第38話リベンジ商会と人魔共生の難しさ
僕は今リベンジ商会の会長に挨拶に来ている。
客室でウラギとその父である会長を待っていたが、どうやら来たようだ。
「入るぞー。」
「はーい。」
2人を座りながら出迎えるわけにもいかなかったので、僕は立ち上がった。
それを見てアリスも立ち上がる。
不思議そうな顔をしているけど、ちゃんとこういうのを真似してくれるようになったのは嬉しい。
ウラギと会長が入ってきた。
「初めまして会長。私がクック・フレリアンです。」
「わたしがアリスです。」
「こちらこそ初めまして。リベンジ商会の会長をしているヤッパ・リベンジだ。」
会長は結構渋い顔立ちで、それなりに歳をとっているように見えるけどカッコ良く歳をとった感じの人だった。
すごくダンディー。
僕もあんな風に歳をとりたいな。
2人は僕たちの向かいに座った。
「2人も座れよ。」
ウラギが僕たちに座るように促す。
「ありがとうございます。」
僕たちも座った。
アリスはずっと何これって感じの顔をしてる。
まあ、魔獣にとっては意味不明な文化だよね。
「2人のことは息子から聞いている。と言っても、アリスという子のことはさっき聞かされたんだがね。」
「そうですか。リベンジ商会の会長に流しれているなんて光栄です。」
「はははははっははっは、あまり商人を舐めるなよ。金になりそうなヤツのことはすぐに聞きつけて使えなくなるまで忘れねえんだ。」
すごい笑い方だ。
それに、金になりそうなヤツって、もう少し言い方を選ぶべきではないだろうか。
僕は一応、顧客という立場なはずだけど。
「そうですね。少しの間ですがウラギと共に旅をして商人の顔の広さがどれほどかを知りました。それで、本日こちらに伺ったのは、口頭ではありますがリベンジ商会と専属契約をするという約束をウラギとしたので、その挨拶と正式な書面での契約のためです。」
「うむ。専属契約の話は聞いている。初めはそんな名前も聞いたこともない平民と専属契約なんて馬鹿げてると思ったんだがね、息子はどうしても引かなかった。そんな中息子と専属契約をしたヤツがちょっと噂になっていてな。コイツは金になると思った。それと同時に私は反省したよ。商人にとって時に直感はどんな理屈よりも正しいものを示す。私だって今まで自分の直感を信じて多くの成功を収めてきたんだ。それを思い出させてくれた。勝手だが君には感謝している。」
「いえいえ、そんな。もったいないお言葉です。」
この人全部喋るじゃん。
これで本当に商人として成功できたのか?
「まあ、私が言いたいのは君との専属契約に異論はない、ということだ。これからもよろしく頼むよ。」
「はい。よろしくお願いします。」
こうして僕は正式にリベンジ商会と専属契約を結んだ。
契約書を書き終えると会長が話しかけてきた。
「ところで、隣の魔獣は随分とお行儀がいいじゃないか。息子から危険はないとは聞いていたがこれほどとは。」
それを聞くとアリスはあからさまに嬉しそうな顔をした。
「僕の言うことは聞いてくれるんです。」
「はい。わたしはクックさんの言うことをちゃんと聞きます。」
「面白いね。もし君たちのように人間と魔族、魔獣が手を取り合えたら金になる。商人にとって君たちの関係性はとても魅力的だ。どうしたらそんな風になれるのだろうか?よければ教えて欲しい。」
確かに、商人にとっては新たな市場の開拓につながるのか。
僕としても種族間の争いがない方がいい。
もしかしたら、人魔の抗争をなくすために協力できるかも。
あまり現実的ではないけれど。
「そうですね。僕の場合、彼女が倒れているところを助けたのですが、彼女がそれに恩義を感じているらしいです。魔族にしろ魔獣にしろ心があるわけですから、対話でどうにかなることもあると思います。」
「対話か。それでうまくいけばいいが、全部が全部そういう訳ではないだろう。」
「そうですね。もう何百年と続く争いですから、一部には深く憎しみ合っている者もいるでしょう。」
「そういうヤツらは話すだけ無駄だ。」
その通り。
この規模の争いとなると、言葉だけではどうにもならないことが多い。
「特に、アシリマ王国か。」
突然ウラギが口を開く。
アシリマ王国。
魔族の国であるマジカル王国の南に位置する国で、豊富な鉱産資源を活かして鉱業によって栄えている国だ。
そして、人魔抗争の人類側の先導者。
意味がわからないくらい魔族を憎んでいて、人間至上主義を掲げ、魔族の廃絶を訴えている。
「そうだな。アシリマ王国はこんな話聞かないだろうな。なんせ魔族の廃絶により平和が訪れるだなんて本気で考えてるんだ。」
アシリア王国では人間至上主義によって人間以外の種族を見下している。
例えば、エルフやドワーフ、獣人なんかも亜人として差別し、奴隷にしている。
正直、客観視すればこれの方が平和の妨げだと思うんだけど。
この国があるうちは人魔共生なんて夢のまた夢だ。
もし、ジャポネー王国や他の人間が統治する国が平和を求めて魔族と手を取り合おうとすればその国に対して戦争を仕掛けるだろう。
アシリマ王国は鉱産資源の輸出により、経済力は人間の統治する国の中では圧倒的で軍事力もある。
他の国からすればそんな国との戦争なんて絶対に避けたいだろう。
平和を求めた結果、本来仲間だったはずの国から戦争を仕掛けられるなんて馬鹿げている。
平和を求めれば求めるほど苦しい思いをするなんて可哀想な話だ。
僕もこの世界が平和になって欲しいと思うが、実際かなり難しい。
平和どころか今の僕はアシリア王国に行くことすらできない。
アリスを連れていると魔獣に肩入れする人類の敵とか何とか言われて捕まって死刑にされるのが目に見えてる。
ていうか、もしアシリア王国が魔族と手を組む裏切り者がいないかと他国を調べるようにしていたら、僕はもうとっくにお縄になっている。
力があって思想が強いヤツって本当に面倒だよね。
そのせいで周りまで窮屈な思いを強いられるんだから。
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