忌み地にされる

デンコウさん

2階1番端の部屋

私の住んでいる街はとても住みやすい。

自然にも満ち溢れていながら、少し歩けば商店街で買い物もできる利便性の高い場所だ。

男一匹で住む私にとっては、近所に居酒屋が数軒ある事も素晴らしい。

そんな素晴らしい所だが、1つだけ嫌な事がある。

それは、お化け屋敷がある事だ。

お化け屋敷と呼ばれている建物は、私が住むアパートのすぐ隣にある。

その建物は3階建のありふれたアパートなのだが、2階1番端の部屋にソレは出るのだ。

こうして自分の部屋に面してるベランダから顔を出して覗いて見ても、見える事は無い。

2階1番端の部屋内に入っても、見えない。

道路に出て、隣のアパートを見上げるとベランダ窓越しにソレは視える。

2階1番端の部屋内に、首を吊っている男性が居るのだ。

男性は目だけを動かし、常に何かを探している。

道路に出て見上げれば、いつでも視える。

この道路を通る人なら誰でも知っている事だ。

そのせいか、2階1番端の部屋に入居者は現在もいない。


元々この部屋は普通の部屋だった。

入居者が途切れなかった事も知っているし、ソレが視える事など無かった。

過去に首吊り自殺や、不穏な事故があった事も一切無いらしい。

何故こんな事になったかと言うと、話は1ヶ月前に遡る。

ある夜、居酒屋帰りに例の道路を歩いていると中年の女性が立っていた。

そのまま通り過ぎようとすると

「ねぇあなた」

突然声をかけられた。

女性の方に顔を向けると

「あそこ見て、あそこ」

2階1番端の部屋を指差しながらそう言った。

部屋の方を見ると、ベランダ窓から部屋内が視えるが何もおかしな事は無い。

「首吊ってるの見えるよね?」

女性はそう尋ねると、私の返事も待たずにそのままアパートの階段を登って行った。

呆気に取られていると、2階1番端の部屋内に彼女は現れた。

彼女はこちらを見ると目を見開き、自分の手で首を絞めた。

私は女性と目が合ったまま、歩き出しその場を立ち去った。

次の日隣アパートに住んでいる仲の良い住人に話を聞くと、あの女性は2階1番端の部屋に1年前から住んでいるとの事だった。

ここ最近、夜になると道路を通る人に同じ事を繰り返しているそうだ。

仲の良い住人も仕事帰りに、何度も同じ目に遭っているらしい。

それからしばらくは女性の姿を見かけたが、ある日ぱったり現れなくなった。

どうやら2階1番端の部屋を退去して、遠方の土地に引っ越した様だった。


ソレが視え始めたのはそれからだ。

女性と入れ替わる様にソレは現れた。

断っておくが、私にだけソレが視えるわけでは無い。

この街に住む者なら誰にでも視える。

ソレの正体はいまだに誰も分からない。

女性に取り憑いていた幽霊と言う人もいれば、何度も女性に尋ねられた我々が無意識に作った念の集合体と言う人もいる。


どちらにせよ、忌み地にされた私の街は穢れていく。

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忌み地にされる デンコウさん @naojapan

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