第二夜

 こんな夢を見た。

 自分は、御畳瀬みませ漁港を歩き出て、桂浜の方に歩いていた。周りの風景はやけに古臭く、茅葺かやぶき屋根の家もちらほらと見える。時間帯的には、夜のとばりが下りて間もない時のようで、月の光で薄っすらと周りの様子が伺える。

 しばらく歩くと、何やら武士のような恰好をした男たちが、刀で切りあっているような場面に出くわした。自分は、何故か恐ろしいとは思わず、横を素通りするのであった。切りあっている武士たちも、誰一人として自分に気づいた様子はなく、何かとても殺伐さつばつとした様子である。

 さらに、進んでいくと浦戸大橋が見えてきたのだが、丁度、そこに木で出来ているらしい大きな船が、信じられないことに橋をすり抜けて、浦戸湾に入ってこようとしているところであった。よく見てみると、その船は、壊れているようでどうやら漂着したらしいことが分かった。乗っている乗組員たちはどうやら、日本人ではないらしく、異国の言葉で何か叫んでいるようであった。しかし、その叫んでいる言葉には誰も反応せず、虚しく月光の中消えていくのであった。

 私は、桂浜の坂本龍馬像のところまで歩いていた。そこには、坂本龍馬の大きな像は無く、その下に像のような恰好をした男が一人、月を見ていた。自分は、彼に歩み寄ると、彼は、こがに立派に作ってもろうて嬉しいけんど、恥ずかしいねや。わしらは、ただ、自分が生きるために精一杯頑張っただけや。あの月が、ただ夜を照らしちゅーように。と云う。そして、ついちょいでというと、桂浜の方に歩き出した。自分は、それに着いて行き二人で桂浜の砂浜で海を眺めた。

 長い間、彼と無言で海を眺め続けていると、月を一筋の雲が覆い隠し、辺りは真っ暗になった。そして、一度、雲が晴れ始めるとまた、辺りは月光で薄明るくなった。ふと、坂本龍馬の像を振り返ると、彼は、いつの間にかそこに立っており、元からあったように佇んでいるのであった。しかし、何処か遠くから風に乗って幽かに、男たちの悲鳴と刀のぶつかる音、そして、異国人の悲鳴が聞こえてきたような気がした。そして、その音が消えた時、耳元で豪快な男の笑い声がしたような気がした。月は、相変わらず桂浜を冷たく照らしているのであった。

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よさこい夢十夜 西野園綾音 @nishinosonoayane

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