身長169センチメンタル

@Omoide_in_my

身長169cmで悩んでいる君へ

某アミューズメントパークでのバイト中の出来事


作業として、バイトのメンバーは、ある一室の片付けを命じられ、その部屋に訪れた。




うぅ………うぅぅぅう…………(泣)


「え?なんか泣き声聞こえね?ここやべぇわ。明らかにやべぇ。ちょっと一旦報告行ってくるわ。」


「ちょ先逃げるな!ちょっと!くそ、取り残された……」


うぅぅう……悲しいよぉ。どうすればいいの〜


「君、泣いてるの?」


ひっ!!僕のこと、見えるの?


「いや、見えてはいないんだけど………」


そうだよね。誰も僕の事なんて見てくれないんだよね。君僕の事怖くないの?姿も見えないのに。


「あーえっと、幽霊とかオカルト系興味あるんだよね。もしかして君幽霊?幽霊と1回話して見たかったんだよね。僕は淳(じゅん)、よろしく。そして姿の見えない君は何者なの?まさかほんとに幽霊?」


あっごめんごめん泣いてばかりで自己紹介忘れてた。僕の名前はね、身長169cm……………


「え??」


あのね、僕の名前は「身長169cm」っていうの。僕はね、概念なんだ。実はね、この世のすべてのものにはね、霊魂が宿っているんだ。そういうのアニミズムって言うらしいんだけど聞いたことない?僕はね、身長169cmという概念そのものの霊魂なんだ。だから僕は目に見えないんだよ。


「概念の霊魂、そんなものがこの世に存在していたなんて……」


そうなんだ、急に言われても信じられるわけ無いよね。


「なるほどなぁ、ほんで君はなんでここに居るの?なんで泣いていたの?」


僕はね、仲間はずれにされているんだ(泣)。


「仲間はずれ??」


うん、僕はね、「身長」という概念の中で暮らしているんだ。だから、「身長」という世界では僕以外にも色んな身長がいるんだ。本当はみんな仲良く暮らしていけたらいいんだけどさ、身長170cmとか身長171cmが、てめぇは人権がねぇとか、169と170の差には決定的な差がある、とか言われて、身長170cm以上は身長170cm未満のみんなと遊んでくれないし無視されるんだ (泣)


「うわっ、なんだそれガチでキモイな。」


極めつけは、つい何ヶ月か前まで仲が良かった身長168cmとか身長167cmにも、お前なんてどうせ本当は身長170cmあるんだろ?でも今更、身長170cm以上のグループで上手くやっていける自信が無いから、身長169cmだって嘘を言い張ってるだけなんだろ?とまで言われる始末。どっかの誰かが身長170cm無いやつは人権がないなんてこと言ったの皮切りに、みんなピリピリしてるんだよ。


「そりゃひでぇな………」


そして僕は行き場を失って、ここで1人路頭に迷っていたんだ。「身長」の世界から迫害されているんだ。僕はこれからどう暮らせばいいんだ、ぅぅぅう…………


「身長169cm?」


うん……?


「僕もね、実は身長が169cmなんだ。」


えっ、そうなの?


「そう、そしてそれがどういうことかわかる?」


なんだろう、わからない。


「君は1人じゃないってことだよ。まず安心して、君は1人じゃない。なぜなら身長169cmの僕がもう君と友達だからさ。」


え、僕もう1人じゃないの?


「そう。っていうのを前提に今から君に伝えたいことがある。」


伝えたいこと?


「まず1つ目、君は特別だ。属そうと思えば身長170cm以上のグループにも属せるし、身長170cmに満たないグループにも属することが出来る唯一の存在なんだよ。」


僕は、特別……?


「そう、次に2つ目、そんな身長1、2cm高いごときで頑張って威勢張って差を見せつけてこようとしてくるやつは、たいてい自分になんの取り柄もなくて、他の者より優れていることが何かを探した結果、身長がちょっと高いこと、だけしか発見出来なかった心に余裕のないやつなんだよ。しかも身長が高いことが優れていることだと勘違いしているおまけ付きさ。身長169cmは身長168cmとか身長167cmに威張ったりしないでしょ?」


うん。


「むしろみんなと仲良くなろう、どうやったらみんなが仲良くなれるだろうかと心から思っている。心にゆとりがある、これこそ真に周りより優れているってことだと思う。だから、仲間はずれにされていることを気にする必要は全く無い。」


もう、気にする必要は、ないの!!?


「そうさ。そして最後に3つ目ね。の前にちょっと待ってね、僕写真を撮るのが趣味でさ、今実はバイト中なんだけど常に隠れてカメラ持ち歩いてるんだよね。しかもすぐ現像できるやつ。これで今から、僕の目線の景色を撮影するよ。」


目線の景色を撮影?何のために?


「まあまあ、撮影すれば分かるよ。さて、撮るか……」


「おーーーい、じゅーーーん。」


「うわっあいつら戻って来たっ!とりあえず撮っちゃお!」パシャッ……


「じゅん、とりあえず待機室戻っていいってよ、この部屋不気味だからな。んじゃ待ってるぞー。」


「ふぅ、カメラがバレるとこだった。現像するかー……ウィーン……はい、これが僕目線の景色だ。どう?今、身長169cmが見ている景色とどこか違うところある?」


うーん、無い。だって淳も身長169cmなんでしょ?見ている景色に違いがある訳無いよ。


「ふっ、実はね、僕は身長が169cmあると言ったけれど、今は靴を履いているから僕の目線は実質だいたい身長171cmとほぼ同じくらいなんだ。」


え!!そうだ!忘れてた!!


「そう、それが最後に伝えたいこと、そこらの身長差じゃ見ている景色なんて変わらないってことだ。そして君はこの写真を使ってみんなに心から説得するんだ。身長は違くとも景色は平等であると。僕たちは同じものを見ているんだ、仲良くしよう、と。」


そんなこと、僕に出来るかな。


「身長169cmなら出来る。確かに最初はまた弾き返されるかもしれない。だけど挫けないで自信を持って!身長169cmの僕がこれだけ自信を持っているんだから、その概念を司る「身長169cm」が自信を持てないはずがない!!君は特別だ!」


じゅん!!!僕……やってみるよ!!


「よく言えた、身長169cm。僕はそろそろ待機室に戻らなくちゃならない。この写真はここに置いておくよ。いいね?」


え、もう行っちゃうの?


「そうだよ。とりあえず一旦ここでお別れさ。」


お別れ……?そんなの嫌だ………


君は概念だ。さっさと概念の世界に

「身長169cm」が帰らないと、身長169cmの僕はどういうことになっちゃう?身長は無いことになるのか、僕の存在が無くなってしまうのか。未知の世界だ。僕らの世界がとんでもない事になるかもしれないでしょ?


確かに………


「ほんじゃ僕は行くよ。楽しかったよ。早く帰るんだよ。」


淳!ありがとう!!この写真を使って、僕頑張るよ!じゃあね。


……………………


【待機室にて】

「ふぅ……ただいまー……」


「おい、淳!!聞いてくれ!身長169cmのメリットなんだけどさぁ!まず、高すぎず低すぎない!それと…………………」


(身長169cm。向こうで上手くやってくれたみたいだな。)



「身長169センチメンタル」

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