ラストウォレット

たいちゃん

第1話 《運命の崩壊》

それは、

何でもないはずの休日だった。


「パパー、あれ買ってー!」

ショッピングモールの雑踏の中、娘が駆け寄ってくる。

その小さな手には、キラキラ光るおもちゃの指輪。


「またそんなの買うの? まあ、今日は特別だな。」

苦笑いしながら、俺は財布を取り出した。


隣では妻が微笑み、

「たまにはいいんじゃない?」と目を細める。


──これが、最後の幸せになるなんて。

このときの俺たちは、知る由もなかった。


***


駐車場へ向かう途中、突然、

耳をつんざくような怒声と悲鳴が響き渡った。


「動くなッ!!!」

何人もの男たちが、拳銃を振りかざし走ってくる。


強盗だ。

いや、もっとタチが悪い。無差別襲撃かもしれない。


娘を、妻を、守らなきゃ──

咄嗟に、俺は2人を背中に庇った。


銃声。

鋭く乾いた音が響き、

何か温かいものが胸を染めた。


足元が崩れ落ちる。

視界がぐにゃりと歪んだ。


「──パパぁぁあああああ!!!!」


娘の叫び声が、遠くなる。


意識が、沈む。

光が、消える。


そして、

次に目を開けたとき、俺は、

【全く別の世界】に立っていた。


***


そこは未来都市のような、奇妙に静かな街並みだった。

空には透明なスクリーンが浮かび、

“Welcome to the Afterlife Market”

と表示されていた。


目の前には、真っ白なスーツを着た男が立っている。


「ようこそ、“ラストウォレット”へ。」


男は不気味に微笑んだ。

その手には、黒い通帳のようなものが握られていた。


「君の”魂の資産”を、ここで運用してもらう。」


「この世界では、魂も通貨も──すべてが力だ。」


そして、

俺の人生は、死後に始まった。

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