File13 過去、真実、妄執
「あ、あぁ…そんな…嘘よ…何かの間違いよ…志乃が…志乃がぁああ!!」
「おい、大丈夫か!?今は向こうで休もう…な?」
取り乱し、泣き叫んで半狂乱の声を上げたのは長女の乙女。それを支える様に鈴彦が彼女へ付き添う形でその場から去った。志乃の遺体へ近寄った舞亜は彼女の様子を見ながら呟いた。
「…火の付いたタバコの燃え具合を見る限り、殺されたのは私達が駆け付けるほんのさっき。テーブルの上には缶ビールの空き缶、スルメやチーズといった酒のつまみにワインボトル。どうやら昼間から気持ち良く飲んでた所を襲われたんだろう。」
「状況から察するにこの部屋は密室、血の乾き具合から推測するに何者かが此処へ忍び込んでそれによって殺された…そう考えるのが妥当でしょうか?」
「……そうだな。」
舞亜が頷いた時。麻田が俺、明智俊也の方を見て声を掛けて来た。
「失礼ですが…明智様は一体?」
「…隠すつもりは有りませんでしたが、俺は警察の人間です。実は此処を訪れる前に友人が何者かによって殺害され…その真相を知る為に無理を言って同行させて貰ったんです。」
俺は懐から警察手帳を取り出してそれが本物である事を他の麗華や鈴彦、戒斗以外の親族へ伝えた。それから状況整理と現場状況の確認をすべく第一発見者の麻田と丈二から事の次第を伺う事となった。麻田は俺の方を見つつ自分から話を始める。
「実は最初に奥様の部屋を通った時に誰かと言い争う様な声が室内から聞こえたのです。」
「言い争う様な声?」
「はい…また麗華様とケンカしてらっしゃるのかと思い、聞かぬフリを致しました。それで昼食のご用意が出来た際に声を掛ける事にし一旦離れたのです。」
「…次に来た時にはもう殺されていたと。お2人はどうやってこの部屋へ?」
俺がそう聞くと丈二が代わりに答えた。
「麻田さんに呼ばれてからドアにタックルして無理矢理、外から開けたんですよ。麻田さんの言う通り昼食の用意が出来たからと報告を受けたんで僕と瑶子で先に食堂で待ってました。でも志乃さんは中々来ないし義徳兄さんの件も有ったから……。」
「その時に怪しい人影とかを見たり、不審な音を聞いたりは?」
「いや…特には。」
そう話した彼は「先に戻ります」と言い残し立ち去ってしまった。麻田も続いて立ち去るが一方の舞亜は部屋の奥にある窓を確認し何かを確かめたのか頷くと俺の方を向いてこう言った。
「おいコゴロー、此処の床と窓を見てみろ。
開いたままだ。それにカーペットに土が付いている。」
俺はそこへ近寄って実際に見てみると窓は僅かながらに開いていて、その下には少量だが土が付いていた。
「本当だ…!」
「そしてこのカーテンは人が隠れるのに程良いサイズ、つまりこれに包まれば姿を隠すことが出来る。そこの冷蔵庫が死角になるから尚の事、向こうからすれば好都合という訳だ。」
「もしそうなら殺害後にこの部屋に犯人が居たって事ですよね!?」
「あぁ、犯人は此処に居たんだ。そしてドアを破ったのは駆け付けた麻田と丈二の2人…異変を感じた麻田が丈二を呼びに行っている隙に窓を開けてこの部屋の外にある壁面の雨樋を利用し壁を伝って2階から降りて…そして消えた。」
「…犯人はやはり九條乙女でしょうか?現に被害者の志乃さんと言い争ってるのを麻田さんが聞いていますから。」
「その線も捨て切れない…だが何故、志乃は狙われたんだ?まだ次期当主は決まって居ない筈なのに。」
疑問符を浮かべながら舞亜は溜め息をつくと同じ頃合で紗代が俺達の元へ来た。
落ち着きを取り戻したのか普段見る彼女と何ら変わらない。
「…お2人とも何か解りましたか?」
「いいや…何も。それよりどうして最初の被害者、義徳は殺されたんだ?しかもあんな気味の悪い場所へ1人で向かうなんてどうかしている。」
「義徳おじ様はお祖父様の持つこの島の管理を任されていました。本当は此処をリゾート地として運営し利用する計画を立てていたのですが…途中で頓挫してしまい、そのまま放置される事になったのです。それとお母様から聞いた話によればおじ様は次期当主となるべく様々な英才教育を施されたそうです。1つでも間違えば罵詈雑言を浴びせられ、酷い時は暴力もあったとか。それこそおじ様が当主となるのを気に入らない人による犯行だと思います。」
「要するに直正はスパルタ気質だった…と。」
「はい。2人が亡くなった以上...次期当主の話し合いは破談になるかもしれません。やはり九條家は呪われている......島に潜む魔女によって。」
「呪いだと?そんなバカな。」
「私も信じたくはありません...だってお伽話が本物になろうとしているのですから。それに亡くなった志乃おば様は幼い私によく話して下さいました...都会にある見た事の無い街や景色の話を。」
「雛城島の魔女伝説は人を殺す...最初は胸、次は腹。今度は何処だ?」
「言い伝えによれば次は膝と足...そして全てが揃った時に魔女はこの島へ現れる。
また次の犠牲者が現れるかもしれない...お願いです、どうか終わらせて下さい!これ以上...誰かが死ぬのは耐えられない......!!」
「そうしたいのは山々だが、今回の事件...何れも不可解な点が有る。1つは2人の遺体に刺さっていた杭の正体ともう1つは単独犯ではないという可能性があるという事。紗代、この島には使用人以外本来は誰も居ないんだな?」
「え?勿論、私達親族と弁護士の浪川先生、それからお2人だけの筈ですよ?」
「...解った、少し頭を冷やして来るよ。...コゴロー、後は頼んだぞ。」
俺にそう言い残し、舞亜は志乃の部屋から去った。
残された俺と紗代も部屋へ出ると彼女がその足で向かったのは本館の3階にある
直正の書斎だった。
「此処は...?」
「祖父、直正の書斎です。明智さんなら全ての秘密を明かしても良いとお話致しました...その約束を此処で果たそうと思いまして。」
微笑んだ彼女は身に付けていたワンピースのポケットから鍵を取り出し、
鍵穴へそれを差し込む。音が聞こえて開錠したのを確認した紗代はドアノブを右へ捻ってドアを自身の方へ引いてそのドアを開けたのだ。
室内は至って普通の書斎で左側の本棚に所狭しと本が並べられている他に
右の壁には様々な賞状やトロフィーが飾られていて、額縁には白衣を着た人物達と写っている写真が収められていた。
「す、凄い...紫綬褒章だけじゃない、内閣総理大臣賞まで......。」
「九條家は代々、薬学に優れた一族であると同時に科学者の家なのです。戦後間もない頃に祖父が一族の復興と共に始めた事業が成功し莫大な資金と権力を得た。ニュース等で聞いた事はありませんか?Kワクチンの話を。」
「それって確か発展途上国や貧困地帯で使われているワクチン剤でしたよね?」
「それの基礎となる物を開発したのが私のお祖父様です。世界では多くの子供達が予防接種を受けられず、亡くなっていく…そういった現状を少しでも減らそうという考えから生まれたのがKワクチンであり、それ以外にも我が九條グループで開発されている薬品も数多く存在しているんですよ。」
彼女は俺に淡々と語った。
九条家は代々続く天才の家系であるという事...そしてこの国に貢献して来たという功績の話を成し遂げた男の話を。だがそれ以上は何も語ろうとはしなかった。
俺の隣に来た紗代は傍らに寄り添う様な姿勢で身を委ねて来ると同時に書斎から手にした一冊の本を手渡して来た。
「...紗代さん?」
「...明日の朝に船は島へ来られるそうです。それに乗れば一度だけの乗り継ぎで後はフェリーで帰れます。」
「そうですか...ありがとうございます。でも亡くなった2人の事件を解決しない限り、帰る訳には。それに紗代さんとの約束も果たさないと。」
「...そうですね。それに貴方だけです...私の事をちゃんと見てくれている人は。」
悲しそうな表情を浮かべて言ったその言葉の意味は俺には解らなかった。
紗代と共に部屋を後にした俺は途中で彼女と別れ、ゲストルームへ訪れた時に先程まで取り乱した様子だった乙女と出会った。
彼女は今は冷静さと落ち着きを取り戻している様子で窓際に立っていて振り返り様に此方を見るや否や開口一番、俺の事を鼻で笑った。
「うちの娘と随分良い雰囲気ですことね?明智さん。」
「いえ...俺は別にそんな事は。紗代さんの友人として接しているだけです。」
「...男はみんな口ではそう言うものです。丁度良い機会ですし余所者である貴方に教えて差し上げましょうか。我が九條家がどういうモノでその血を絶やさず生きて来たのかを。」
「どういうモノ……とは?」
「この家、九條家とは代々…天才によって成されて来た家系。政治、経済、医学…その他色々、秀でた分野で活躍し代々その名を刻んで来た。故に1度たりとも不出来である事は許されない…。」
乙女は尚も淡々と話を続ける。
「そしてお父様は医学界で成功なされ、ワクチンを始めとした様々な薬品の研究と開発に携わる様になった……しかしお父様はある悩みを抱え、そして憂いる様になってしまった。」
「ある悩み…?」
「代を重ねる毎に九條の血が薄れ…やがて一族は栄えなくなる。そうすれば永年培って来た栄光も名誉も全て失う事になる……もしそうなれば先祖代々続いて来た家系に泥を塗る事になってしまう。ならばどうするか?その果てに辿り着いた答え…それは一族の女が女としての務めを全うする事。そうでもしなければ血は途絶えてしまいますからね?」
この女は、乙女は何を言っているのだろうか?
一族の血を絶やさない為…女としての役目…どれもが意味不明でしかない。
「……まぁ、遅かれ早かれあの子がお父様の子を身篭って居さえすればこんな馬鹿げた家族会議は無かったというのに。」
「あの子…?それってまさか…ッ!?」
「えぇ、その通りですわよ?明智さん。
この九條という一族として産まれた以上…あの子は栄えある立派な務めを果たす為に存在しているのですから。」
お父様は直正、そしてあの子とは紗代の事というのは嫌でも解る。そして2人の関係性は一族繁栄の為に交わるだけの関係という最低最悪な物だった。
「狂ってる…こんなの絶対に間違ってる!!」
「…どうとでも言いなさいな。そうでもしなければこの家は、とうの昔に落ちぶれている…本来なら男子を産むべきだったというのに瑶子は女子を産んだ…男であればあの子と交わらせて子を宿せたというのに、本当…つくづく役に立たないダメな子だわ。志乃に至っては論外ですけどね。」
「ッ…アンタは自分の娘を何だと思ってるんだ!?彼女は…紗代さんは…ッ…!!」
「それが九條家の女として産まれた者の末路。今聞いた事は頭の片隅にでも入れて置きなさいな…貴方とあの探偵、それから紗代と真里亜が2人の死が魔女の呪いだとか何とか騒いでいるけれど、そんな馬鹿げたモノは有りはしない。一族の繁栄を拒む誰かに殺されたのよ。」
俺を嘲笑う様に乙女は言った。
笑顔で俺に愛想を向けている紗代が
お友達になろうと言って来た紗代が
自分の夢や理想を語っていた紗代が
彼女のどの姿が俺の脳裏に焼き付いたまま離れない。俺からすればどう足掻いても頭が可笑しくなりそうな程だった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
その頃、舞亜は1人で殺害現場の辺りに来ていた。
それも視線を感じた先...所謂、例の雑木林の前である。
「...手掛かりを探す為だ、多少の無茶はやむを得ないか。こういう時にコゴローが居れば多少はどうにかなるんだが......紗代は何故ああもコゴローに執着する?もしかしてアイツ...いやいやいや!そんなワケ有るもんか!絶対に!!」
髪を左手で掻きながら否定し、覚悟を決めたのかその奥へ突入する。
やはり草木が生い茂っていて進もうとすれば細かい枝が行く手を遮って来る上に
オマケにブーツのせいか歩き難い。
「くそッ...フラフラする...!!こんな事ならスニーカーにするんだったな──ったぁッ!?あーーーもう!戻ったらアイツに八つ当たりしてやる!!」
枝が舞亜の左腕へ当たって僅かに素肌が切れてしまう。それでもお構いなしに
突き進むと見えて来たのは黒色の屋根をした木造の家屋で西洋風と言われれば少し遠く、どちらかと言えば日本家屋に近い見た目をしている。
「家...?何故こんな所に。」
そこへ近寄り、壁面にある窓から室内を見ると人が住んでいる形跡があった。
白いシーツが敷かれたベットの上にはくしゃくしゃの毛布、木製のテーブルの上には食べ掛けの食事が置かれていた。
「...成程、要するに此処に居る連中以外にも人が居たという訳だ。これではっきりした後は詳しく──」
彼女が振り返った時、胸元へ銃口が宛がわれた。
視線を向けるとそこには腰の中程辺りまで伸びた艶のある黒色の髪とルビーの様な赤い瞳を持つ少女で格好は学生服の様なモノを着ている。
上は黒い長袖で下は白いスカート、膝下は黒の靴下と足元は膝半分を覆うこげ茶色のブーツだった。その右手には木製のストックとフォアグリップを持つ細長い銃口を持つ銃器が握られていて威圧感のある声で話し始めた。その容姿は何処となくだが
舞亜も知る人物と似ている。
「お前...誰だ?九条の人間か?」
「バカかお前。そんな訳ないだろ、あんな嫌味連中と一緒にするな。飯と酒は美味いが...それ以外何1つ取り柄なんかない。」
「じゃあお前は何処の誰だ?」
「...先ずはその物騒な物を下ろせよ。その銃、ウィンチェスターだろ?形状から見てM1886...別名イエローボーイ。これは真鍮機関の色合いから来た別名でレバーアクションを搭載したショットガンで最大16発の弾丸を装填できる。」
「ほぅ?詳しいんだな。」
「私は敵じゃないし何なら熊でも鹿でもない...さっきのは本で読んだから知ってるだけだ。下手に撃てばお前の存在も奴等にバレるぞ?」
舞亜がそう言うと相手は暫しの沈黙後にショットガンを下ろし、
小屋の中へと招き入れた。四角い箱を椅子代わりにしているらしく
そこへ少女が腰掛ける。舞亜は奥のベットへ座った。
「お前、名前は?」
「普通は自分から名乗るんだが?それが常識だ。」
「...?そうなのか?
「九條?お前もあの家の人間なのか?」
「...そうだ。母は直正の愛人、オレはその子供だ。」
「要するに直正の隠し子...お前は此処に1人で済んでいるのか?」
「そうだ。この島でオレは産まれ、もう既に無くなったがもう1つの屋敷で育った。そして直正はオレと母親の存在を無かった事にし...忘れた。」
「あの親族連中と会ったりは?直正がお前を認知していれば遺産相続の相続権はお前にも有るだろうに。」
「会ってどうなる?金の話は聞きたくない...直正の顔が良いのは表だけ、裏の顔はクズそのもの。九條家は呪われている...あの男が全てを狂わせた...!!」
ギリギリと歯を食い縛ると杏寿は拳を握り締めていた。
「どういう意味だ?」
「...奴は自分の血筋を絶やさない様に、子孫を残す為に自分の娘達に手を出した。それも九條家の務めという大義として取り繕ってだ。」
「要するに近親相姦...じゃあお前も──!!」
「...あぁ、勿論狙いを付けられたよ。例え愛人の子だろうと容赦なく手を出すのが九條直正という男...当然身籠ったさ、昼夜問わず...アイツに啼かされたんだからな。」
立ち上がった杏寿は上着を捲って腹部を舞亜へ見せた。
そこには何かで切付けた様な傷跡がへそから下へ続いて残っている。
「お前...ッ!?」
「やったのは母さん...奴の全ての所業を知り、オレが奴の子を孕んだのを知った母さんは泣きながらオレを刺し、オレは2度と子が成せなくなった。そしてオレ達は一度この島を出て行方を眩ませたのさ。」
「...戻って来たのは一族に復讐する為か。」
「あぁ...そうだ。」
「そろそろ話を変えようか...奴等の話をしていると背中が痒くなる。そういえばこの森の少し奥で死体が見つかったんだが...お前は何か知っているか?」
「あぁ...九條一族の人間が死んでいた事か?...さぁな、オレは知らない。」
それを聞いた舞亜は小さく笑うと頷き、更にこう続ける。
「別に知らないなら良いんだ...此処から先は単なる独り言だ。使用人の話によるとその死体は頭を刃物でかち割られ、心臓を鋭利な杭で一突きだったそうだ。それにしては随分と手の込んだ殺し方をする...恐らく殺れたのは昨夜の夜で間違いないらしい。」
「...それはまた不自然な死に様だな。」
「私の見解じゃ犯人は背後から襲った人間、そして正面から襲った人間の合わせて2人組。そうじゃなきゃあんな死に方は成立しない。そういえばこの辺は草木や細かい木の枝が多くてオマケに歩き難いし夜だと尚更危なっかしい。お前はどうしてるんだ?」
「鉈を使っている...物置小屋から持ち出した奴をな。夜はそこに掛かってる懐中電灯を利用している。」
「おいおい、まさか勝手にか?」
「いや...許可なら取ってる、麻田という男にな。」
「そうか...死んだ奴とお前との間に関係性は有るか?」
「何もない。」
「...ところでその鉈は何処にある?帰る時に私も使いたいんだが...大きさと長さを確認させて欲しい。何せ私は小柄で貧弱だからな、鉈に振り回されるかもしれない。」
「それなら小屋の外にある薪の傍に置いている、抜き身だからケガには気を付けろよ。」
杏寿の言葉を聞いた舞亜は一旦外へ出て言われた場所を確認しに行く。
そこには確かに鉈があり、その刃へ目を凝らしてみると僅かに赤黒い液体が飛沫した様な痕跡と赤黒い何かを拭いた布が銀色のバケツの中にあった。
「...決まりだな。」
ニヤリと笑った舞亜が再び小屋へと戻ると
杏寿を見ながら再び声を掛けた。
「...鉈を見て来たよ、重そうで私にはアレを振り回せない。」
「そうか...なら来た道を引き返し、また歩いて戻るしかないな。」
「そうだな...2人目のうち1人目の犯人を連れて戻るしかなさそうだ。」
「...どういう意味だ?」
「簡単な話さ。お前が義徳を殺した犯人だろう?鉈の刃に血が付いていたのが何よりの証拠...それに私はさっきの会話で一言も九條一族の人間が殺されたとは一言も発していない。」
「オレを騙したのか?」
「騙した訳じゃない...が、ある意味騙した事にはなるか。この島は夜になると街灯は一切なく、それでいて月明りしか差し込まない。義徳が殺された日は確か曇り空...だから肝心な月明りも無く視界が悪い。ならばどうするか?懐中電灯で照らし、鉈を手に歩く他ないって事だ。」
「それで?オレがそいつを殺したという証拠は──」
「...無い。だが1つ有るとするならば...あの鉈でお前がトドメを刺した位だろう。杭で胸を突き刺した後あの鉈で背後から襲い、頭をかち割った。心臓と頭を狙えば殺せる、例え女でも体重の掛け方や振り方次第でどうとでもなるからな。」
暫く間が開くと杏寿は自ずと口を開いた。
「......お前の言う通り、オレがそいつを殺したよ。でもオレは悪魔で助けただけだ。」
「助けただと?...何処の誰を。」
「一族の娘であり...オレと同じ黒い髪をした子。魔女伝説というお伽話を利用してあたかも魔女が人を殺している様に見せる...その案に従ったまで。刺した杭はその子が直正の書斎から持ち出したアンティーク製の物、オレも見た事があった。」
「...何故殺した。」
「決まっている...その子を自由にさせる為だよ。九條という名の呪い、九條家の女の務めというふざけた仕来たりから解き放つ為。他に正当な理由が必要か?」
杏寿の目は真っ直ぐと舞亜の目を見つめていた。
その視線から伝わってくるのは悲愴、怒り、そして憎しみと憎悪。
「2人目...志乃を殺したのもお前か?」
「......それはオレじゃない。確かにあの部屋に居た...もしもの事があれば頼むとそう言われたから。」
「...その子は次に誰を殺す気だ?」
「さぁ?どうだろうな...何れにせよあの子の中に溜まった憎しみや憎悪、恨みは計り知れない。下手をすれば親族全員が死ぬかもしれないな。」
「お前ッ...どうしてそう他人事みたいに淡々と言えるんだ!!」
「どうして?オレも被害者だからだよ...部外者のお前に解るものか!!」
詰め寄って来た舞亜と杏寿はお互いに睨み合う。
そして事件の終着もまたすぐ傍まで来ていた。
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