真洛電刃
一十 にのまえつなし
神託のはじまり
真洛の闇にネオンが哭き
電龍の咆哮、コードを裂き
雪華の刃は影を呼び
混沌の獣よ、踊り出でよ
天籟の調べ、サーバーを惑わし
映心の鏡、深淵を映し
奈亞拉托の妖眼が囁く
真洛の闘場、ここに在れ
データの奔流、義を試し
電侠の誇り、運命を刺し
混沌爬行、さあ来れかし
霓圏の夜に、戦を刻め
ネオンがギラギラと脈打つ超高層データタワーが電脳の闇を切り裂き、ホログラムの電龍がコードの星屑を撒き散らす。
ここは「真洛」。
霓圏の空には、青い電龍が咆哮し、虹色の鱗がネオンに輝く。霓圏の証である電龍は、霓の光を放ちながら、この領域の自由を守護する存在として霓圏の民に希望を与えている。
霓圏のネオンに染まる廃墟の路地を、ひとりの少女が電光のように駆け抜けていた。
誰か呼んだか「白雪電刃」。ピンクのサイバーヘアは電流みたいに揺れ、ゴーグルはデータフローをリアルタイムでスキャン。腰には稲光をまとう剣「雪華」が輝く。雪華の柄には、霓圏の証である電龍の鱗を模した虹色の装飾が刻まれている。
彼女のハックと剣技は霓圏でも一級品だ。白雪はただのハッカーじゃない。コードの裏に潜む自由を奪うやつらをぶっ飛ばすために生きてる。
ある夜、彼女のアジト――廃ビルのサーバールームに改造した秘密基地――に、天使のようなホログラムが入り込んできた。それを追うように飛び込んできた電龍が神託に向かい警告するように咆哮するド派手なエフェクトと声。しかし、それを無視するように声が響く。
「われは神託なり。欲しいのは金か栄誉か、なんならすべてを与えよう? そのためには奈亞拉托を打ち倒せ」
白雪は天使をスキャニングしながら、キーボードをガンガン叩いた。ニヤリと笑みが浮かぶ。データが神託から流れてくる。
「ついにきたか。あたしたちのハックが必要な時だな」
奈亞拉托の名は霓圏の裏路地で永年囁かれていた。曰く「奈亞拉托には気をつけろ」と。
奈亞拉托(ナイアラルトホテップ)、黒いコードのローブに無数の妖眼が蠢く電脳魔神だ。いつもニヤニヤと不敵な笑みを浮かべ、まるで世界の全データをハック済みみたいな態度で、電侠たちを「天命ゲーム」と呼ばれるデジタル闘技場で待ちうけている。勝てば莫大なあるいは貴重な報酬、負ければよければログアウト、悪くすればジャンクデータとなり、回復できなくなるとの噂だった。
「よっしゃ、そいつをブチかますぜ! 奈亞拉托、覚悟しな! 霓圏の証、電龍と共に霓圏の自由を守る!」
彼女の指がコードを織り、神託の暗号をハック。
どうやら奈亞拉托の次のゲームは、霓圏のコアサーバーを舞台にした大規模バトルらしい。
「待ってろよ! 霓圏の電龍、俺たちの戦いを見届けてくれ。」
雪華を握ると、電侠の血が騒ぐのがわかる。
瞬間、アジトのモニターは暗黒に閉ざされ、赤い眼、奈亞拉托の妖眼があまた映り、最後に笑みだけ見せる口元を映し消えた。それは一瞬でこちらのシステムを掌握できるという脅しか、逆らって見せろという鼓舞か。
「なめやがって。とはいっても、無策で挑めるほど易い相手じゃないよな。霓圏の証、電龍が現れるってことは、俺たちのハックが試される時だ。」
白雪のニューロンは青白く燃え上がり、それは仲間に伝わっていく。
白雪のハックチームは電網恢恢、霓圏でも一目置かれる集団だ。
「あれ白雪ちゃんが興奮してる。これはいいわ」
まず、伝わったのは琴音。AIのデジタル琴師で、コードとビートを融合させる天才。彼女の「天籟怪曲」は、音波ハックで敵のシステムをクラッシュさせる。
戦場で琴を爪弾きながら、「我が琴は天地と共鳴する! このビート、感じてくれよ! 霓圏の電龍もノるくらいにね!」とノリノリでハックをキメる。その琴は、コードを音階に変換する特別なデバイスで、指先が弦を弾くたびにデータフローをねじ曲げる。
まるで電脳の弁財天だ。
「やれやれまたか」
鏡塵。ドローン使いのデータシノビで、クールな眼光がトレードマーク。というより、その隠形は完璧で、仲間ですら眼光しか見たことがない。
彼女の「映心鏡」は、敵のファイアウォールを瞬時に解析し、弱点を丸裸にする。「鏡は心も映す。電龍の光もな」と、ドヤ顔でハックを決める姿は、霓圏の影の支配者。
彼女のドローンは、電脳空間を飛び回り、リアルタイムで敵のデータを吸い上げる。
「あれ白雪ちゃんからだ」
霓圏の絆を繋ぐ存在が燐。火星モチーフの永遠のVTuberで、赤いショートカットに触覚みたいな髪がピョコンと立ってる。砂嵐を思わせるゴールドの瞳は、どんな時も優しい光を湛える。彼女のチャンネル「火星ライブ」は、生きた情報網そのもの。霓圏の民たちが彼女の配信で情報を交換し、奈亞拉托の動向を追う。
「ねえ、みんな! 今日も霓圏をぶち上げようぜ! 火星からガッツリ応援してるよ!」
燐の声が電脳空間を駆け巡る。彼女は白雪たちの戦いをライブハックで中継し、視聴者からのコメントをリアルタイムで解析してチームにフィードバック。
霓圏の民の声を集める彼女の配信は、電侠たちの戦意を燃え上がらせる。燐の配信画面には、火星の赤い大地を背景に、彼女の笑顔が映し出され、コメント欄はいつも溢れている。
この日、白雪たちは奈亞拉托の巨大メカ「混沌爬行(クロウリング・カオス)」にハックインするミッションに挑んだ。舞台は霓圏のコアサーバー、データストリームが奔流のように流れ、霓圏の証である電龍が咆哮する電脳闘技場だ。
サーバー内部は、ネオンの迷宮と化したデジタル空間。コードの壁が脈打ち、奈亞拉托の妖眼が至るところで監視している。
白雪はサーバーのゲートにたどり着き、雪華を構えてハックを開始。モニターには混沌爬行のシルエットが浮かび、奈亞拉托のニヤケ声が響く。
「ふふふ、電侠ども、面白いショーを期待してるぜ! 霓圏の証、電龍が現れるかな?」
白雪は歯を食いしばり、「てめえのショー、ぶっ壊してやる! 電龍の咆哮と共に、霓圏の自由を取り戻す!」とハックした際に読み込んだコードを叩く。
真洛暗中霓虹泣
電龍咆哮裂代码
雪華之刃喚暗影
混沌爬行起舞来
白雪の意識が解け、拡張される。現実とヴァーチャル、虚と実の間。様々なデータが重なることで作り出されるシャボン玉を思わせる世界が観測され生み出される。
ここでのダメージはどれだけシンクロできていたかでかわる。今の状況では白雪にはどの程度シンクロしているかはわからない。しかし臆することはなかった。
雪華之刃喚暗影、つまり雪華の刃は影を呼び。これは自分に対しての誘いだとはっきりわかっていた。
戦闘開始。白雪は雪華を握り、電光の剣気を満たしていく。
「お望み通り味わいな雪華。」
彼女が剣を振り下ろすと、電光がサーバーを切り裂き、混沌爬行のファイアウォールに亀裂が走る。剣気は吹雪の形に変化し、デジタル空間を疾走。雪華の柄に刻まれた電龍の鱗が虹色に輝き、剣気が蒼雷の魂を宿した青い光を放つ。白雪のハックは、雪華を通じてサーバーのセキュリティを直接スラッシュし、コードの壁をズバズバと切り開く。彼女のゴーグルには、データフローが滝のように流れ、敵の防御アルゴリズムがリアルタイムで解析される。
「この剣、受けろ。」
白雪の声が、サーバーに反響する。
琴音は電琴を構え、天籟怪曲を奏でる。音波ハックがサーバーを震わせ、混沌爬行のサブシステムが次々クラッシュしていく。彼女のビートは電脳空間に響き、敵のアルゴリズムを混乱させる。琴音の指が琴弦を踊らせると、音波がコードの波紋となり、サーバーのデータフローをねじ曲げる。
彼女の琴は、ネオンの光を反射し、まるで霓圏の星のように輝く。叫ぶ琴音の声は自身の奏でる曲でまったく聞こえないが、何かかっこいいことをいっているのは想像できた。ライブ会場さながら。サーバー全体が彼女の音楽に共鳴し、視聴者のコメント欄すらリズムに乗ってスクロールする。
鏡塵はドローンを展開する。
「丸裸だ!」
映心鏡で混沌爬行のコアを解析。ドローンのレーザーがデータフローを切り開き、弱点がモニターに浮かび上がる。鏡塵のゴーグルには無数のデータが映り、一瞬ごとに、敵のセキュリティが剥がれていく。ドローンは電脳空間を飛び回り、混沌爬行の内部構造をスキャン。彼女の冷静な声が響く。
「データは私の領域。たとえ神の作品でもね。霓圏の証、電龍の光も見える」
ドローンの光跡がデータストリームを彩り、混沌爬行のコアが徐々に露わになる。
燐は火星からライブ配信を展開。
「うわ、白雪電刃、めっちゃカッコいい! 琴音のビート、ヤバすぎ! みんな、ハックコメントぶち込んで! 霓圏の証、電龍も見てるよ!」
彼女の声に、霓圏の視聴者たちが一斉にコメントをたたく。
コメント欄は「白雪、ブチ抜け!」「琴音の曲、神!」「鏡塵、データ無双!」「電龍、霓圏を守って!」で埋め尽くされ、電脳空間が熱狂の渦に包まれる。
燐がコメントから有用なハック情報を抽出し、白雪たちにリアルタイムで送信。「視聴者のヒントだと、混沌爬行のバックドアはポート8080にありそう!」
白雪はニヤリと笑う。
「ナイス、燐! 霓圏の民、最高だ!」
白雪はキーボードを叩く。「我来黑它!」彼女の雪華がコードと同期し、バックドアに吹雪如き剣気を叩き込む。サーバーが一瞬揺れ、アクセス成功の通知が点滅する。
燐の配信画面では、彼女の触覚髪がピョコンと揺れ、ゴールドの瞳が優しく光る。
戦場は電光と音波が交錯するド派手なハックバトルに突入。
「あ、ごめん見とれて配信忘れた。応援して」
見とれたというより心配が勝っているのは誰もがわかっていた。
白雪の雪華が巨大な六角形の雪の結晶に輝き、混沌爬行の外壁をズバズバとスラッシュした。剣気の残像がサーバーに刻まれ、ファイアウォールが火花を散らす。彼女のハックは、雪華を通じて敵のコードを直接切り裂き、サーバーの深部に迫る。
琴音の天籟怪曲はサーバーを震わせ、敵の防御アルゴリズムを次々無効化。彼女のビートは電脳空間に共鳴し、データストリームが波打つ。
鏡塵のドローンは電脳の嵐を切り裂き、コアへのルートを確保。ドローンの光跡がデータストリームを彩り、混沌爬行の内部構造が丸見えになっていく。
燐のライブは視聴者数を億単位に伸ばしていく。
「みんな、白雪たちのハック、めっちゃ熱いよね! わたしも火星からガンガン応援してるよ! 霓圏の証、電龍も見てる!」
白雪は叫ぶ。
「奈亞拉托、てめえのゲーム、終わらせてやる! 霓圏の自由、俺たちが守る!」
雪華を両手で握り、電光の剣気を最大出力で放つ。数多の雪の結晶がダイヤモンダストのように、混沌爬行のコアに突き刺さる。琴音の天籟怪曲がクライマックスを迎え、音波ハックがサーバー全体を揺さぶる。鏡塵の映心鏡がコアの最深部をロックオンし、ドローンが一斉にレーザーを発射。燐のライブはコメント欄がバグる勢いで加速していく。
白雪の、電網恢恢に勝利は目前――そう思えた瞬間だった。
奈亞拉托の妖眼がサーバー全体をハックした。
「やばい罠だよ。」
燐の悲鳴が響く。コメントの中に赤い目が並ぶ。そう、バックドアそのものが罠だった。
混沌爬行の反撃が炸裂する。妖眼から放たれた黒いコードが白雪たちのシステムを侵食した。雪華の電光が光を失い、電龍の鱗の装飾が一瞬輝きを失う。琴音の曲がノイズに飲み込まれ、鏡塵のドローンが一瞬でオフラインに。エラー音が響き、サーバーが赤く点滅。
霓圏の空に電龍もなく、戦闘は終了した。
虚実の間から吐き出され、白雪はひとりデータタワーの廃墟に転がった。
「くそ、やられた」
白雪が立ち上がりながら叫ぶと、琴音の声が端末越しに聞こえる。
「いや、ビートはバッチリだったって! 負けたのは…ほら、時間の問題?」
「データが足りなかっただけ。次は完璧」
鏡塵のクールな声が入る。
燐のライブはまだ続いてて、彼女の声が電脳空間に響く。
「うわ、でも超熱かったよ! 視聴者のみんな、リベンジ応援してね!」
コメント欄の流れていく励ましが今はつらい。
すべての回線をオフにして、白雪は廃墟の地面に寝転がった。
「奈亞拉托…次は絶対に!」
ネオンの空、奈亞拉托の妖眼が歪んで映った。
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