるから僕の部屋に戻ろうか。アスール君、ティーチ君のお相手どうもありがとう。あとはティーチ君と2人でやっておくから、今日はもうお戻り」
気づけば見知ったらしい先生と話し始めていたアスールさんが校長に返事をする。
「はい、こちらこそありがとうございました」
「うん、ティーチ君がまたお世話になると思うから、その時はよろしくね」
校長のその言葉に、俺たち2人は揃って首を傾げるのだった。
校長室に戻ってきて、ソファに腰掛け、漸く少し落ち着くことができた。と思うと校長は何かカチャカチャと音を立てて準備している。
「いや、音を立ててごめんね。お茶を入れているのだがあまり得意じゃないんだよ」
「お気になさらずともよろしいのに。それに、お茶なら俺が淹れますから」
前世の俺はなかなかの紅茶マニアだったからな。お茶の淹れ方なんてそれこそ御茶の子さいさいである。
慣れた動作でお茶を淹れ終えると校長に感謝される。こういうの、なんだかむず痒いな。俺はできることをできるなりにやっているだけなのに。
「さて、ところでティーチ君は
……ん? 魔法階梯?
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