第2話

第二章 - 再会

1949年、清は刑務所から釈放された。日本は占領下にあり、戦後の復興が始まったばかりだった。

釈放された日、彼は刑務所の門の前で見知らぬ人物が待っているのを見つけた。

「佐々木さん?」

清は目を凝らした。そこに立っていたのは、山田和彦だった。以前の負傷は残っていたが、彼は義足をつけ松葉杖をついて元気そうに立っていた。

「山田…」清は驚いて言った。

山田は清に近づき、深々と頭を下げた。「ありがとうございました。あなたのおかげで私は生きることができました」

清は感動で言葉が出なかった。彼の目には涙が浮かんでいた。前の人生では、彼は山田を殺した。しかし今、山田は彼の前に立っていた。生きていた。

「あなたのしたことは、みんなに知られています」山田は続けた。「私だけでなく、あの時救出された全員が感謝しています」

清は頭を下げた。「当然のことをしただけだ」

「いいえ、それは当然のことではありません」山田は真剣な表情で言った。「あなたは自分の身を危険にさらしてまで、私たちを救ってくれた。その恩は一生忘れません」

山田は清を近くの小さな食堂に案内した。そこで彼は、戦後の自分の人生について話した。彼は故郷に戻り、母親と妹と再会した。負傷のため軍には戻れなかったが、小さな店を開いて生計を立てていた。

「佐々木さん、あなたはこれからどうするつもりですか?」山田は尋ねた。

清は考えた。彼は前の人生で医者になったが、今回もその道を選ぶべきだろうか。

「医学を学びたい」彼は言った。「戦場で見た光景から、私は人の命を救う仕事がしたいと思うようになった」

山田は微笑んだ。「それはあなたにぴったりだ。きっと素晴らしい医師になれるよ」

その夜、清はある決意をした。前の人生で彼が医師として働いた地方の小さな町に向かうことにしたのだ。そして、みどりを探そうと思った。

第七章 - 新たな人生

清は医学の勉強を始めた。戦後の混乱期であったが、彼は持ち前の知識と努力で、医学校に入学することができた。彼の未来の知識は、現在の医学を学ぶ上で大きな助けとなった。

そして、彼は前の人生でみどりと出会った町を訪れた。彼は彼女が働いていた病院を探し、そこで看護師として研修中の若いみどりを見つけた。

彼女は前の人生と同じように美しく、優しかった。清は自分の心臓が高鳴るのを感じた。

「すみません、あなたは新しい研修医の佐々木さんですか?」みどりは彼に声をかけた。

「ええ、そうです」清は微笑んだ。「佐々木清です」

「私は鈴木みどりです。よろしくお願いします」

彼らの再会は、前の人生と同じように始まった。しかし今回、清は罪の重荷を背負っていなかった。彼は山田を救い、自分の過ちを清算したのだ。

月日が流れ、清とみどりは親しくなっていった。彼らは一緒に働き、互いに支え合った。そして、前の人生と同じように、彼らは恋に落ちた。

1952年、清とみどりは結婚した。彼らの結婚式には、山田も家族と一緒に参加した。

「佐々木先生、お幸せに」山田は清の手を固く握った。

「君のおかげだよ、山田」清は言った。「君が私に生きる意味を教えてくれた」

彼らは小さな診療所を開き、地域の人々のために働いた。清は前の人生の経験を活かし、多くの命を救った。そして、彼とみどりは二人の子供を授かり平穏な暮らしを続け気付けば1990年、佐々木清は七十五歳になっていた。

彼は成功した医師として、多くの人々に尊敬されていた。彼の子供たちは成長し、彼ら自身の家族を持っていた。

ある夏の夕暮れ、清は診療所の裏庭で一人で座っていた。風が優しく彼の白髪を撫でていった。

「きれいな夕日ですね」

声がした。清が振り返ると、そこには黒い着物を着た老人が立っていた。清は彼をすぐに認めた。あの世の案内人だった。

「あなたは…」

老人は微笑んだ。「よく頑張りましたね、佐々木さん」

清は深く息を吸い込んだ。「あれは夢だったのでしょうか?」

「いいえ、夢ではありません」老人は言った。「あなたは自分の罪と向き合い、それを清算した。山田さんの命を救い、そして多くの人々に幸せをもたらしました」

清は静かに頷いた。「あの時、もし私が彼を殺していたら…」

「それはもう考える必要はありません」老人は言った。「あなたは正しい選択をしました。そして、その選択があなたの魂を救ったのです」

「私の時間はもう来ているのですか?」清は穏やかに尋ねた。

老人は首を横に振った。「まだです。あなたにはまだ、この世でやるべきことがあります。私はただ、あなたが正しい道を歩んでいることを確認しに来ただけです」

清は安堵した。「ありがとうございます」

老人は静かに消えていった。清は再び夕日を眺めた。彼の心は穏やかだった。彼は前の人生の過ちを清算し、新たな人生を歩んでいた。そして、その人生は彼が想像していた以上に充実していた。

山田は生き、家族と幸せに暮らしていた。みどりとの愛は、前の人生と同じように深く、美しかった。そして、彼は医師として多くの命を救っていた。

清は微笑んだ。「これが私の本当の人生なのだ」

彼は立ち上がり、家に向かった。みどりが彼を待っていた。彼らの前には、まだ多くの幸せな日々が広がっていた。

そして、いつか彼の時が来た時、清は恐れずに老人の手を取ることができるだろう。彼の魂は、もはや罪の重荷を背負っていなかったのだから。

終わり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

タイムスリップ - 罪の清算 及川明 @1534

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ