私の先輩

せとあきは

私の気まぐれな先輩

 私は先輩が大好きだ。


 悲しいことに先輩は私のことを嫌いなようだ。


 先輩は気まぐれに私の部屋にやってくる。


 一晩共に眠ると翌朝にはどこかに消え去ってしまうのだ。


 私は先輩を愛しているのに先輩は私を愛してはくれていないのだろうか。


 私は先輩を私だけのモノにしたいと思っている。


 もちろん、それは到底許されない行為だということは当然知っている。


 私をそんな気持ちにさせる先輩が悪いのだと思う。


 そうだ。先輩がいけないのだ。


 私を狂わせた先輩がいなければいいのだ。


 その事に気がついた私に嬉しさがこみ上げてきた。


 今の私は最高の笑顔を浮かべていると思う。




 残念なことにその日から先輩は私の部屋に来なくなった。


 先輩は気まぐれだからしょうがない。


 きっと今夜も先輩は誰かの部屋にいるのだろう。


 気まぐれな先輩のことである。


 先輩はいつだって突然やってくるのだ。


 私が気付いていないだけで先輩は、私の部屋にも来ているのかもしれない。


 気まぐれな先輩の事が愛おしい。


 先輩はどうして私の前に姿を現さないのだろう。


 私が隠し持っている心に気付かれてしまったのかもしれない。


 先輩のことが許せなくなってしまう私がいることに気付いた。




 私の先輩への思いは憎しみへと変異してしまったのかもしれない。


 私は思い通りにならない先輩が許せないのだろう。


 私の部屋に知らない女のニオイが残っていた。


 先輩がいつのまにかやってきて、私の部屋に残していったのだろう。


 先輩が来てくれていた喜びよりも憎しみが強くなってしまった。


 気まぐれな先輩は意地悪だ。


 きっと今の私は先輩を認識してしまったら心を抑えることができないかもしれない。


 今夜も先輩は私の部屋にやってこない。


 それでも私は先輩を待ち続けるのだ。




 私は先輩のことがわからなくなってしまった。


 先輩は何を考えているのだろう。


 先輩は何も話してくれない。


 気まぐれで無口な先輩の事が私は好きだったのだろうか――。


 今となっては先輩の事を思い出せない私が居るのだ。


 先輩との日々が懐かしい。


 その懐かしいという気持ちですら日々薄れていくのを感じるのである。


 きっと、私は先輩のこと忘れ去ってしまうのかもしれない。


 先輩のことを忘れ去ってしまった私の元に先輩はやってきてくれるのだろうか。


 その時、私は先輩のことが何もわからなくなっているのだろう。


 先輩は私のことを気にしていないかのように今日も誰かの部屋を訪れているのだろう。


 私はそんな先輩のことが大好きだったのだ。


(了)

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私の先輩 せとあきは @setoakiha

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