第11話 火蛇の初咆哮

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夜の帳が垂れ下がり、風雪が空を覆う。

アカディアの南方——

荒廃した野原と瓦礫の中、

連邦の戦争機械が、唸りを上げてゆっくりと進軍していた。

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✦ 連邦の激怒

アカディア陥落の報せは、

ヘリオス連邦上層部に怒りの嵐を引き起こした。

蜂起、統制喪失、空港への退却——

それはこの植民地において、

想定すらしなかった最大の屈辱だった。

直ちに司令部は命令を下す:

「アカディア王都を奪還せよ!」

「帝国が介入する前に、

圧倒的武力で反乱を粉砕せよ!」

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こうして、

大量の連邦増援部隊が南方ルートに集結。

輸送車、戦車、装甲歩兵車、重砲部隊が、

放棄された旧王国街道を昼夜問わず行進した。

南部の旧軍用空港は、

鋼鉄の要塞へと変貌を遂げていた:

• 三重構造の土嚢防壁を構築;

• 即席の対空陣地を配備;

• 野戦病院と燃料庫を拡張;

• 長距離指揮通信網を整備、戦術司令官も現地入り。

毎時、

新たな兵が到着し、

新たな火力が配置されていった。

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同時に、

グランノワ帝国も密かにセレス西境へ兵を進めていた。

帝国騎兵団、野戦砲隊、機械化歩兵師団が、

冬山の麓に布陣し、

「国境警備」の名の下に、

連邦の支配下にあるセレス西部へ圧力をかける。

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本国方面でも、

ヘリオスとグランノワの国境線には、

重装備部隊が続々と展開し、

砲口を向け合ったまま、

わずか数キロの距離で対峙していた。

大地は、沈黙の中で震えていた。

世界は、一夜にして大戦の縁に立たされたのだった。

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✦ 親王の決断

アカディア市内——

オブリオン・セレス親王は緊急軍議を開いた。

蝋燭が揺らぎ、密室には重苦しい緊張が漂う。

イレイン、老いた貴族将校、自由軍の幹部たちが一堂に会する。

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親王は粗末な戦術図の一点を強く指差した——

南部の旧空港!

連邦増援の生命線だ。

ここを断ち切らねば、

アカディアは再び血の海と化すだろう。

親王は低く、冷徹に命じた:

「奴らが補給するなら、

その補給線ごと葬り去れ。」

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イレインは即座に応じ、提案した。

自由軍が保有する最強火力の投入を——

➔ WRC-9-2“烈矢”多連装ロケット砲

かつて連邦が「軍事支援」の名目で王国に提供したこの装備は、

軽装シャーシに高機動性を備え、

20門の無誘導ロケットランチャーを搭載、

自衛用のリモート機銃も装備している。

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蜂起勃発の折、

このロケット砲部隊は郊外の兵器庫に密かに隠され、

連邦には奪われずに残されていた。

今こそ、

真の戦場でその威力を解き放つ時!

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親王の命は簡潔かつ鋭利だった:

「烈矢二十台を出撃させよ。

先手必勝だ。」

「旧空港を叩け——

連邦の魔手を、ここで断ち切る!」

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✦ 火蛇の夜

作戦は即座に策定された:

• 自由軍第一機動砲兵旅団が出撃、烈矢全20台を展開;

• 午前0時前に南郊野戦陣地へ進出;

• 短時間で高密度集中砲撃を実行;

• 主標的:空港内の司令塔、燃料庫、野戦病院、滑走路;

• 補給路となる主要街道も同時に射程へ;

• 電撃的な攻撃後、速やかに撤退、連邦地上軍との交戦を回避。

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深夜、吹雪と寒風の中、

火蛇のような烈矢車列が出発する。

瓦礫と荒野を音もなく通り抜け、

林間や丘の陰に身を潜める。

各車の上では、

兵士たちが黙々と発射装置と弾薬を確認していた。

誰も、言葉を発しなかった。

今夜、

彼らは裁きの火をもたらす者なのだ。

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零時。

指揮官の号令が静かに響く。

夜空に、無数の閃光が走った——

ドォォン!!

烈矢全20台が同時斉射!

数百発のロケット弾が、

咆哮を上げて夜を切り裂いた!

怒れる蛇の群れが、

旧空港と補給路へと殺到する!

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燃料庫が爆発し、火柱が空を裂く。

臨時司令塔は瓦礫と化し、

燃料輸送車列が連鎖爆発を起こし、

数百メートルに及ぶ炎の地獄が広がる!

連邦兵は混乱と恐怖に包まれ、

燃え盛る爆風の中を四散して逃げ惑った!

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雷鳴のような轟音の下、

南部空港は、業火の煉獄と化した!

その爆発は数キロ離れたアカディアの城壁からも目撃され、

赤く染まった夜空が揺らめいていた。

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✦ 血に染まる夜明け

自由軍第一機動砲兵旅団は計画通り迅速に撤退し、

安全圏へと退避した。

火の粉がまだ舞う中、

イレインは即座に突撃隊を率いて出撃し、

空港南側の補給路を封鎖、

連邦の後方支援を完全に切断した!

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南部空港は、孤立した要塞と化す。

そしてさらに遠くの国境線——

グランノワ帝国の軍団が、静かに前進を開始し、

セレス西境を覆う鉄の波となって広がっていく。

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これは、静かなる開戦の宣言であり、

やがて世界を呑み込む大災厄の前兆。

セレスは、

火と血をもって——

この世界に、

最初の戦の鼓動を打ち鳴らした。


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