1-2 ラウル、君はこれ以上何をしてあげられるんだ

「いけない、少し遅れたかな……」



僕はそんな風に思いながら、学園に向かった。

この国では平民も貴族も同じ学園で授業を受ける。……とはいえ、やはり貴族が平民を下に見ているのだが。



しばらく道を歩いていると、僕はクラスメイト『ザック』君に出会った。

彼は平民であり、僕の大切な友達だ。



「あ、おはよう、ラウル!」

「ああ、おはよう。ザック君」



この学園の平民は、僕以外は誰も魔力を持たない。

また『魔導士』が戦争のあり方を変えてしまったことにより、彼ら平民ではいわゆる一般的な兵士としての需要は現在では殆どない。



そのこともあり、彼らは貴族だけではなく大人たち全員から『その他大勢』のような扱いをされている。



幸いなのは、彼らは積極的には僕やトリアをいじめてこないことだ。

……レクター君たちがいないところでは、だが。



「先週出た課題はどうだ、ラウル。終わりそうか?」

「ああ、それならバッチリだよ。ほら……」



そういうと、僕は魔晶石を3つ取り出した。

今回の課題は『魔晶石』と『氷のしずく』、それから『明かりの木の実』というマジックアイテムを見つけることだ。


それが出来なければ、次の課題での調合試験に参加できないので、成績不良で退学となる可能性すらある。



僕は魔晶石と氷のしずくを見せた。この2つは、市場で手に入る材料をもとに作成したものだ。


彼は、その様子を見て少し驚いた様子を見せた。



「お、やるじゃん、ラウル。残りの『明かりの木の実』は?」

「それなら、トリアが採ってきたっていうから大丈夫だよ」



そういうと、彼は少し申し訳なさそうな顔をして答える。



「あ、ああ。そうだったな……。けど大変だよな、お前はさ。結局今回も、お前とトリア、二人だけでチーム組んでるんだろ?」

「うん……」

「悪いな、ラウル達と組むとレクターがキレるからさ……」

「分かってるよ、ザック君たちが悪いわけじゃないことは。……まったく、レクター君もああいうのやめてほしいんだけどな……」




僕は貴族たちから疎まれている。

特にレクター君とグロッサさんは酷くこちらを目の敵にしており、僕が誰かとグループを組むことをいつも邪魔してくる。



……だから、僕とチームを組んでくれるのは、同じく仲間外れにされているトリアだけだ。

そんな僕は、彼女と二人で課題をこなすことが多い。



今回のように、本来は3人で組んで行う課題も二人でこなすので、必然的にトリアと作戦会議をする時間も長くなる。

……正直、トリアと話す話題が増えることだけは、少し嬉しいのだが。



(本当に、トリアがいてくれて良かったな……。彼女が『魔力目当て』だとしても、嬉しいよ……)



きっと僕はトリアがいなかったら、学校に通い続けることも出来なかっただろう。


……僕は昔から、トリアのことを異性として好きだ。

けど『嫌いな人から向けられる性欲は悪』ということくらい、分かっている。



僕は彼女に何もしてあげられていないのに、僕ばかり優しさを受け取っている。

そんなトリアは、きっと僕を嫌っているのだろう。

夢の中で彼女に拒絶されたことを思い出し、自己嫌悪の気持ちが湧いてくる。



そんな風に考えていると、ザック君は訝し気な顔をして立ち止まった。



「ん、あれは……トリア? なんであんなところにレクターといるんだ?」

「え?」

「ちょっと来いよ、ラウル?」

「あ、うん」



そういうと、彼は僕の手を引いて脇道にそれていった。






「や、やめてよ!」

「は! やなこった! てめーに課題なんか、こなさせるわけねえだろ!」



角を3つほど曲がった先に、レクター君とグロッサさん、そしてトリアがいた。

だが、トリアは先ほどまで髪を引っ張られていたのか、ぼさぼさな髪をしており、少し膝を擦りむいている。


僕は思わず飛び出した。



「ち、ちょっと何やってるんだよ、レクター君!」

「あん? 見りゃ分かるだろ、天才君? お前たち二人が、学校に来るのがムカつくからさ!」

「そう、だからこうやってやるんだよ! あんたらなんて、退学になっちまえばいいんだ!」



そういうと、グロッサさんは足元に転がっていた『明かりの木の実』をグシャグシャに踏みつぶす。


「何てことするんだよ!」

「きゃはは! いい気味だよ! ……あのさ? 『レベルドレイン』がいずれ出来るようになるサキュバスが学校にいると、それだけで私たちは嫌なのよ?」

「そんな、私は別に……」

「そうやって油断させて、俺たちから魔力を奪うんだろ? わかんだよ、お前ら薄汚い種族の魂胆なんかな! どうせ、そうやって俺を廃嫡させてさ! それであざ笑うんだろうよ!」

「きゃあ!」



そういうと、レクター君は彼女を突き飛ばした。



「危ない、トリア!」



不幸中の幸いは、彼が僕の方に突き飛ばしたことだ。

思わず僕は飛び出して、彼女を抱きかかえる。



「あ、ありがと……けどゴメン、ラウル……木の実が……」

「よくも、トリアを……許せない!」

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