異世界の魔法使いが現代田舎で農家をしている話
まする555号
第1話 お兄ちゃんのきゅうりが一番美味しいよ
日が出て朝靄が開けたばかりのビニールハウスの中、ちょっと大きくなり過ぎたきゅうりを摘み取りガブリと噛りつく。うん青臭さが美味い。
農家の朝は早い。朝採れの一番瑞々しい野菜を収穫するためだ。
「おはようタロウちゃん、せいが出るねぇ」
「おはようキク婆ちゃん、腰大丈夫?」
「あぁ、タロウちゃんにお見舞いして貰ったおかげで調子いいさぁ」
ビニールハウスの外から声をかけて来たのは隣の家に住むキク婆ちゃんだ。といっても徒歩で5分以上家が離れているお隣さんだけどね。
「それは良かった、でもあまり無理しないでよ」
「花は待ってくれんさぁ、そうも言ってられないさぁ」
キク婆ちゃんの家は田んぼがメインだけど、俺が所有しているビニールハウスの横に花卉用のビニールハウスを持っている。
といっても同時に建てられた訳では無い。キク婆ちゃんの花卉ハウス用の電気や農業用水の取水の引込がされていたので、それを分岐させて貰いやすい隣に俺が野菜用のビニールハウスを建てたのだ。
「僕も終わったら手伝いに行くから、養生してよ?」
「ありがとうさぁ」
キク婆ちゃんの所は、今の時期は母の日用のカーネーションの鉢植えの出荷に忙しい。だから持ちつ持たれつで手伝いを行っている。
「さて、あとひと踏ん張り頑張るか」
出荷出来るキュウリは規格内に納められなければならばい。曲がっていたり成長しすぎたものは低級品扱いされてしまうからだ。
無人販売や道の駅やネット通販で売ることも出来るけれど、メインの収入は規格内に揃えて出荷したものになる。単価は安目だけれど圧倒的に大量に捌けるし確実だ。
「相変わらずいい艶のきゅうりだねぇ」
「うぉっ! アカネ! 脅かすなよ!」
アカネはキク婆ちゃんの孫だ。今年高校1年生になったばかりのちびっ子だ。
自転車の音で来たことは分かったけれど、後ろから不意打ちで声をかけられるとさすがに驚く。
「ニシシ……、1本貰って良い?」
「ちょっと待て、それは出荷用だからな」
「はーい」
アカネは手に味噌とマヨネーズと梅カツオと塩麹を入れたタッパーを持っている。相変わらず用意が良い。
「はいよ、規格外きゅうりだ。まだ洗って無いからな」
「平気〜」
アカネに渡したものは、規格より長く伸びてしまったものや規格より短いけれど明日には超えてしまうものや曲がったものだ。味は変わらないけれど低品質品として扱われる。だから家に持ち帰ってぬか漬けや酢漬けにしようと思って別置きしておいたものだ。
日照時間の長い今の時期のきゅうりは1日で4センチぐらい伸びてしまうので、少し短いものはすぐに超えてしまう。規格内に入らないものは結構出てしまうのだ。
「うーん……、やっぱお兄ちゃんのきゅうりが一番美味しいよ」
「そうか?」
というか他の家の畑にも、きゅうりを貰いに行ってるのか?
「完全無農薬有機栽培だから?」
「まぁそれもあるかもなぁ」
俺の野菜はアカネの言う通り完全無農薬有機栽培だ。残留農薬を測定して貰っても全てがゼロになる。
肥料も自家製有機肥料で農薬が使われた野菜くずや、農薬が使われた穀物を食べた家畜の糞も入れられていない、そちらも残留農がゼロのものだ。だから高級スーパーや都会の百貨店に評価されて予約注文される。
味を評価してくれたレストランから直接問い合わせがあって個別に取引もしている。そちらは単価は高めだけれど、大量じゃないし個別に出荷するため手間がかかっている。
「そろそろ学校に行く時間じゃないか?」
「大丈夫だよ、ちょっとぐらい遅れたって」
「ルーズだなぁ」
ルーズな奴は農家になれないぞ?
「私はお兄ちゃんに貰われるから学校は適当で良いんだよ」
「時間にルーズな奴は、農家の嫁にはなれんな」
時間通りに収穫して出荷しなければ、顧客に迷惑かけるからな。
「えぇ〜、ピチピチのJKだよJK、去年までJCだったんだよ?」
「はっ」
「鼻で笑われたっ!?」
そんなロリコンブランドには全く興味がないな。
むしろギックリ腰でぶっ倒れた翌日にも畑に向かおうとするキク婆ちゃんの方が素敵だと思うぞ。
「私、クラスの男子にはモテモテなんだけどなぁ……」
「ガワだけは良いからな」
「おっ!?」
感嘆の言葉と共にアカネ目を輝かせてこちらにじり寄って来た、ちょっとその手をワキワキさせるのは気持ち悪いぞ?
「何だその手は」
「見た目は合格って事なの〜?チラッ」
アカネは短く履いている高校の制服のプリーツスカートを少したくし上げ、俺に3枚1組で売ってそうな綿パンをみせて来た。
「はぁ……」
「ため息つかれたっ!?」
ちびっ子用のパンツをチラ見させられても何とも思わんわ。
母親であるサヤカさんのセクシー下着でも持参せい。
「もうっ、私が池上君と付き合った時に泣いても知らないからねっ!」
「はいはい、池上にヨロシクな」
「ヨロシクされたっ!?」
誰だよ池上って、怪しい時事ニュース解説者の事か?
「アカネ〜、学校遅刻するわよ〜」
「はーい」
俺とキク婆ちゃんにビニールハウスの間のスペースに、幌付きのトラックが止まり、中から降りたサヤカさんがビニールハウスの中に入って来た。
「やっぱりここにいたわね」
「えへへ〜」
サヤカさんはアカネと顔立ちが似ている。
けれど多少手足が伸びただけの幼児体形のアカネと違って、プリンとした色気がムンムンの女性だ。
キク婆ちゃんと同じ色気のないモンペ姿なのに、それでも滲み出てしまう艶がたまらない。
「鞄とお弁当が助手席あるから忘れちゃだめよ?」
「これ家に持ってって」
「はいはい」
何で家からここまで制服を着て自転車で来てるのに、鞄と弁当は置いて来るんだよ。
「じゃあ、お母さん、行ってきまーす」
「はい行ってらっしゃい」
アカネがビニールハウスから出ていき、トラックの助手席のドアが開閉した音がしたあと自転車が去っていく音がした。
「もうアカネったら本当にタロウ君の事が好きなのねぇ」
「ははは、子供には興味ありませんよ」
俺はツルベタズンドーの綿パン娘に色気を感じたりはしない。
「そう?発育は悪いけど母親の私から見ても可愛いし、将来美人になるわよ?」
「俺は将来性よりも今を大事にしてますから」
俺はサヤカさんを抱き寄せると唇を合わせた。
「試すような事を言うなんて悪い人ですね」
「タロウさん……」
俺とサヤカさんは肉体関係がある。
不倫という事になるけどもう少しでそうではなくなる。
サヤカさんは旦那さんは失踪していて、もうすぐで7年が過ぎ、未亡人となるからだ。
「今日は来れますか?」
「1時頃に行くわ」
「分かりました」
俺とサヤカさんは3日に1度ぐらいのペースで逢瀬をしている。
キク婆ちゃんは朝早くから仕事し、お昼を食べたあと昼寝をする。
そして夕方4時頃起き、花卉の水やりをしにまたビニールハウスにやって来る。
アカネも同じぐらいに高校から帰って来るので、それまでが俺とサヤカさんの逢瀬時間となっている。
「こんな事をしてたらいけないわ、お
「俺も手伝いに行きますから」
「えぇ、待ってるわね」
そう言ってサヤカさんはもう一度俺とキスをしたあと、少し大ききめ目の尻をフリフリしながら、キク婆ちゃんがいる花卉ハウスの方に小走りに駆けて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます