1-1 魔力を渡したら用済みになると、ラウルは思い込んでいる
その日、僕は夢を見ていた。
夢の中のトリアは僕を抱きしめ、その綺麗な唇を僕の首筋に近づけながら尋ねてきた。
『ねえ、ラウル? 本当にいいの? 君の魔力を貰って……』
『うん……。そうすれば、トリアは喜ぶんだよね? ……なら、あげるよ……』
『ありがと……ラウル……じゃ、貰うね……』
そういうと、彼女は僕の首筋に牙を突き立てる。
……すると僕の体から魔力が少しずつ抜けていくのを感じた。
『……ねえ、レベルドレインは……終わった?』
『……うん』
『そう……なんだね……。あのさ、トリア? 実は僕、トリアのことが……』
『……キモいよ、ラウル。離れて!』
だが、彼女はそれには答えようとせず、魔力の弾を僕にぶつけてきた。
トリアは先天的な魔力自体は持っていない。
だからこれは、先ほど渡した僕の魔力を使って生み出したものだ。
『あのさ、もうあんたは用済みだから、話しかけないでくれる?』
『え……』
意外そうな顔を見せていると、トリアは嘲るように笑みを浮かべる。
『あ、まさかさ。本当にあんたと友達だと思っていたの? アハハ! ……なわけないでしょ? いつもいつも、本を貸してあげたり、お菓子を作ってあげたりしたのはさ……。あんたの魔力が欲しかったからに決まってるじゃない!』
『……そんな、酷いよ……トリア……』
僕はそういいながらも、トリアは心底気持ち悪そうな表情を見せた。
『嫌いな奴から向けられる性欲って、ウザいだけでしょ? 本当に気持ち悪かった!』
『嫌い……だったの、僕のこと……?』
『当たり前でしょ! 第一さ、魔力を餌にして友達でいる癖に『好きだ』なんて、卑怯者だとは思わないの?』
『卑怯者……僕が……?』
だが、トリアのいうことを僕は否定できなかった。
トリアは半ば泣くような表情で僕に対して叫ぶ。
『本当はあんたといっしょにいるの、ずっと嫌だった! 私は本当はレクター達と一緒に遊びたかったんだよ? ……けど、私には魔力が必要だったから、あんたにへつらうしかなかった! 分かる? この辛さが!』
『レクター君と……』
『そうだよ! ……けどこれで、私の家も取りつぶしにならなくて済むから。ま、そこだけはお礼を言っとくね。……けどさ、もう二度と顔も見せないでくれる?』
そういって冷たい目で見下すトリア。
その後ろからレクター君がやってきた。
『お、レベルドレインで魔力を手に入れたんだな。……これなら、俺たちと一緒に魔導士を目指せるな!』
『うん! これからどんどん強くなって、この国一番の魔導士になるから! そしたらさ、一緒に暮らそう、レクター?』
『だな! じゃ、お疲れさん、ラウル! もうお前、用はないから死んでれば?』
『アハハ! 後、貸してあげた本は餞別にあげるから! というか、君の触った本なんて、本当は触りたくもないし!』
『待って、トリア……』
「トリア!」
そういうと、僕は真っ青になりながら目を覚ました。
「はあ、はあ……。ゆ、夢、なんだね……?」
そう思うと僕は右手に魔力を集めると、淡く光を放つことが分かった。
うん、やっぱり魔力は奪われていない。
「けど、正夢になるんだよね、これは……アハハ……」
汗が全身から吹き出ており、ベッドがぐしゃぐしゃになっていた。
まだ、朝の5時だ。
隣には、母さんと3人の弟妹がいびきをかいていた(父さんは、この時期は炭鉱で出稼ぎをしている)。
先ほどまでの悪夢がまだ忘れられない。
続きを見るのが怖くて、もう眠る気にもなれない。
「もう眠れないし……。そうだ、もう今日の分のご飯、作っておこう……」
そう思うと、僕はリビングに向かった。
基本的に家族の食事は、長男である僕が作っている。
全員分の朝食とお弁当を作り、念のため僕はトリアの分のお弁当も作っておいた。……よく、レクター君達が彼女のお弁当をゴミ箱に捨てるからだ。
「ふう、これでみんなのご飯も出来た。……それと……」」
僕は、トリアと彼女の家族のために用意していたマーマレードの味見をした。
彼女の家は貴族ではあるが、あまり裕福ではない。
お弁当のバスケットを見ても、こういったフレーバーの類が付いていない黒パンを食べていることをよく見ていた。
そんな彼女やその家族の人たちに、少しでも美味しい食事を楽しんで欲しいと思い、僕はよくジャムやマーマレードを作っている。
他にも農作物を収穫したときにも『味見をしてほしい』『貴族の意見を聞きたい』と彼女が不快にならない理由をつけて渡して、食べてもらっている。
まあ、それを渡して彼女の笑顔を見るのが目的でもあるのは内緒だが。
(うん、このマーマレードはよくできてる……。トリアも喜んでくれるといいけど……)
彼女が欲しいのは、こんな『くだらないもの』じゃなくて、僕の『魔力』だということは分かっている。
それでも、彼女とその家族が少しでも喜んでくれるなら、僕は何でもする。
そう思いながら、僕はマーマレードに軽くラッピングをした。
「……よし、できた。みんな、そろそろ起きようか?」
「はーい!」
そう僕が叫ぶと、寝室から皆の元気そうな声が聞こえてきた。
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