エピローグ 戦争が「専売特許」でなくなる時代の到来

「貴族制度自体が……なくなる?」

「そう。というより『魔力第一主義』そのものをなくすってことだよ。そもそも、この世界は魔導士に何もかも背負わせすぎだったからな」

「けど……」



僕は思わず反論しようとしたが、クルルさんがそれを制した。



「そりゃ、魔力自体を否定するつもりはないけどさ。そんなものに頼らなくてもいい世界を作れば……トリアはレベルドレインをしなくていいでしょ?」

「『サキュバスは、魔力を持つものしか愛せない』ってんなら、誰からも魔力を奪わなくていい……いや、奪う意味がない世界になっちまえばいいんだよ、この世界のほうがな」

「あ……」



そういわれて気が付いた。



確かに、トリアが魔力を欲する理由は、魔力を有するものしか貴族位を継げないという貴族制度そのものが原因だ。


もしも『魔力を持つものを優遇する制度』自体がなくなってしまえば、トリアはもう魔力を手にする必要性自体がなくなる。



トリアもそれに気が付いたのか、驚いたような表情を見せた。

だが、グロッサさんは話の意味があまり理解できないのか、不思議そうな表情を見せた。



「つまり……どういうこと?」

「トリアは魔力を奪うことなく、ラウルと結婚できるってことだよ。……トライル家の当主としてじゃない、一人の『人間同士』としてね」



貴族制度そのものがなくなるという考えは、正直僕には浮かばなかった。

そういう意味では、彼らザック君たちは一歩先のことを考えているんだなと感じる。

だが、トリアが反応したのは別の部分のようだった。



「一人の人間、か……アハハ……私のことを人間って読んでくれるの?」

「そりゃそうでしょ。魔力なんてものが『あってもなくても変わらないもの』って世界になったら、トリアの力も怖くはないからね」



それを聞いて、レクター君も驚いたような表情を見せる。



「は……。そんな考え、初めて聞いたけどな……つまり、生まれつき持つ魔力の多寡じゃなくて……」

「単純に、個人の資質や能力で地位が決まるってことだな。それもそれでひずみは出るだろうけど……まあ、レクターやグロッサなら、そんな世界でも何とか生きられるだろ?」

「ハハ、まあな……」



そうレクター君は笑って見せた。

……まあ、彼が自信家だということを考えれば当然か。


そしてザック君はレクター君たちに呆れた表情で答える。



「後さ……。レクター、グロッサ? ……もう種明かししたらどうだ?」

「え?」

「貴族制度そのものがなくなりゃ、トリアも『魔力を持たないから』って理由で取りつぶしを受けたりもしねえだろ? ……こいつらをこれからも守りたいなら、しっかり伝えろよ」

「あ、ああ……」



そういって、ザック君は今までのことを説明してくれた。



「やっぱり……」



正直、驚きはしたが意外ではなかった。

元々レクター君は幼少期、領主の息子として恥じない態度を見せようと、常に模範的な態度を見せていた。


それなのに、ある時期を境に急に僕やトリアに対してだけあたりが強くなっていた。

そのことを当時は不自然に思っていたからだ。



そして、先ほど僕に対して向けた殺気も明らかに不自然なものだったし、スノー・シルバーバックと戦うときも僕を庇ってくれた。



……だから、彼らが元々は僕らのために色々と気をまわしていたということは理解できた。



「そうだったんだね……」

「その……ゴメン、ラウル、トリア。……俺たちは、酷いことをしてきたから……」

「うん。辛かったでしょ?」


グロッサさんもそういって僕たちに頭を下げてきた。

だがトリアは、少し悲しそうにしながらも笑みを浮かべる。



「ううん……。そういうことだったら……私のほうこそ、色々気を遣わせちゃってたんだね? ……ごめ……じゃないね、ありがとう、二人とも」

「……ああ……」


トリアはそういって可愛らしい笑顔を見せてくれた。



そしてザックは煙をあげる大砲を指さしながら笑う。



「それじゃ、今後は俺たちとこいつが『主人公』だな」

「主人公って何の?」

「この世界のだよ。……もう、魔力を持たない奴はモブ扱いするような世界にはさせねえよ!」



そうザック君が叫ぶと、クルルも楽しそうに笑う。



「うちの父さんは新聞記者だからね! 今日のこと、大々的に報道してもらうんだ! もう、魔法の時代は終わったってね!」



その顔は、今までのような『歴史の端役』としてではない、ある種自分たちが世界を動かそうとするような力強さを感じた。



「そう、か……」

「つーわけで、今後は俺たちが世界を回してくからさ、ラウルはトリアと仲良く暮らせよな!」



だが、そういうことなら僕だって主役でいたい。

そう思って首を振る。



「それなら僕らも一緒に手を貸すよ! ……トリア、一緒にこれから頑張っていこうよ?」

「うん! ……ラウル、私はラウルのこと、ずっと好きだからね?」

「僕もだよ、トリア?」



そういって笑い合う僕らに対して、新しい時代を伝える狼煙のように、大砲が砲身から煙をあげていた。

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分かってる、君が優しくしてくれるのは、僕の魔力が目当てだと フーラー @fu-ra-

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