第4話 初依頼!

俺はガイドブックを手に薬草が生息している場所へと赴くと、まず心が折れた。

何しろ至る所に植物が生えており、ガイドブックに記載されている薬草を見つけるのはなかなか根気がいるからだ。

ただ、これをクリアしないと他の依頼も受けられない為気合を入れるしかなかった。


「どれだよ~全部同じに見えてきたぞ……」

緑の葉っぱという事は分かるが、どの植物も似たり寄ったりでなかなか判別がつかなかった。

初心者向けの場所だからか、俺以外に人は居ない。

たまーに森の中へと入っていく集団は見かけたが、俺のいる場所で薬草を探すような事をしている奴は居ない。


かれこれ一時間は屈んで探していたせいで俺の腰は爆発しそうだった。


「はぁ……これマジで終わんねぇぞ」

想像以上の辛さに地面に腰を下ろした。

十枚どころか一枚も見つけられず途方に暮れていると、三人の冒険者パーティーが近付いてきた。

男一人に女二人の羨ましいパーティーだ。


「君、新人さんかな?」

金髪イケメンの男が俺に微笑みかけている。

服装はかなり質のいい鎧らしく光り輝いていた。

新品かと言われるとそうでもない。

所々に傷があり、歴戦の戦士といえる様相だった。


どうやら森から出てきたばかりのようで、疲れた様子の俺に気が付いて声をかけてきたらしい。


「はい、新人冒険者です」

「なるほど……ここで薬草採集の依頼ってとこかな?」

話が早い。

この人はすぐに俺がここにいる意味を察したらしい。


「薬草採集はどうだい?」

「いやぁ……それがもう一時間は探してるんですけどこの通りですよ」

そう言いながら俺は手持ちの袋を見せた。

中には何にも入っていない空の袋を見てイケメンはまた微笑む。


「これは新人には難しい依頼だからね。そう落ち込む事はないよ。良かったら手伝おうか?」

「え!いいんですか!」

なんだこのイケメン。

見た目もイケメンなら中身もイケメンかよ。


俺は力もなければ頭も悪い。

それどころか背も低いし体力もない。

そんな俺だが一つだけ誰よりも優れている点がある。


それは人を見る目だ。

人の目利きだけなら一級品だという自信がある。

自分に益をもたらすか、人間性はどうか、性格は良いかなどなど、その人が自分にとっていい人であるかの判断だけは昔から優れていた。


今手伝おうとしてくれているこのイケメンも俺の目では完璧超人に見えている。

つまり、この人は味方につけておいて損は無いということだ。


「是非お願いします!」

俺は即答した。

手伝ってくれると言うのだからそれに甘えようじゃないか。


後ろにいる二人はどんな人かなと覗くとかなりの美女と美少女だった。

羨ましい。


「レオン、アタシ達もやるの?」

「ああ、もちろんさ。彼は新人だよ?僕らみたいな先輩冒険者が手を引いてあげるべきだ」

美少女は渋々ながらも薬草探しを始めだした。

レオンと呼ばれたイケメンの意見が全てのようだ。


「おっと、名乗り忘れていたね。僕はレオン・シーザー。英雄級の冒険者さ」

英雄級という肩書きに俺は目を見開く。

あのディーナさんだって白金級だったのにその上だと?

まあでも分からんでもないな。

装備の豪華さもかなり値が張る代物だろうし、稼ぎはいいはずだ。


「俺は夜葉杉丸です」

「ふむ、ヨハスギマルか。マルと呼んでもいいかな」

あーこの人点数高いわ。

言い間違えない素晴らしさ。

この世界にきて初めてだな。


「もちろんです!」

「僕のこともレオンと呼んでくれていいよ。それと敬語はなくてもいい。多分歳が近いだろう?」

確かに二十歳そこらの若さがある。

これは絶対に逃すべきではない人材だぞ。


「分かったレオン。でもいいのか?多分冒険帰りなんだろ?」

「まあね。でもそんなに苦戦しなかったし亜空間袋に素材は入れてあるから腐らないよ」

腰につけている袋はスイカが一玉入ればいい程度の大きさだが、中は広大な空間が広がっていてお屋敷が一軒入るくらいの容量があるらしい。


「それにマルの受けているその依頼。多分一人じゃ無理だよ」

「えっ?そうなのか?でもこの依頼って初心者が皆受けるやつなんだろ?」

受付嬢は確かにそう言っていたはずだ。

なのにレオンは難しいと言う。

どういうわけなのだろうか。


「それは王都だったらの話だよ。ここは辺境の街パスィーユ。よくも悪くも新人冒険者には厳しい環境なんだ」

レオンはその理由を説明してくれた。


パスィーユは辺境の街であり、近くのダンジョンや森に出てくる魔物は極端らしい。

スライムのようなクソ雑魚も出るが、ドラゴンのような強力な魔物も現れる。

中間レベルの魔物が出てくるダンジョンはないらしく、新人冒険者が育つには王都でなければ難しいようだ。


王都であればそれこそ無数の冒険者がおり、最初の依頼も大体誰かが手助けしてくれる。

でもここは新人冒険者が殆どおらず、いるのは中堅かベテランの冒険者ばかり。

俺のような存在は稀有な存在だそうだ。


だからか手伝ってくれる冒険者は少なく、己の知識と技術だけでクリアしなければならない事が多く、この街で生まれた冒険者を目指す者達はみな揃って王都へ赴く。



「運が良かったよ。森の出入り口は沢山あるからこの出口から出てきた冒険者じゃないとマルに気が付かない。下手すりゃ一日かかっても採れなかったかもしれないね」

「恐ろしいなそれは……」

こんなの一時間で腰が爆発しそうになっている俺には苦行でしかないんだから。


「それにしてもマルさんは珍しいですね。この街で冒険者登録をするなんて。どこから来られたのですか?」

「あ、えーっと……」

レオンのパーティーの一人、金髪美女が声を掛けてきた。

美少女はそうでもないが美女と喋るのは緊張するぞ。

いや、待て待て。

レオンのパーティーにいるんだ。

要はハーレムってやつだ。

なら俺に脈などない。

そう考えたら気が楽になり俺は饒舌に喋れるようになった。


「俺はその、全く別の世界からいきなりこの世界に来たんだ。信じてもらえないだろうけど」

「まぁ……まさか転移というやつでしょうか?」

「知ってるんですか?」

これは驚いた。

今の話だけですぐに転移だと気付いたのは神官のような格好をしているからだろうか。

美女の服装は完全に神官服だ。

ヒーラーの役割を担っているのだろう。

もしかすると魔法にも明るいのかもしれない。


「転移魔法は確かに存在します。ですが使えるのは極わずか……数えるほどだと聞いております」

「じゃあその数えるほどの人の誰かが俺をこの世界に?」

「そこまでは分かりません。ただ、他者を転移させるとなると、それも他の世界からであれば考えられない程の魔力が必要になるかと思います。少なくとも私が知り得る転移魔法の使い手では他世界から転移させる事はできません」

じゃあ誰だよ、俺をこの世界に呼んだやつは。

調べる必要があるかもしれないな。

といってももう少しこの世界の事を理解してからだ。

今は明日生きられるかの瀬戸際だしね。



喋りながら草を摘んでいると、ガイドブックに載ってあるそっくりな草を見つけた。


「あっ!」

つい大きな声を上げてしまいレオン達も何事かとこちらを振り返る。


「見つけたのかい?」

「分からないけど多分?」

「どれどれ?」

摘んだ薬草をレオンに手渡すと、彼はニコッと笑顔を見せた。


「正解だよマル。これが薬草だ」

「おおおー!!やっと見つけたぜ!」

かれこれ数時間は探したぞ。

この薬草どんだけ見つけるのが難しいんだ。


「じゃあこれで依頼は達成だ」

「は?いやいや、まだこれ一枚目だけど」

レオンは何を言っているのか。

依頼は十枚集める事だ。

たったの一枚しか見つけていないのに嘘を付くにももっと上手くやって欲しい。


レオンが徐ろに後ろ手を前に持ってくるとそこには束になった薬草が握られていた。


「でぇ!?いつの間に!」

「フフフ、実はもうとっくに見つけていたんだよ。ただ自分で見つけないと依頼の意味がないからね。マルが一枚目を見つけるまで黙っていたんだ」


なかなかニクイ事をしてくれるじゃないか。

こういう所がモテる男なんだろうな。


俺の初依頼はレオンの手助けにより、達成した。

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