第6話 教員採用試験
「うん、君、採用で!」
と校長の口から出た瞬間、一瞬自分が何を言われているかわからなかった。隣に座るアスールさんもポカンとしている。
「いやいや、試験もせずにそんな……」
とこちらから言うが、
「おや、そんなことを言うのかい? まあウチでも試験やっても良いんだけど……。君、スペード公爵家でやったことのすごさ、気づいてないだろう?」
と校長に返されてしまう。すごいったってなぁ……。正直、自分が知っていることを答えただけなのでよくわからんというのが本音である。
「その顔はわかってなさそうだね。良いかい? まずは筆記試験だ。まあ基本的な問題は置いておいてだ。魔法で氷を作ることができるかという問に対して火と水の複合なら可能なんて答え今までの人類に出せた者はいないんだよ。しかも実技でそれを実演して攻撃魔法に使ってみせるだなんてね。さらに飛行魔法だが、こんなのが世に出回ったら皆空を飛びたがって失敗して怪我人が続出するね。見たところ論理的には可能だが超高度な魔法技術が必要だと思うよ、これ。まあ総じて言うと、君は知識も実技も化け物級だ。こんなことどこで学んだんだ、と聞きたいね僕は。スペード公爵が嘘を吐くなんて考えがたいし事実だとしたら君に対してできるこれ以上の試験なんてあまりないんだよ全くもう」
と息継ぎもせず早口で話す校長。さてはあんた、魔法オタクだな。まあそうでもないと魔法学園の長は務まらないか。
まあ筆記は良いとして……
「なら、校長先生や他の先生方にも、俺の実技を見せておこうと思うのですが」
「……うん、そうだね。それが丸いかな。いやしかし君の相手が務まるような者なんているかなあ」
おや、勘違いされているようだから訂正しておく。
「あ、いや実は実戦経験は無くて……。なので、自分にとっても良い経験になるかなと」
「え、そうなの? それにしてはオーラがあるんだよねえ」
それは神のオーラじゃなかろうか?
「じゃ、そうしよう。相手は……うん、アスールくんがちょうどいてくれて良かった。君にお願いするよ」
これには俺もアスールさんもびっくり。アスールさんが強そうだなというのは何故か会った時から感じていたが、実際にこのジニアース魔法学園を首席で卒業したうえ、若くしてこの街の守護を任されている期待の魔法剣士なんだとか。
この世界に来て初っ端からそんな強い人と戦うのかよ。知識だけじゃどうにもならない事だってあるんだよ?
――と思ってた時もあったのだが……。
「驚きました。ティーチ殿は体捌きがお上手ですね」
俺はアスールさんの剣を躱し続けていた。ふむ、前世では高校生の頃授業で剣道をやったが、そういうレベルじゃない。明らかに剣のキレが剣道の有段者以上である。そしてそれを躱している俺。何故だ。俺はもともとそんなに運動神経が良い方ではないのだが、何かこう、無意識に体が動くのだ。戦いの経験はなかったはずだが、しかし言い表すなら経験である。あ、これあの神様の仕業だな。知識と一緒に経験まで俺にぶち込みやがった!
しかし体に戦いの経験はあっても、戦いに関する知識はあっても、マインド的には実戦経験がないのだ。何が言いたいかと言うと、避けることばかりで反撃ができない。まあ相手に痛い思いをさせるのも嫌だし、痛い思いするのも嫌だし。自分で言い出したくせにみっともないとは思うが、前世的にそういう心を持っているのだ。仕方がない。
「あ、そこ隙ありです」
好きあり? 好きがあるってこと? 好きにありがとうってこと? なんて馬鹿なことを一瞬考えてしまったことを後悔する。脇腹を剣で一閃されてパックリいってしまった。決して深い傷ではないというか、ぶっちゃけあの闘技場で使われてた魔道具を使っているのでヒットポイントが減っただけなのだが、痛みはある。くっっっそ痛え。包丁で指切ったときの数万倍は痛いね。これで死なないの人間ってすごいなあ。
さて、身をもってこの魔道具の仕様を実感したところで、手加減なんてする余裕が無いことに気づく。向こうは殺す気満々だ。だがこちらは殺す気が持てない。あれ、これ負け確では?
となれば持久戦か。相手が疲れるのを待ち、氷で拘束するのが良いか。
「これは試験だよ。僕にあまりみっともないところを見せないでねー」
と野次が飛んでくる。はあ、仕方がない。では、ここは切り替えていこう。持久戦は一先ずやめて短期決戦だ。
ここは剣の距離だ。少し距離を取りたい。が、なかなか相手に隙が無くてな……。
ふと思いついた作戦。これは行けそうかな?
水魔法を盾状に使い剣を防ぐ。勢いを殺すと同時にパシャっと弾けさせて視界を封じ、その隙に少し距離を取ることに成功。続けて水の球を連射しながら
水の球を放ったのは地面に水をばら撒くため。態々空を飛んだのは上に注意を向けるため。そうして仕組んだ罠に、見事にアスールさんは嵌ったのだ。
「終わりです」
最後は氷で創った剣を相手に向けて終了だ。
「はい、参りました」
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