❄️【冬の章】
第19話 「雪輪文様 ❄️ 雪の記憶」
「雪輪文様に込めたのは、静かに降り積もる時と、消えずに残る想い。」 ❄️
冬。
世界は、静かだった。
町も山も川も、すべてを白く包み込む雪。
音を吸い込んだように、空気は澄みきっている。
カナは、誰もいない神社の境内を歩いていた。
長靴の下、雪がきゅっ、きゅっと鳴る。
手には、母からもらった白い手袋。
甲の部分には、淡く繊細な雪輪文様が刺繍されていた。
◇
幼い頃、カナは雪が怖かった。
冷たくて、どこまでも白くて、
世界がなくなってしまいそうな気がして。
でも母は、そんなカナを雪の中へ連れ出してくれた。
「雪はね、すべてをきれいにするの。
嫌なことも、悲しいことも、
いったん真っ白にして、また始められるように。」
カナは、母の温かな手に導かれながら、
初めて雪の上に立った。
◇
あれから、何年も経った。
母はもう、遠い場所へ行ってしまったけれど――
今年も、雪は変わらず降る。
カナは境内の中央に立ち、手袋を空に向かって伸ばした。
舞い降りてきた雪片が、そっと手のひらに触れる。
それは、一瞬で溶けて、透明な雫に変わった。
「……また、始められるかな。」
小さな声でつぶやいた。
白い息がふわりと空へ上っていく。
境内の隅、雪の積もった狛犬の横に、小さな梅のつぼみが膨らんでいた。
まだ寒さの中だけれど、たしかに、新しい命がそこにあった。
カナは微笑んだ。
そして、そっと境内に跪き、雪に手形を残した。
白い世界に、たしかな痕跡を刻むように。
◇
雪はまた、静かに降り続ける。
すべてを白く包みながら、
新しい季節への道を、ひそやかに織り上げていく。❄️
📖【この話に登場した文様】
■ 雪輪文様(ゆきわもんよう)
由来:雪の結晶や、降り積もった雪の丸みを図案化したもの
意味:純粋さ、浄化、再生、新しい始まりへの願い
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