【預言者たちの闘い】掌編小説

統失2級

1話完結

2028年の7月、日本は酷暑の中にあった。人々は異口同音に「今年の夏は一段と暑い」と言い、テレビの気象予報士たちは「今年の夏は観測史上最高に暑くなる見込みです」と言った。


7月8日の午前11時、突如として日本の上空にラッパの轟音が鳴り響き、雲の裂け目から1人の巨人が巨大な白馬に跨りながら現れた。その巨人は、「我が名は光の戦士イーシュ、神に選ばれし民族、ディーユ人の楽園を創造する為、古代の予言に従い今、ここに降臨す。まずは手始めに日本民族から血祭りに上げて、神の国実現の足掛かりとする」と雷鳴の様な声を発する。その声は北海道から沖縄まで響き渡るほど大きかった。イーシュと名乗った巨人は白馬に跨りつつ、上空から巨大な杖を地上に向けて何度も何度も振り下ろす。すると、杖の先からは白く輝く巨大な光の塊が幾つも出現し、地上に落ちては東京の街と人々を焼き尽くしていった。東京の人々に取っては地獄の様な十数分が経過し、東京の半分が焼け野原になった頃、再び日本の上空にラッパの轟音が鳴り響いた。次の刹那、先ほどの雲とは別の雲が分かれ、その裂け目からは黒く巨大な駱駝に跨った巨人が新たに現れた。その巨人は大地を揺るがす様な大声でこう叫ぶ。「我は最後の預言者、マハド。イーシュ殿の暴挙を止める為に今、ここに降臨す」マハドと名乗った巨人はそう言い終わるや否や、腰から巨大な三日月剣を取り出し、空中の駱駝を駆り立てイーシュに接近する。イーシュも先ほどの杖で応戦し白く輝く光の塊を2つほどマハドに向けて放つが、その塊はマハドの前で何故だか消滅してしまう。接近戦の武術の力もマハドの方が遥かに上だった。イーシュは杖を物理的な武器として使い、マハドの頭部を殴打しようと試みる。しかし、その動きには隙があった。マハドはその一瞬の隙を突いて意図も簡単に杖を握るイーシュの右腕を切り落とす。哀れなるイーシュの右腕と杖は東京の地上に落下して大地を揺らした。その時、マハドはイーシュの顔を凝視する。「あなたは、イーシュ殿ではなく、ズモ殿ではないか、何故、イーシュ殿の名を騙る!?」「私は悪くない、 確かに私はズモだが、全部、イーシュの命令だったんだ、許してくれ」「よくよく考えれば、博愛の人であるイーシュ殿が人類の殺戮を命じる訳が無い。ズモ殿よ、真実を話せ。この期に及んで世迷言を申すなら、その首、切り落とすぞ」マハドは険しい顔で詰問し、ズモは怯えた顔で返答する。「分かった、本当の事を話す。イーシュは八千光年先の惑星に修行に出掛けた。私はイーシュの居ぬ間に人類を大量虐殺して、この地球をディーユ人の楽園に作り変えようとしておったのだ。しかし、もうその様な考えは捨てる。だから、どうか許してくれ、どうか命だけは助けてくれ」ズモは必死に懇願する。「何故、イーシュ殿に成り済ましたのだ?」「地上にはイーシュを崇拝する人間が28億人も居る。私が人類の虐殺に乗り出しても、彼等が抵抗する事は無いと思ったのだ。イーシュを崇拝する人間たちは最後に殺す計画だった」「…。あなたは狂っているが、あなたは偉大なる預言者であり、殺す訳にはいかない。しかし、あなたは余りにも危険な存在だ。従って私はあなたの四肢を切断して、天空の牢獄に1兆年幽閉する事にする」上空の駱駝に跨るマハドはそう呟くと、左手をズモに翳す。するとズモの体は白馬の背から浮き上がり、マハドの前で宙に止まる。「こうするしかないのだ」とマハドは嘆きの言葉を哀しげな顔で吐き出し、ズモの残された三肢を躊躇う事なく切断する。日本の上空にズモの甲高い悲鳴が響いた。そして、マハドは「これ」と天空に向けて叫ぶ。その直後、雲の裂け目から新たに4人の巨人が現れる。その内の1人が顔面蒼白のズモを抱え、1人がズモが乗っていた白馬の手綱を引き、2人が地上に落ちたズモの四肢と杖を回収し天空の彼方に消えて行った。そして、マハドも哀しげな表情で焦土と化した東京の街を上空から暫し眺めた後、無言のまま天空に戻って行くのだった。


東京の街は半壊し、800万人が命を落とした。しかし、日本の人々は持ち前の勤勉さを発揮して、6年後には街の機能をほぼ復元したとの事でした。

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