第2話《選択》

「それではこちらへ。」


案内人は無表情のまま、淡々と歩いていく。

俺は、無意識にその背中を追った。


 


周囲を見渡すと、近未来的な高層ビルが立ち並ぶ異様な光景。

天井もない空もない——ただ、白く発光する世界。


「ここは【職業斡旋所】です。あなたに適した仕事を紹介します。」


 


重厚なドアが軋む音を立て、ゆっくり開いた。


中には無数のホログラムが浮かんでいる。

それぞれに”求人”が表示されていた。


 


— 遺品整理員(日給10ソウル)

— 記憶デザイナー(日給25ソウル)

— 死者警備隊(日給50ソウル)

— 夢潜入オペレーター(日給300ソウル)


 


「現在、あなたの所持ソウルは【800ソウル】です。」


案内人は機械的に告げる。


 


(……800。感覚がわからない。)


俺は思った。

ここでの物価や基準がまったく分からない。

ただ、聞いたところによると——


【夢の中で一時的に会う】……1,000ソウル(=約50万円)

【現実世界で再会するために必要】……2万ソウル(=約1,000万円)

【事故の瞬間に戻り、過去を改変する】……50万ソウル(=約2億5千万円)


「なお、ソウルの価値は、現世の”日本円”に換算すると、おおよそ【1ソウル=約500円】程度となります。」


 


(……は?)


唖然とする。


 


800ソウル。

約40万円分。


 


(…全然足りへんやん。

…夢で会うことすらできへんやんけ。)


焦りと絶望が、体中を焼き尽くしていく。

 



家族にリアルで会うには、最低でも2万ソウル以上必要とされているらしい。

夢の中で会うだけでも、1,000ソウル近くかかるとか…。

 


「どの職業を希望されますか?」


案内人の声に、俺は迷わず、ホログラムに手を伸ばした。


【夢潜入オペレーター】——日給300ソウル。


 


高収入。

早く金を貯めて、早く会いに行く。


そのためなら、何だってやる。


 


ホログラムをタップした瞬間、警告メッセージが赤く浮かび上がった。


【この職業には精神損耗リスクがあります。本当に選択しますか?】


 


一瞬、指が止まる。

だが、迷いはすぐに打ち消された。


 


「……選択する。」


俺はそう呟き、確認ボタンを押した。


 


その瞬間、世界が軋むような音を立てた。

空気が、わずかに——黒く、濁った気がした。


 


案内人は何も言わない。

ただ、俺をじっと見つめている。


 


(……何だ?今の感覚。)


胸の奥に、言いようのない不安が渦巻き始めた。


だが、それを押し込めて、俺は歩き出した。


家族に会うために。

この命を、もう一度賭けるために。


 


——次回、「夢潜入オペレーター」の任務、開始。

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