第9話 静かな時間に微笑みを

「ライア、もう寝ちゃったね」

「疲れてるだろうから仕方ないよ」

 夕食後、ミコトのベッドでスヤスヤと眠るライアを隣にあるシアのベッドに二人座って起こさないように小声で話している

「夕ご飯たくさん食べてて凄かったね」

「そうだね、ミコトといい勝負だった」

「厨房の人達が驚いてたね」

 と、食堂での出来事を思い出してミコトが笑う。ミコトの笑顔につられて一緒に笑うとシアがふと、閉めたはずのカーテンが少し開いているのに気づいて立ち上がった

「明日は晴れるかな」

 窓から見える外は暗く強い雨風が止みそうにない様子の外を見てシアが呟くと、ミコトも窓から見える外を見る

「ミコトが来た日は何日も嵐だったし、やっぱりまだ思い出せない?」

「うん、そうだったっけ?」

 シアの問いかけに何度か首を横に振り否定する。それを見てはぁ。と困ったようにため息をつきながらカーテンをきちんと閉めていると、ミコトが机の引き出しからパン屋でマリーから貰ったクッキーを取り出した

「これ一緒に食べよ」

「まだ食べれるの?」

「もちろん。お菓子は別腹でしょ?」

 クッキーの袋を閉じるリボンをほどきながらそう返事をすると、シアが机の上に置いた鞄を探り出し、クッキーの袋を取り出すと、ミコトとエヘヘと笑い、シアのベッドに座ってクッキーを頬張りさっきよりも少し大きな声でまたお喋りをはじめた





「今日は調子悪いのね」

 その頃、カメリアの部屋でアルトがコツンとチェスの駒を置く音が響かせていた。動かした駒と盤面を睨むカメリアがチェス盤の隣に置いていたワイングラスを手に取り一口飲んだ

「少し飲み過ぎたかしら」

 空になったグラスを見てカメリアが呟くと、アルトも側にあったワイングラスを手に取り一口飲むと、二人の間にあるチェス盤の真ん中に一枚の羽根が舞い降りてきた

「お帰りなさい。フルール」

 カメリアが窓際にある机の上に立つフルールに声をかける。アルトも持っているワイングラスを少し斜めに傾けながらフルールがいる方に目線を向けるとフルールと目が合った。少しフルールの様子を見ていると、微かにコツッと物音が聞こえた

「あなたの番よ」

 カメリアの声が聞こえてチェス盤に目線を戻す。カメリアが動かした駒を見て、フフッと笑いながらワイングラスを側に置き肘掛けに肘をかけると、チェス盤に置かれたままのフルールの羽根を拾い取りカメリアにその羽根を差し出した

「調子が良くなったのなら、ここからが楽しみね」

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