ゆきどけの日まで

@hiroiiiii

第1話


十勝の冬は長く、静かだ。

雪はすべての色を飲み込み、音を消していく。だけどその分、心の中の声はよく響いた。


中学2年の2月、翔太は恋を失った。

美咲が引っ越すと聞かされたのは、雪が降る夕方だった。

あたり一面、真っ白な世界の中で、美咲は申し訳なさそうに笑っていた。「北海道の冬って、こんなにきれいだったんだね」って。


翔太は、なにも言えなかった。

ただ黙って、美咲の隣を歩いた。風が吹くたびに、彼女の髪が翔太のコートに触れた。


「ちゃんと、好きだったよ」

「またね」

信号のない交差点で、美咲がふと立ち止まって言った。

翔太の中で、時間が止まった。雪が降っていたのか、それとも風が積もった雪を巻き上げていたのか、もうわからなかった。ただ、その言葉だけが胸に焼き付いていた。



それから、私は街を出ていった。

何かが終わる音はしなかった。ただ、風景の中から静かに抜け落ちていった。


雪はまだ解けない。だけど翔太は知っている。

この町の冬にも、いつか終わりが来る。

そして雪の下には、春の匂いが眠っている。


ひとり、踏みしめる雪の感触の中に、美咲は確かに翔太との記憶を残していた。

それは、もう取り戻せないけれど、消えてしまうものでもなかった。


だから、もう少しだけこの白い世界に立っていよう。

風が止んで、雪が音を立てて解けるその日まで。


美咲は20歳の時、祖母の家に帰り、あの頃ふたりでよく行った河川敷に向かった。


白樺の影が雪の上に長く伸びる。

足元には、冬の名残の雪と、その下から顔をのぞかせる小さな草。

まるで、この景色のすべてが彼らに「時間が過ぎても、終わっていなかった」と囁いているようだった。


「……翔太?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る