第2話 

「少しは落ち着きました?」


「う、うん。ごめんね?つい興奮しちゃって」



見事な鳩尾ダイブを食らったあと事情を聞くため少女と桜の下のベンチに腰かけていた。今も若干鳩尾が痛む。



「それで君は?聞き間違いじゃなければ俺のこと知ってるみたいだったけど」


「え...そうだよね...もう随分昔のことだもんね」



そういって彼女はしゅんとして俯いてしまった。改めて見ると本当に綺麗な女の子でどこか儚さや危うさすら感じさせるほどの美少女だった。



「覚えてない?ゆう君小さい頃私の面倒をよく見てくれていたでしょ?」


「...あ!もしかしてゆめか!?」



幼い頃、公園で一人ぼっちだったゆめという女の子とよく遊んでいたことがある。当時のゆめは無口で内気な性格だったため同い年の子とうまく馴染めていなそうだった。そういえばゆめとはここの桜をよく見に来ていた。



「それにしても見違えたね。あの頃も十分かわいらしかったけど随分大人びたね」


「ふふっ。何年経ったと思ってるの?私も成長しますとも」


「それもそうか。というか正直また会えると思っていなかったから驚いたよ。こっちに戻ってきたんだねゆめ」



ゆめは俺が小学5年になるときに遠くの町へと引っ越してしまった。幼かったこともありそれからは連絡を取ることもできなかったので本当にもう会うことはないと思っていた。



「うん。お父さんの仕事の都合でこっちに戻ってくる事になってね。それでゆうくんにまた会えないかなーってここに来てたんだ。」


「そっか。だからウチの学校に転校を」



なるほど。噂の転校生とはゆめのことだったようだ。そりゃこんな可憐な子が転入してきたとなったら噂にもなるだろう。


「それにしてもよく俺の事なんて覚えてたね。幼い頃の記憶だからとっくに忘れててもおかしくないのに。」


「忘れるわけないよ、ゆうくんは私にとって一番...」


「ん?今なんて言った?」


「いや!なんでもないよ!でも私も驚いちゃった。まさか本当にゆうくんに会えるとは思ってなかったから」


「買い出しついでに桜を見に来たんだよ。今年から一人暮らししはじめてね」


「一人暮らし!?...あ、あのもし忙しくなかったらこの後ゆうくんのお家にお邪魔してもいいかな?」


「え?」


「せっかく再開できたからもっとお話したいなって思って。だめかな?」

 

何かをする気など毛頭ないが、さすがに男子高校生が一人暮らしの家に女の子を上げるのは危険だろうし時間も時間だ。ここは俺がしっかりしなければ。


「それはさすがにな。もう暗いし親御さんも心配するだろう?今日はこのへんでまた都合がいい時にでも遊びに来るってのはどうだ?」


「むう、分かった。今日はそうする。じゃあゆうくん連絡先だけ交換してくれないかな」



そうして連絡先を交換をした。お互いアカウントのアイコンが桜で少しだけ気恥ずかしさを感じた。


「ゆめ、もう暗いし送っていくよ」


「ありがとう。でも家近いし、ゆうくんの買った食材悪くなっちゃうから大丈夫だよ」


「そうか。じゃ気をつけてな」


「うん。ゆうくんもね」



そういって俺たちは解散したはずなのだが・・・



「ゆうくん?無理して送ってくれなくても大丈夫だよ?もうここ家だし・・・」


「いや、違うんだ。俺の家もここ・・・」



着いたのはあの川から5分ほど歩いたところにあるアパート。どうやらゆめもこのアパートの住人らしい。



「こ、こんな偶然あるんだな!今日は驚くことばっかりだな!」



そういってゆめの方を見る。うん。すっごいきらきらした顔でこっち見てる。嫌な予感しかしない。



「ゆうくん」


「はい」


「明日お邪魔していい?」


「はい」



今日とか言い出さず本当によかった。本当に。



「なんならお夕飯のあと...」


「ダメです!」

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