第21話 「牡丹文様 🌸 冬の華」
「牡丹文様に込めたのは、冬の静けさの中に咲く、誇りと気高さ。」 🌸
雪の降る夜、
古い屋敷の座敷で、一輪の花が咲いていた。
それは、見事な牡丹の刺繍。
濃い紅に染められた絹地に、金糸で繊細に縫い込まれた牡丹文様だった。
その座敷に、ひとりの少女が正座していた。
名は、サエ。
今日、サエは大切な節目を迎えていた。
生まれて初めて、家を継ぐ者として、正式な装いを許されたのだ。
袴の裾を飾る牡丹。
それは、ただの装飾ではない。
古くから、この家の女たちは、牡丹の花に誇りを重ねてきた。
「牡丹は、百花の王と呼ばれる花。」
祖母が、かつてそう語った。
「冬の厳しさにも負けず、
堂々と、美しく咲く。
強さと、気高さと、そして優しさを忘れずにな。」
◇
障子の向こうで、風が雪を運ぶ音がする。
冷たさに縮こまる体を、サエはぎゅっと引き締めた。
「……わたしも、咲けるかな。」
小さく、けれど確かに、つぶやく。
恐れも、不安もある。
それでも、この冬を越えて、
自分なりの花を咲かせたいと願った。
サエは立ち上がった。
袴の裾がすっと揺れる。
牡丹の花が、灯りの中で静かに煌めいた。
◇
外に出ると、世界は一面の銀世界だった。
月明かりが雪を照らし、まるで無数の小さな星が地に降りたよう。
サエは、静かに一歩を踏み出した。
寒さに震えながらも、
その背筋は、まっすぐ伸びていた。
冬の中に、
小さな、けれど確かな華が、咲こうとしていた。🌸
📖【この話に登場した文様】
■ 牡丹文様(ぼたんもんよう)
由来:百花の王と称される牡丹を図案化したもの
意味:高貴、美しさ、強さ、誇り、繁栄の象徴
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます