シーン3:遭遇

 冬の夜の冷たい風が肌を刺し、街の灯りが遠く霞んで見える中、私は途方に暮れていた。行くあてもなく、ただひたすら歩いているだけだった。ノクスは私の隣で黙って寄り添い、モーヴェは時折辛辣な言葉を投げかける。しかし、次の一歩がどこへ向かうべきか、私はまだ決められずにいた。

 

 そんな時、不意に前方から数人の浮浪者が姿を現した。彼らは酔っ払い、声高に笑いながらこちらに近づいてくる。私の心は一瞬で警戒心に包まれた。ノクスが低く唸るが、浮浪者たちは全く意に介さない。

 

「お嬢さん、こんな夜中に一人で何してるんだ?」一人が私に近づき、いやらしい笑みを浮かべた。

 

 私は後ずさりしたが、背後の壁にぶつかり、逃げ場がなくなった。冷たい夜風が、私の心をさらに締め付ける。

 

「こっちに来いよ。俺たちが楽しいことを教えてやるよ」浮浪者の手が伸びてくる。心臓が跳ね上がり、恐怖が全身を駆け巡る。

 

 だが、その瞬間――

 

 ノクスが一瞬、低く「エレナ、集中して」と囁いた。私は無意識に手を上げ、内なる力が爆発する。目の前の浮浪者は吹き飛ばされ、地面に倒れ込んだ。驚いた他の者たちは逃げ出す。

 

「大丈夫、エレナ。君ならやれるよ」とノクスが優しく声をかける。

 

 でも、不思議と絶望感はない。もう私が壊してしまう家も家族もないのだから。浮浪者を倒した私は「私、冒険者ってものになってみようと思う」とノクスとモーヴェに言う。ノクスは「いいんじゃないかな」といい。モーヴェは「やぶれかぶれだな。でも、何もしないよりいい」といった。

 

 私にできることは、一人になること。そして力を暴走させること。それだけだ。そして、それを活かせる場所を見つけなくちゃならない。そう決意した。

 

 だけど、なんでだろう。もう、私には何もないのに。なぜ、こんなにも足掻こうとするんだろう。いつもそれが不思議だった。

 

 もう夜も遅い時間、冬の寒い中をどうにか凌ぐ術を考えていると、ふと何もかもが止まったような感覚になった。

 

 屋根の上から視線を感じて見上げると、そこには白い鳩がじっと私を見つめていた。冬の夜の冷たさの中で、その鳩の存在は不思議と温かい光を放っているかのようだった。

 

 その瞬間、鳩以外の存在や物体がすべて消え、世界が一瞬静まり返ったように感じた。心が澄み渡り、清々しい気持ちが広がった。その鳩の名前が頭に浮かんだ。

 

「ルーミエ…」

 

 私の中にその名前が静かに刻まれた。鳩は何も言わず、ただ静かに私を見つめていた。まるで新たに生まれ変わったような感覚を覚えたが、その後、鳩は静かに飛び立ち、私はその後ろ姿を見送りながら、心の中に新たな決意を感じた。


 気づくと夜は過ぎていて朝になっていた。小鳥の鳴き声と突き刺すような寒さが現実感を与えてくれる。

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