第4話 「市松文様 🧩 揃わぬ心、交わる道」
「市松模様に込めたのは、違うもの同士が織りなす、ひとつの道。」 🧩
初夏の陽射しが、石畳の小道を白く照らしていた。
商店街の端っこに、小さな仕立て屋がある。
看板には「縁(えにし)屋」という文字と、市松模様の暖簾が揺れていた。
「これ、違うよ!」
響いたのは、少女の声だった。
店の奥。
二人の子どもたち――姉のサヤと弟のレンが、反物を広げながら顔をしかめあっていた。
「サヤはすぐに自分の好きな色ばっかり!
ぼくは青がいいって言ったのに!」
「だって、こっちの方が可愛いもん!」
畳の上には、紅と青、交互に並べられた市松模様の布地。
だが、二人はどうにも好みが合わないらしく、何度も並び替えては、また喧嘩を繰り返していた。
それを見ていた祖母のツネは、針仕事の手を休め、ふわりと笑った。
「市松っていうのはね、違う色が交わって、ひとつの模様を作るんだよ。」
二人は、ぴたりと動きを止めた。
「違うからいいんだよ。
同じ色だけじゃ、つまらないでしょ?」
ツネは、そう言って、ゆっくりと市松模様の布を畳んだ。
白と黒。赤と青。違う色同士が、交互に、規則正しく並んで一つの形をつくっている。
「だから、お前たちも、違っていい。
ぶつかって、笑って、それでひとつになればいい。」
レンとサヤは、そっと顔を見合わせた。
少しだけ、照れくさい。
でも、どこか、くすぐったいような気持ちになった。
「……じゃあ、半分ずつにしよう。」
レンがぽつりと言った。
「こっちはサヤの好きな色、こっちはぼくの好きな色。」
「うん。」
二人は、もう一度、布を交互に並べ始めた。
紅、青、紅、青――
不器用な手つきだけれど、少しずつ、確かに市松模様が出来上がっていく。
ツネは静かに針を取り、二人のための小さな袋を縫い始めた。
それは、違う心が交わりながら、一緒に未来へ進んでいくための、
たったひとつの「縁」の袋だった。
夏の風に、暖簾の市松模様が、やさしく揺れた。🧩
📖【この話に登場した文様】
■ 市松文様(いちまつもんよう)
由来:江戸時代の歌舞伎役者・佐野川市松が好んで着たことから広まった
意味:途切れず続く繁栄、異なるものの調和
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