第2話 もののべ・てんごく
学校から帰る。
師匠の家に向かう。勿論そこには誰もいない。ドアチャイムのボタンを押しても、玄関をドンドンと叩いても……。
彼はいない。
誰もいない。ここには誰もいない。
……………………。
………………。
…………。
……。
「違う」
頭の中で直感が弾け飛んでいる。感知能力、認識能力、視覚、聴覚、嗅覚。共感性能力。それら全てがパンパンに駆動を始め、事実に従う奴隷のように。
師匠が言っていた……。
見ずとも、触れずとも、聞かずとも……ありとあらゆるこの世の全てを感知する男がいたと。
男の名は
「俺は百景種なのか」
玄関の戸を蹴り破る。
そして、2階にある和室へ登ると、そこに彼は居た。
「居留守を使ったら『おとなしく帰れ』の合図だよ、ハチ」
師匠の他に、老若男女バラバラの6人ほどの男女がいる。一瞥もくれずに俺は深呼吸をして、師匠を睨む。
「人を殺したんですってね、あんた」
「ああ。殺した」
「何故です。あの一家が貴方に何をしたと言うんです」
「なにも。ただ……うん、計画にね。必要な人材を……『愛する息子』だとか言ってね、渡してくれなかったんだ。だから殺して奪った。考えてみればすぐに分かることだと思うが……?」
「何故です」
「2度言わせるのか? ハチ」
呼吸がままならない。
「奪われた貴方が、何故……何故奪うんです」
「奪われたからだ。妻も子も……この世界はね、私から全てを奪うんだ。君もわかるだろ。奪われる苦しみは。君の父親は殉職した元警察官だ。滝八郎。君は」
「わかりませんよ。わかるわけないでしょ。……分かるわけないでしょ!! 自分が傷つけられたんだから誰かを傷つけてもいいなんて考え! わかりたくもないよ! あんたは自分勝手だよ! そりゃあ、恨みますよ! 悪人なんてこの世から消えればいいなんて思いますよ! 誰だって思うよ! 当たり前でしょ!? でも、だからって……だからってあんたがやった事を肯定する人なんて」
「此処に、6人もいる」
師匠は何でも無いように言った。
「人の話をしてんだよ!!」
「多数決だよ。此処で君の意見に賛同するものは居ない。しかし、私に関してはどうだろう。7対1だ。どう思う」
「ウンコの量が多すぎる! そうとしか言えませんよ!」
「決別か」
「当たり前でしょう!? あんたを警察に引き渡して」
「私は警察を殺すよ。法の犬を殺すよ」
師匠の目に光はない。
「俺は貴方を許さない」
「許さなかったらどうするんだ。たかが子供ひとりの癇癪で、私は……」
「俺は2度も父を失うんだ」
「君の父はひとりだけだろう」
「俺は貴方の事、父親のように思ってたんだ……! 貴方はおかしな物が見える俺を笑わなかった! それどころか力の使い方を教えてくれたんだ! 貴方のような人に父親になってほしい! ほしかった! 母さんを騙さないで、陰で笑ったり、殴ったりしない立派な人だと思ってたから!! だから!!」
「買い被るね」
「何故……自分勝手に人を殺せるんだ。何故……何故!!」
「人を殺していけないか」
目の前の男は、小さくため息をつくと、「霊能異理」と唱える。すると目の前に相当の怪異が現れた。それは行方不明の張り紙に見たことのある顔。
桜島一郎と桜島次郎だ。
「物部……天獄……」
「ギギギ、イギキィィィ……ジィ、ジディ……ゴロジデ……イヂャイ……イイイイイイイ!!」
「物部、天獄……」
「やれ、宿儺」
「物部天獄! 貴様!!」
宿儺と呼ばれた子供達の首を掴み、2つに引き千切り霊力を流し込むとその体が再生された。
「なっ!?」
物部天獄は驚き、俺はその顔面に拳を叩き込んだ。
「こいつ……!! 物部様に」
「うるさいんだよ!! 外からいきなり現れてぐちぐちと」
後ろから飛び掛かってきた老人の腹に回し蹴りを叩き込むと、硝子を割って露台に転がった。
「貴様が軽々しく命を散らすなら、俺はこの手で貴様が散らした命に祈りを捧げるよ!! 貴様のような人間が日の目を浴びないように、俺はこの魂が尽きようとも、この命が汚れようとも、決して必ず絶対に諦めてやるものか!!」
「チィ……
「あいよォ! 霊能異理〈
突如扉が現れると、物部天獄とその賛同者たちはその扉に吸い込まれていった。
「小賢しいんだよ!!」
俺はそのうちのひとりの脚を掴み、思い切り壁に叩きつけた。扉が消えると、俺は思う存分にそいつの四肢を降り砕き、階段まで連れていくと蹴り落とした。
「君達もはやくこんなゴミ溜めから出よう! 立てるかい!?」
桜島兄弟は泣き腫らしていた。俺はふたりを抱えあげると、階段を降り、1階にあった電話機が繋がっているのを確認してすぐに伊達刑事を呼びつけた。
「此処に物部天獄が……!?」
「はい。このふたりを連れていましたので、保護を優先しました」
「なるほど……して、床に転がっている両手足を砕いている女は……?」
「6人いる物部天獄の賛同者のうちのひとりです。逃げようとしていたところを捕まえて俺が四肢を砕きました」
「…………君は……」
伊達刑事が何かを言おうとしたので、それを遮る。
「俺は……あの男を止められませんでした。俺はあの男のいちばん近くにいたのに、心の闇に気づけませんでした。やろうとしている事に気づけませんでした。異常性に気が付きませんでした。最後まで自分にとって都合のいい父親代わりなんて思って、甘えようとしました。伊達刑事。止めないでください」
やりたいことと言えば、特に無かった人生だ。「高校を卒業したら農機メーカーに就職しようかな〜」とか「勉強しまくって進学して、市役所にでも就職したら母さん楽できるかな」とか、そんな事を考えていた。
でももう違う。観点な未来なんてもう見えない。俺は百景種の人間だ。やるべき事はわかってしまう。
「物部天獄は俺が殺します」
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