第21話 「牡丹文様 🌸 冬の華」

「牡丹文様に込めたのは、冬の静けさの中に咲く、誇りと気高さ。」 🌸


雪の降る夜、

古い屋敷の座敷で、一輪の花が咲いていた。


それは、見事な牡丹の刺繍。

濃い紅に染められた絹地に、金糸で繊細に縫い込まれた牡丹文様だった。


その座敷に、ひとりの少女が正座していた。

名は、サエ。


今日、サエは大切な節目を迎えていた。

生まれて初めて、家を継ぐ者として、正式な装いを許されたのだ。


袴の裾を飾る牡丹。

それは、ただの装飾ではない。

古くから、この家の女たちは、牡丹の花に誇りを重ねてきた。


「牡丹は、百花の王と呼ばれる花。」


祖母が、かつてそう語った。


「冬の厳しさにも負けず、

堂々と、美しく咲く。

強さと、気高さと、そして優しさを忘れずにな。」



障子の向こうで、風が雪を運ぶ音がする。

冷たさに縮こまる体を、サエはぎゅっと引き締めた。


「……わたしも、咲けるかな。」


小さく、けれど確かに、つぶやく。


恐れも、不安もある。

それでも、この冬を越えて、

自分なりの花を咲かせたいと願った。


サエは立ち上がった。

袴の裾がすっと揺れる。

牡丹の花が、灯りの中で静かに煌めいた。



外に出ると、世界は一面の銀世界だった。

月明かりが雪を照らし、まるで無数の小さな星が地に降りたよう。


サエは、静かに一歩を踏み出した。


寒さに震えながらも、

その背筋は、まっすぐ伸びていた。


冬の中に、

小さな、けれど確かな華が、咲こうとしていた。🌸


📖【この話に登場した文様】

■ 牡丹文様(ぼたんもんよう)


由来:百花の王と称される牡丹を図案化したもの


意味:高貴、美しさ、強さ、誇り、繁栄の象徴

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