第10話 血の王冠を戴く者
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五日間——
それは、まさに地獄だった。
アカディア——
戦火と血涙に染まり続けたこの都市は、
わずか五日のうちに、
引き裂かれ、そして再び鍛え直された。
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✦ 五日間の血戦
蜂起の火が燃え上がった瞬間から、
セレスの反乱軍は王宮を拠点に、
南部、東部、旧市街へと怒涛の勢いで進撃した。
路地は戦場となり、
市場は罠と化し、
あらゆる通りと広場が、
血に染まりながら奪い合われた。
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イレイン・オースティンは自ら自由軍の突撃隊を率い、
南区から北へと突破し、
連邦の巡回隊を撃破、兵器工場と通信拠点を奪還した。
旧貴族の騎士団と民兵部隊は、東部の巷戦で血戦を繰り広げ、
連邦駐屯軍を一寸ずつ市街から押し出した。
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市民たちは石、火炎瓶、手製の銃を手に戦列に加わった。
訓練を受けた兵士ではなくとも、
その一発一発の銃声、その一声の叫びが、
セレスの未来を取り戻すための火花となった。
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✦ 連邦の撤退
五日目の夕刻——
戦局はついに転機を迎える。
連邦駐屯軍の主力は蜂起軍により徹底的に追い詰められ、
アカディア市内最後の拠点を放棄。
南部地区の旧軍用空港へと撤退していった。
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その旧空港は、数年前に連邦が「セレス軍備支援」の名の下に建設したものであり、
滑走路、管制塔、格納庫、弾薬庫を備えた、
連邦の空挺・輸送支援基地として極秘に改装されていた。
一方、北部の新空港は戦乱の影響で工事が中断され、
放棄された廃墟と化していた。
アカディアにおける連邦の布陣は、
完全に分断され、
もはや南空港を死守するしかない状態に追い込まれていた。
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南空港の上空では連邦ヘリが低空を旋回し、
輸送車が負傷兵と補給物資を絶え間なく運び込み、
格納庫は臨時司令部へと転用、
到着予定の遠征援軍を迎える準備が進められていた。
そしてついに——
アカディア市内は、
再びセレス人の手に戻ったのだった!
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✦ 血冠の戴冠
六日目の朝——
アカディア王宮前の瓦礫と化した広場にて、
人々は静かに整列し、銃剣が林のように並んでいた。
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オブリオン・セレス親王は、青銀の戦衣を身にまとい、
断壁の上に築かれた即席の演壇へと歩を進める。
彼はセレス王家の佩剣を高々と掲げ、
その眼差しは燃えるように鋭く、
その声は冷たい風を貫いて響いた:
「セレス国王陛下は、病に倒れ、未だ帰らず。
この親王、王族の血と先祖の制に則り、
臨時摂政として政と戦の指揮を執る!」
「セレスは——
死なず!
屈せず!!」
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広場では、
数千のセレス兵が膝をつき、
剣と銃で盾を叩き、
血と炎の戦鼓を鳴り響かせた!
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青銀の双剣を掲げるセレス戦旗が断壁に高く掲げられ、
風に翻り、破れた六翼金鷲の残旗を覆い隠した。
この日をもって、
セレスの大地に、
もはや連邦の旗は掲げられない。
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✦ 戦時改革
摂政就任の当日、
親王は緊急戦時令を発布:
• 「アカディア戦時最高委員会」設立、全国の軍政を統一指揮;
• イレイン・オースティンを自由軍総司令に任命;
• 全国動員令を発令し、若者を強制徴兵;
• 民間工房をすべて接収し、軍需製造拠点へ転用;
• 連邦による一切の条約を破棄、セレスの完全主権を宣言!
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アカディアの内外で、
民兵、騎士団、旧貴族軍、農民軍が再び燃え上がった!
廃墟の中から、
セレス自身の手による真の戦争機構が、
ゆっくりと形を成していった。
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✦ 闇の密謀
だが親王は理解していた。
この勝利は、あくまで一時のものだと。
南空港は依然として連邦の手中にあり、
外部からの援助を得られなければ、
次なる連邦の猛反撃にセレスは耐えられない。
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そこで親王は、
アカディアの朽ちた地下通路にて、
側近たちとの密会を開いた。
蝋燭はかすかに揺れ、石壁からは水が滴る中、
親王は静かに語った:
「セレスには、外からの剣が必要だ。
鉄の鎖を断ち切る、その一撃が。」
冷たい視線をイレインと将軍たちに投げかける:
「グランノワ帝国——
その剣かもしれぬ。」
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密使が極秘に派遣された。
親王直筆の密封状とともに:
「セレスは、北境の一部を差し出す覚悟がある。
血と鋼の支援を求める。」
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夜の闇の中——
伝令は瓦礫と雪原を越えて、
帝国との国境を目指して走り抜けていった。
遠い彼方では、
セレスの運命の歯車が、
音もなく、回り始めていた。
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✦ 戦争は続く
アカディア市内では、
工房に再び火が灯り、
少年と老人が共に剣を取り、訓練に励んだ。
崩れた鐘楼の上では、
自由の旗が風に高く翻っていた。
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そして南の旧空港では、
連邦軍が必死に陣地を構築し、
弾薬を補充し、戦力を再集結させていた。
次なる、血と鉄の反撃に備えて。
セレスは——
いまだ自由を手にしていない。
だが——
もはや、隷属の民ではなかった。
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